ウィル座での出会い
ユマと共にジラセはウィル座の劇場について、座席に座った。
ウィル座は、座席数が五十席もある都市最大規模を誇る劇場。
音が全体に響き渡るような構造になっていた。
当然、外部には漏れないような造りにもなっている。
ジラセは席に座り、キョロキョロと周囲を見回した。
席はぎっしりと埋まっており、盛況である事が分かった。
そして隣に座ったユマのさらに隣にある女性に気づいた。
その姿を見た彼は急に激しく興奮した。
身なりとして首飾りをしている。
その中央部分に落ち着いた茶系統の紋章━━巻物と矛━━をしていることから貴族であることの証であった。
(か、彼女はレ=メゾン国有数の冒険家の一人であるルンルン卿じゃないかな?)
彼の視線に気づいたのか、その中年の彼女はニコリと微笑んだ。
彼はユマを無視して話しかけた。
「間違いだったらすみませんが、貴女は冒険家のルンルン卿でしょうか?
僕はその冒険家を目指しているジラセです」
興奮によって彼の両手は発汗したり乾いたりを繰り返した。
完全に狼狽えていて心の準備ができていなかった。
ルンルン卿が左目を彼の方に向けた。
その深い色合いが彼の想いを推し測るよう感覚を抱かせると共に恐怖心を与える。
彼は腹底に気合をこめると、負けないように静かに重く言葉を続ける。
「僕は今十三歳です。
そして十五歳までに冒険家に就ける権利を、父上との勝負で勝ち取ってみませす。
だから今のこの時に僕を弟子にすることを約束してください」
ルンルン卿はジラセの茶色の眼をじっと静かに見詰めた。
まるでその瞳の奥に燃え盛える覚悟を読み取りたいかの如くに彼は感じた。
「確かに私はそうだし、分かったわ。
十五歳までに冒険家に就任出来たらその約束を果たさせてもらうわね。
あと、隣の恋人さんはそれに納得しているのかしら?
冒険家は未踏の地を歩んで新たな勢力圏の拡張を図る事も多い職業なの。
つまり彼女の想いを無下にしてしまう訳にはいかないからね」
ルンルン卿の言葉にユマは一気に赤面した。
(まったく、自分で未来の妻だっていってるくせに。
他人から恋人同士だと扱われると恥ずかしがるのかよ)
ジラセは脳内で流れるような思考を生み出した。
それから、ルンルン卿との間に協定文を交わすことを約束させる事に成功した。
そして、その文面を静かに黙読してから彼は懐に大事にしまった。
舞台の垂れ幕が左右に開かれて、何処からか荘厳な調べが流れてくる。
独立戦争での英雄たちを描く演目として申し分のない音楽であった。
ジラセは音楽の出所は舞台の後方だと目星を付けて、演目へと意識を移した。
舞台の垂れ幕が左右に開いて二人の青年の男女の出会いの物語が紡がれていく。
レ=メゾン国に居を有する者なら誰でも知っている英雄譚が始まった。
彼の名はレイ、そして彼女はメゾ。
未来に向かってこの二人の交わりが、この国の独立の要であった。
そして二人が老舗の酒場で膝詰めにして仲間はおろか、周囲の住人も巻き込んでいく様子が流れていく。
これにより、独立勢力は国民の一部とはいいつつも多数派の支援を受ける事が出来た。
ジラセは時たま隣に座っているユマの観察をしながら舞台を眺める。
彼女は興奮しているのか、一心に凝視している。
視線も動かずに胸元も呼吸を忘れているかのように動きを彼の目では確認できなかった。
そして山場のかつての宗首国であるラーディン=ガル国の首領達に声明文を叩きつける様子が演出される。
首領は使者であった者の首を刎ねて、憲兵隊の主力に出撃の命令を出した。
それと同時期に起きた女神の大乱令により大きく膨れ上がった軍団。
その主力を撃退し、さらに反抗する為の部隊を展開させた未来のレ=メゾン国の部隊。
それらが激突し、粉塵が舞いそして兵が死んでいった。
成人の国民全部が兵士。
下手をすると、全国民を喪ってしまうかもしれない、その過酷さをジラセらは脳内に刻み込んだ。
「ルンルン卿は、嘗ての女神の大乱令に参加した事があるのですか?」
そろりそろりと言葉を紡ぐユマ。
卿は言葉の代わりに笑顔を彼女に向けて返事の代わりとした。




