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相談と決意

「私が呼び出されたのは何でかと思って、期待したけど」


 ジラセの幼馴染のユマが、都市レ=メゾンの小さな喫茶店である喜望喫茶の彼の顔を身ながら溜息をついた。

ジラセは、手にした茶を飲みながら答える。

「相談事を伝えられるだけマシだって気づけよ。

無関心だと呼ばれもしないさ」


 彼女の双眸が上下に細められて、爬虫類の様に見えるようになった。

まるで正面に座った彼を威嚇するかのように少年は感じ取った。

といっても、怯えを抱くほどの恐怖心を感じることはなかったのだけど。


「本当にお前は直ぐ感情をあらわにするよね? 

それがやはり吟遊詩人に就きたいというユマの拘りなの?」

彼女は幼馴染の少年の言葉を聞いて溜息をついて、頬杖をつく。

何か、深い思索に入っている思想家の様な雰囲気を与えた。


「私はこれでも、恋する乙女なのよ」

「何だって?」


 ジラセの問いかけを彼女は苦笑しながら無視すると、手を挙げた。

そして、店員にさらに商品を注文している。

ジラセは茶の水面に浮かぶ表情を眺めながら呟いた。

誰にも伝わらないような程の小声で。

「このままのペースでは冒険家に就けることなく、只の役所勤めで終わってしまう。

何か成長のための切っ掛けを掴まないと……」


「ジラセ! 

この美味しそうなケーキ見てよ! 

リン=ジェンを占領してから獲得した菓子なんだって、それで私初めて見たんだわ」


 能天気な声音で歓声をあげるユマ。

ジラセは幼馴染のその様子を見詰めながら嘗ての想いを取り戻しつつあった。

そう、来年もまた父親であるザッカスと勝負を得る機会が巡ってくるということを。


(もう一年、いや今は秋季の終わりの頃。

冬季と春季をだらだら過ごすのではなく自らを鍛え上げれば━━可能性は零ではないかも)


 彼の瞳からは一時的に浮かんでいた迷いは消え去った。

そして、その茶色の虹彩は澄んだ色調を湛えた。

ユマの手を握り言葉を強めて彼女に感謝した。

「ユマ、ありがとう。

悩んでいた事が些細なことに思えてきたよ。

同期たち約束も必ず果たしてみせるさ。

彼らの為だけではなく、当然自らの夢の為にも」


「お姉さん、会計を頼む」

ジラセはユマを見ることなく卓札を手にして立ち上がった。

その姿をみてか、慌ててユマも立ち上がる。

「ねぇ、ちょっと待ってよ。

この後の約束は破るの?」


 ジラセは不思議な眼差しで顔を傾げた。

まるで、その言葉を今始めて聞いたかのように。

それから、食卓を叩いた。

彼としては気分を盛り上げる目的で行ったのだった。


「覚えているさ。

相談に乗ってくれたんだからね、でどこに行くのかい? 

僕のお勧めでいいのなら……」


 ユマは燃え盛る炎を冷ますような水のような色の双眸を細めた。

そして、懐から一枚の白黒の文字と、三色でイラストが印刷された用紙を彼の顔の前に晒した。

彼は上から下へその用紙を流れるように眺める。


『ウィル座による創立三十年記念祭公演

独立したレ=メゾン国で、初めて独立戦争での英雄たちを演じた劇団』


 とさらにツラツラと刻印された文章とともに一個の大きな座を表すデザイン。

一本の旗竿と男性の横顔が描かれていた。


「ウィル座はね、初代座長が男性であるザルキ様だったの。

その彼の息子が今では座長なの。

その彼の技術の粋を集めた演目は、芸事を職にしている者としては鑑賞しないといけないわ!」


 ジラセは横目に印刷用紙を見ながら気合の入らない視線を見せた。

その表現方法はとても露骨であった。

それから静かに彼女は銀食器上のケーキにケーキフォークを差し込んだ。


 ジラセは諦めめながらもう一度席に座りなおした。

その顔はもう呆れ果てるのか苛立っているのか、何ともいえない表情をしている。


 彼は店内の客に視線を移した。

客層も夕方のせいか、彼らより若干年上が多そうだった。

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