一章 第三通 水瀬凛と水瀬悠人
『水瀬悠人』
そこには、確かにそう書かれていた。
今までこんなことはなかった。
死者の手紙は伝えられなかった言葉を伝えるために届いていた。それは間違いない。
ただ、僕は水瀬悠人に会ったことはない。
話は水瀬凛が転入してくる1日前に戻る。
1日遅れで提出したプリントを机の中に入れようとした時、机の中に白い封筒が入っていた。
宛先は僕の名前。
差出人は水瀬悠人。
最初にそれをみた時、僕はそこまで気にしなかったが、よく考えると変な話だ。
僕はこの人を知らない、、、はずだ。
ただ、手紙は間違いなく僕に宛てられている。
会ったこともないはずの男から。
僕は、どうしてもその内容を見なければいけない。そんな気がした。
深呼吸をする。
…怖い。だけど、見ないといけない。
満を持して封筒を切り、手紙を取り出す。
手紙を開くとこそこには、、、、
次の日。
僕は教室の前で水瀬が来るのを待つ。
水瀬が来た。今日も傘を持っている。
雨は降っていないのに、傘を。
水瀬は僕に気づき少し顔を逸らして通り過ぎようとする。
「水瀬。」
僕が声をかけると、水瀬は少し驚いてこっちを見る
「…なんですか。」
「話がある。昼休み、屋上に来い。」
水瀬は少し考えた後小さく頷く。
「わかりました。」
午前中の授業はあっという間に終わり、昼休みになる。
いつも通り冬馬が僕の席に来る。
「悪い。冬馬。ちょっと屋上に用事あるから、1人で食っててくれ。」
冬馬は少し驚いた顔をして僕の肩を叩く。
「水瀬のところ、行くんだろ。また泣かせんなよ?」
「るせー。」
屋上に向かう。
扉を開けるとすでに水瀬がいた。
フェンスにもたれ掛かり、空を見上げている。
「何してんの。」
僕が声をかけると水瀬はこっちを向く。
「雨、降らないかなって思って。」
水瀬は立ち上がって俺の目の前に来る。
「それで、お話って?」
「水瀬。これからお前に父親からの手紙を渡す。」
水瀬は少し驚いた顔をする
「どうして、、、?」
僕は水瀬に僕に宛てられた水瀬悠人からの手紙を見せる。
「それって、、、」
「水瀬悠人は、お前が転入してくる1日前に僕に手紙を出していたんだ。で、それを読んだ。その内容は、、、」
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僕は意を決して手紙を開く
『届出手紙くん、ならびに便ヶ丘高校1年C組の皆様。
直接お会いしてご挨拶できないこと、心よりお詫び申し上げます。
私は、明日この学校に転入する水瀬凛の父、水瀬悠人と申します。
あの子は少々気難しいところがあり、皆様とぶつかり合ってしまうこともあるかもしれません。
それでも、どうかあの子のことを温かく迎えてあげてください。
そして、できることなら、あの子と仲良くしていただければ幸いです。
勝手なお願いで大変恐縮ですが、どうかよろしくお願いいたします。
敬具
水瀬悠人』
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「お前のお父さん。水瀬悠人は、僕たちにお前のことをよろしくという手紙を出したんだ。」
水瀬は黙って俯いている。
「僕の経験だと、今まで同じ差出人から2回手紙は来たことがなかった。つまり、一度しか手紙が出せないという可能性もあったわけだ。ただ、お前の父親はそれでも僕たちにお前を頼むという手紙を出した。
……自分がお前に直接伝えられなくても、誰かにお前を支えてほしかったんだろうな。お前がこれから幸せになれるように」
水瀬は俯いたまま震えている。そして時折鼻を啜っている。
「それを見て、気が変わった。届けまいと思っていたけど、これを見て届けたいと思った。」
手紙を水瀬に渡す。
「読め。お前のお父さんがお前に宛てた、最後の手紙だ。」
水瀬はゆっくりと封筒を開き、手紙を見る。
『凛へ
あの日、凛の進路に反対してごめん。ただ、お父さんは怖かったんだ。
凛がいなくなってしまうことが。凛がお父さんやお母さんのことを忘れてしまうことが。
だからもう少しだけ一緒にいたい。そう思ってしまったんだ。
凛の進路を否定するつもりはない。
凛は凛のやりたいことをやってほしい。
お父さんは凛のような娘を持ったことを誇りに思います。
体には気をつけて、お元気で。
愛してる。凛。
水瀬悠人』
ぽつりぽつりと手紙に涙が落ちる。水瀬は震えながら何度も手紙を読み返している。
「お父さんは、お前に幸せになって欲しいんだな。
そう思っていたからこそ、お前とぶつかり合ってしまったんじゃないかな。」
「お父さん、、、お父さんっ、、、、、、、」
僕は水瀬のその様子を見て、初めて、
『ああ、、届けてよかった。』
そう思った。
しばらくして、水瀬が泣き止む。
そして僕を見て言う
「届出くん、、、こういう手紙ってよく届くんですか、、?」
僕は少し顔を背ける
「まぁ、そうだな。」
またあれを言われるのだろうか。『あなたが羨ましい』と。
「届出くん。」
「、、、なんだよ」
「手紙を届けるお手伝い、させてくれませんか」
「、、、、え?」
全く予想していなかった言葉だった。そんなこと今まで一度も言われたことがなかった。
「私は、これを読んでお父さんとちゃんとお別れができた気がするんです…だから、もしそんな手紙が他にあるなら、ちゃんと届けてあげたい。ただ、きっとあなた1人で全て抱え込むのは大変でしょう。
だから、私にそのお手伝いをさせてほしいんです。」
僕はただ少し、嬉しかった。肩の荷が少しだけ降りた気がした。
「、、、お前のお父さんにお前を任せられたしな、、、仕方なく、だぞ。」
水瀬は俺の手を取る。
「ちゃんと、届けましょうね。」
僕は少し顔を背ける。
「わーってる。まぁ、届けるのも悪くないって思ったしな、、」
「では、これからよろしくお願いします。ところで、、」
、、、、?なんだろう。何か伝えなきゃいけないことあるのかな。
「『お前』とか『水瀬』とか少し他人行儀だと思うんです。ぜひ、凛って呼んでください。」
僕は、はぁとため息をつく
「なんだ、、そんなことかよ。よろしくな、、凛。」
「はいっ、よろしくお願いします。手紙くん」
凛はニコッと笑う。
不覚にもその顔を見て少しドキッとしてしまったのは凛には内緒だ。
僕たちが屋上から教室に戻ると僕の席が少し震える。
「凛。早速手紙来たっぽいぞ。」
「そのようですね。見てみましょうか。」
そう言って凛は僕の机の中から封筒を取り出す。
宛名にはこう書かれている。
『佐々木 柚子』




