第59話 圧倒的な結果
イリスの実技試験は、圧倒的なものだった。
実技試験官として対戦した格闘系ミスリル級冒険者が、一方的に殴られて続行中止になったのだ。
試験としては、イリスが、いくら殴り系治癒士という肩書きとはいえ、あくまで補助的に戦闘をどのくらいできるかの確認だった。
しかし、専門職の相手を殴り倒してしまったのだから、立ち会っていたギルドの総帥や冒険者達は、呆然としている。
そんな中、ユキタカと聖女セイが拍手をした事で、ようやく他の者達も、この驚異的な強さを持つイリスに、歓声を送るのだった。
「結果発表は、内容を精査してから、後日発表予定だったんだが……」
冒険者ギルド王都本部総帥が、試験を終えたイリスに、早速、声をかけた。
「レベルもさることながら、戦闘力も専門である治癒魔法、そして、立ち回りも十分なものだ。対人だけでなく、対魔物の戦闘経験もかなり積んでいると判断した。文句なしで君は今日からミスリル級冒険者だ。私が総帥に就任して二十数年。君程、優れた者に会った事がない。これからも、誇りある冒険者として活躍してくれる事を祈る。──証明となる冒険者タグは、明日の発行に間に合わせるから、明日の昼、取りに来てくれ」
総帥は、イリスの手をがっしり握ると、賞賛した。
「ありがとうございます」
イリスは、真面目に握手に応じた。
そこへ、ユキタカと聖女セイが駆け寄る。
「イリス、おめでとう!」
「おめでとう! 私も早く昇格したくなってきたわ」
ユキタカと聖女セイは、イリスを祝福した。
「……ところでそちらの二人。いや、そちらの君。レベル「01(いち)」というのは、本当かね?」
総帥は、疑いの目をユキタカに向けた。
「はい? ──ええ、まぁ……。レベル1と言えば1になるのかなぁ……」
ユキタカもさすがに、「101です」とは言えない。
レベルだけは凄いが、鑑定でも表示されないし、無能力だから、レベルを自慢しても、それが全く意味ない事は本人がよくわかっていた。
「君達はチームだと聞いたが、それも本当かね?」
総帥の目は鋭さを増す。
「はい。現在は三人のチームです」
ユキタカは質問の意図がわからず、素直に答えた。
「ふむ……。治癒士二人に、レベル1の棒術使い……。こう言っては何だが、バランスが悪いし、君もイリス何某殿におんぶに抱っこでは、申し訳ないだろう? うちで君達それぞれに合ったチームを紹介するから、検討してみないか?」
総帥はイリスが冒険者ギルドの宝になる人物と考えて、将来の為に、チーム解散を勧めた。
「……いえ、それは結構です。これでも、バランスは取れています。僕が前衛、イリスが中衛、セイが後衛。それぞれ、しっかり立ち回っているので、ご心配には及びません」
ユキタカは、ようやく総帥の考えを察して、はっきりと断った。
「しかし、だな?」
総帥も食い下がる。
イリスのような人材は、とても貴重だ。
まだ若くてこの強さなのだから、これからも伸びる可能性は高い。
総帥としては、カールセン王国冒険者ギルドの看板冒険者に育てていきたいのだ。
そうなると、レベルが低く将来が見込めないユキタカと組ませているのは、成長を阻害すると考えてもおかしくない事だった。
「勝手な話をしないでください。私は、ユキとセイさんのチームに満足しています。それに、ユキは私などより、断然強いです!」
イリスは、総帥とユキタカの間に入った。
「レベル1の彼の為にも言っているのだ。君と彼とでは差があり過ぎる。自分に合ったチームに所属する事が、お互いの為にもなる。イリス何某。彼の成長を妨げてはいけない」
総帥は、完全にユキタカの質素な恰好から、装備にお金をかけていないのは、歴然だと思った。
レベルが1なのも、パーティーメンバーに入らず、二人だけに戦闘を押し付けていると、総帥は内心で確信していた。
「……じゃあ、腕試し、しましょうか。僕がレベル「01」でも戦えるところを示せばいいんですよね?」
ユキタカは埒が明かないと考え、提案した。
「(おっ? 意外に自分からのって来たな。女性陣の手前、ここまで言われると、退けなくなったか?)……ならば、対戦相手として、うちに所属しているスチール級冒険者を、今すぐ呼ぼうじゃないか。──そこの君。確か、スチール級だったな?」
総帥はユキタカに言い訳を考える暇を与えないように、話を進めようとした。
ちなみに、スチール級とは、ウッド級、アイアン級の上のランクである。
基準となるレベルとしては、6レベル以上だから、腕試しの相手としては妥当な線だろう。
ユキタカが、本当にレベル「1」ならばだ。
「いえ、先程のミスリル級冒険者チームの方で構いませんよ?」
ユキタカは、半端な事はしない方が良いと考えた。
「はははっ、実力差が大きい相手と、戦わせるような危険な真似は、させられないな」
総帥にしてみたら、ユキタカが圧倒的に強い相手に負けても、言い訳を与えるだけだと考えた。
「これは、僕達パーティーの名誉の問題です。はっきり言いますね。そちらの失礼な態度が嫌なので、ミスリル級冒険者でお願いします」
「……後悔しても知らんぞ? ──カマン・セイヌ君、相手をしてあげてくれ。手加減は不要だそうだ」
総帥は、イリスに寄生する最低なウッド級冒険者(だと思っている)に、容赦は必要ないと判断した。
イリスは止める様子がない。
聖女セイも同じだ。
どうやら、女性陣二人は、このウッド級冒険者から、本当は逃げたいのだな……。もしかして、この男、隷属系のスキル持ちか?
総帥は、二人の様子を誤解し、正義感から二人を助ける為に、考えを巡らすのだった。
「そんな……馬鹿な……」
総帥や立ち会った冒険者達は、愕然とした。
冒険者ギルドが誇るミスリル級冒険者達がまたしても、敗北したからだ。
相手は、『ウッド級(素人クラス)』冒険者である。
そんな弱いはずのユキタカは、あっさりと最初のミスリル級冒険者の戦士職カマン・セイヌを、手にした棒(『神器・傘』が変化したもの)で、軽く突くと鎧を粉々にして壁まで吹き飛ばし、倒してしまった。
信じられない光景だった。
だから、仲間の剣士がさらにユキタカに挑戦し、また、呆気なく倒されてしまったのである。
「これで、僕がイリス達とパーティーを組むのに相応しい事が示せましたよね?」
ユキタカは、ざまぁができてスッキリとばかりに、笑顔だ。
「本当に君はレベル「1」なのか……? それに、君のスキルは、一体……!?」
総帥はユキタカの強さを理解したものの、鑑定結果はもちろん、どんなスキルなのか疑問しか残らない。
「何度鑑定しても、レベル01(いち)ですよ。スキルも棒です。それでは失礼しますね」
ユキタカは笑うと、呆然とする総帥達を尻目に、イリス達と冒険者ギルドを後にするのだった。




