第58話 昇格試験
大金を払ってイリスと聖女セイは、現状で入手できる最高の装備を得る事ができた。
特に、イリスの治癒士服は、『迷宮獄炎蚕蛾』というダンジョンにしか生息しない、強力な特殊魔物の糸から作られている。
これがどれ程のものなのかは、ユキタカ達の手持ちの財産の大半を投じて購入した事からも、相当貴重なものであるのはわかる。
名前の通り、火系魔法を中心に複数の攻撃魔法や時間魔法、さらには斬属性に対する耐性がある。
セイの神官服も多少、露出は多いが、神鉄オリハルコンを糸状にしたものを、特殊な布地に縫い込んだものだ。
各部位にもオリハルコンが使用されており、魔法、物理防御力はかなりのものとなっている。
「二人とも似合っているよ。これで攻撃力、防御力も上がったし、何よりレベルとスキルに相応しい姿になったんじゃないかな」
ユキタカは、イリスとセイの着替えた姿を見て満足した。
「この装備に相応しい活躍をしますね」
イリスは決意を新たにする。
「私は帰ってからもう少し、頑張らないと」
セイは億劫だったレベル上げにも前向きになっていた。
現金なものだが、頑張れと励ますより、余程効果的だった。
「明日の昇格試験、大丈夫そうだね」
ユキタカはイリスのミスリル級前祝いのつもりもあったようだ。
「ユキ、ありがとうございます。明日、頑張りますね」
イリスは嬉しそうに笑顔を浮かべるのだった。
カールセン王国冒険者ギルド本部地下施設会場。
「──それでは、冒険者イリス何某さんのミスリル級昇格試験を行います」
ギルドの職員が、ギルド総帥に代わって進行する。
ユキタカとセイ、柴竜種のマロは、関係者席で静かに見守っていた。
すでに、レベル鑑定や簡単な筆記試験が行われ、パスしている。
ちなみに、レベル鑑定では、イリスが「65」という信じられないような高レベルだった事から、立ち会っていたギルド幹部達が驚き、ギルド総帥を呼ぶ為に、一旦、試験が止まるという騒ぎになっていた。
そして、総帥も同席して筆記試験が続けて行われたというのが、これまでの経緯である。
筆記試験では、冒険者としての心得や、危険思考がないかを調べる心理テストのような内容だった事は、休憩中のイリスから聞いて確認していた。
そして、現在、イリスはその実力を試すべく、実技に移っていた。
ギルド総帥や幹部の視線は熱い。
イリスが本当にレベル「65」の治癒士なら、カールセン王国の冒険者ギルドで過去に例を見ない最強クラスの冒険者になる期待があるからだ。
冒険者ギルドは世界規模の組織だが、各国の王都に本部事務所を置いている通り、国単位で冒険者を確保して組織が成立していた。
イリスを自国で囲い込めれば、国としての格が上がるし、何より緊急時の戦力としても期待できる。
特に魔王が復活して侵略を始めた今、各国は冒険者を、一人でも多く確保したいのが現状だった。
「殴り系治癒士とは珍しいですな」
「前衛ができる回復系は、貴重ですぞ」
「彼女が本物なら、我がカールセン冒険者ギルドも、王家に対する発言力が増すというものだ」
総帥と幹部は、試験を受けるイリスに視線を向けたまま、話始めた。
「ところで、彼女の仲間はどのくらいなのだ? 装備するものを見る限り、神官姿の女も相当な手練れの可能性がある。男の方は……、あれは道案内の一般人か?」
「さあ? 対応した受付嬢を呼んできましょう。──おい、誰か、彼女達に対応した受付嬢を呼んできてくれ」
「わかりました!」
職員が一人、急いで呼びに駆けていく。
その間、イリスは攻撃力を測定する魔導具を二度破壊し、場が騒然となっていた。
一度目は故障だと思った職員が、もう一度、イリスに違う魔導具で確認した。
しかし、また、壊れた事で測定不可能な威力と判断したのだ。
「これは本物だぞ! 伝説級の冒険者がついに現れた!」
「総帥、落ち着いてください。これはミスリル級の昇格試験です。ギルド規定に則ると、この上のオリハルコン級へは、実績を積み上げて、最低でも一年後。伝説と言われているアダマンタイト級への昇格は、実績も含めて、各国の同意を得てからになるので、最低三年後になります」
「そんなもの、私の権限で何とでもなるだろう!? 特例でアダマンタイト級に──」
「それをやると各国の冒険者ギルド総帥から総叩きに遭います!」
幹部は総帥の暴走を止める。
「むぅ……、仕方がない……か。──ならば、この事は秘密にせねばならん。彼女を特別待遇で我が冒険者ギルド所属契約を結ばねば!」
総帥は、また、暴挙を口にした。
冒険者は必ずしも、その国の冒険者ギルド所属である必要はなく、隣の国に渡れば、簡単に所属先を変更する事も可能なのだ。
それを所属契約して固定する事は、冒険者の権利を侵害する行為になりかねない。
「総帥、それも各国のギルド総帥を敵に回します!」
幹部は慌てて止めた。
そこに、受付嬢がやってきた。
「おお、丁度いいところに来た。──君はイリス何某君の担当だな? 他の仲間の情報を簡潔に教えてくれ」
幹部は話をそらそうと、全員がいる前で受付嬢に聞く。
「……はい。えっと、女性の方も、杖殴り系治癒士で登録しています。レベルは『28』、ゴールド級ですね」
「あの若さでレベル『28』!? 『28』なら、プラチナ級も見えているじゃないか! こちらも将来が期待できるな。それであの地味な服装の男は?」
「あの男性は、棒術使いとして登録されています。レベルは……、『01(いち)』のウッド級ですね」
「「「『01(いち)』!?」」」
総帥と幹部は思わず声が揃った。
「はい……。それとなぜか、彼女達のリーダーみたいです」
受付嬢自身も理由が知りたいくらいだった。
「……女性を魅了するスキルでも持っているのか?」
「それなら、受付嬢も魅了されているはずでは?」
「そうなると、夜の方が強いという事か?」
「レベル『01』では、体力も限界がありますよ?」
「じゃあ、なんだ?」
「「「さあ?」」」
一同は、イリスの関係者として試験を遠目に見ているユキタカに、疑いの目を向けるのだった。




