第57話 買い物
ユキタカは処分に困っていた上級魔石を、大きな買い取り店で一部処分する事に成功した。
数的にはほんの少しだが、お金に替えるとかなりの量になる。
これまでずっと、みんなのレベルを上げも兼ねて、上級魔物ばかり倒していたから仕方がないが、売れずに困っていたのでかなり助かった。
それに、売った事は秘密にしてもらった。
あちらも、王家に秘密に卸すという事で、お互い内緒という事になったのだ。
これが市場に出回るとなったら、値崩れを起こして問題になりそうだが、市場に出ないというのはありがたいのだった。
「大金が入ったし、みんなの装備品を良くしたいところだね」
ユキタカは、イリスと聖女セイの装備を確認した。
イリスは辺境で買える良いものを装備していた。
セイは、トールデイン王都を出る時、元々与えられていた高価な装備品は一度回収され、程々の装備を与えられたうえで、出国していた。
二人ともそこそこの装備だが、スキルやレベルを考えると、もっと良いものを装備していてもおかしくない。
それに、王都には高価で性能が良い貴重な装備品が集まっている。
こんな機会は中々ないだろうから、揃えておいて損はないだろう。
「私はともかく、イリスさんは、強い魔物相手に接近戦もやっているから、良いものを装備してもらった方がいいかも……」
レベル上げの時、後ろで待機している側のセイは、申し訳なさそうだった。
「もう少し、レベルが上がったら、セイにも戦ってもらうつもりだよ。スキル的には全く戦えないわけじゃないしね」
ユキタカは聖女スキル持ちであるセイの肩の荷を降ろさせるよう、あえて戦わせる方向で話した。
「……そういう事ならわかりました。トールデイン王国で経験したけど、良い装備だと戦いやすいのは事実だし」
セイは真剣な顔になる。
こうして、三人と一匹は、次は武器屋と防具屋を巡る事にしたのだった。
「あの従魔、可愛い!」
「なんていう従魔かしら?」
「初めて見るなぁ。新種だろうか?」
王都の大きな武器屋で品定めしていると、注目を浴びたのはユキタカの背負う神器『ビジネスリュック』の中身だった。
柴竜種のマロは、見た目は豆柴の子供だから、愛くるしい事この上ない。
それは周囲の者も同じで、マロと視線が合うと、お店にいたお客はキュンとなる。
「変な目立ち方しているから、早く買ってしまおう」
ユキタカは苦笑すると、早々にイリス用のミスリル製の手甲、そして、セイ用に刃物が付いた同じくミスリル製の杖を購入し、お店をあとにするのだった。
防具店でも、マロの可愛さは注目を浴びた。
女性冒険者が無断で撫でようとして、マロに威嚇されたり、テイマーを名乗る冒険者に譲ってくれるよう迫られたりしながら、防具を見ていく。
イリスとセイはどちらも、動きやすいものという事で、布系の装備を探した。
広い店内にはそれこそ、ありとあらゆる系統の装備品が並んでいたが、しっくりくるものがない。
三人と一匹は店内の奥にどんどん入っていくと、客の数が減っている事に気づいた。
それに、客層も変わっていた。
冒険者と言えば、使い慣れてくたびれた感もある装備品に身を固めた集団が多い。
しかし、周囲にはいつの間にか、磨き抜かれた高価な鎧や盾、色鮮やかな高級服を着た強そうな冒険者ばかりになっている。
どうやら、上位ランクの装備品を置いている場所に来たようだ。
周囲の上位ランクの冒険者達は、見た目が控えめなユキタカ達を見て場違いと感じ、冷たい視線を向けてくる。
「感じ悪いから、とっとと二人の服を買って出ようか」
実は一番質素な格好をしていたのはユキタカだったが(神器の変装で質素になっている)、それには気づいていなかった。
「あれ、よくない?」
セイが奥のガラスケースに入っている服を指差した。
流石現役モデルだったセイというべきか、地味なユキタカでは選ばない、露出が多めのおしゃれな神官系装備が置いてある。
隣には殴り系治癒士用の動きやすそうな服が同じくガラスケースに入って鎮座しており、こちらにはイリスが目を輝かせた。
どちらも価格を見ると驚くくらい高かったが、買えない値段ではない。
「じゃあ、この二つをお願いします」
ユキタカは迷う事無く、店員に声をかけた。
これには、周囲の客がざわつく。
「おいおい、それは、プラチナ級やミスリル級冒険者並みの稼ぎが無いと買えない代物だぞ? ガラスケースから出させたら盗むつもりじゃないか?」
上級冒険者と思われる戦士がユキタカを見下して難癖をつけた。
「数か月後には私が買うつもりだったのに!」
その隣では治癒士姿の女性冒険者が、怒り狂っている。
どうやら以前から狙って、お金を貯めていたのかもしれない。
お客の冒険者達はもちろんの事、店員も同じ事を思ったらしく、警戒感を露わにして警備に声をかける。
「お金はありますよ?」
内心苦笑したユキタカは、神器『手提げ鞄』が変化した袋から、お金の入った大きな革袋を軽々と出して見せた。
「魔法収納付き袋に大金だと!?」
これには、難癖をつけた冒険者達も目を剥いて驚くしかない。
「し、失礼しました! 早速、ご用意します!」
店員は大金を前に目を輝かせると、警備にお願いしてガラスケースから服を取り出させるのだった。
お客がざわつく中、ユキタカは二人の為にお店で一番高いと思われる二つの服を買ってお店をあとにした。
「ゴトーさんのお陰で、嫌な冒険者の鼻を明かせたわね」
セイはこれ以上ないくらいの笑顔で、嬉しそうだった。
それに反してイリスは値段を知ってからは、申し訳なさそうな顔をしていた。
「イリス、どうせ、必要なものだから、気にしないでいいんだよ?」
「ですが……」
イリスは自分が物欲しそうな顔で見た事で、ユキタカに買わせてしまったという罪悪感があった。
「僕達で稼いだお金で買ったんだから、遠慮しないで」
ユキタカは笑顔で励ます。
「そうですよ、イリスさん。私なんて全然活躍していないのに、買ってもらったんだから。イリスさんが罪悪感持つなら、私は死なないと釣り合いが取れないです」
セイは身も蓋もない事を笑顔で告げる。
彼女にしたら、将来払うつもりでいたので、申し訳なくは感じていないのだ。
「セイさんは、スキル的にこの服は釣り合いが取れていますよ。でも、私はただの治癒士ですから……」
「「いや、充分釣り合っているから!」」
ユキタカとセイは、思わず同時にツッコミを入れる。
あまりにタイミングが良かったので、三人は視線を交わすと、笑ってしまうのだった。




