第60話 それぞれの冒険者タグ
昇格試験合格が言い渡された翌日の昼。
ユキタカ達と柴竜種のマロは、イリスのミスリル級冒険者の証であるタグを受け取りに、冒険者ギルドに足を運んだ。
イリスの活躍は、一晩で冒険者達に広まっており、一目見ようと人々が集まっていた。
「あれが、本部自慢のミスリル級冒険者を倒した『聖拳の治癒士』殿か! 想像より華奢で美人だな」
「殴り系治癒士かぁ。私も目指そうかな……」
「同行しているもう一人の治癒士も、かなりの美人だぞ」
「あの棒を持っている奴も仲間なのか? 貧相だな……」
「馬鹿、昨日の話聞いていないのか!? あの棒で他のミスリル級冒険者二人を軽く倒したらしいぞ?」
「マジか!? 何の変哲もない棒にしか見えないのに……」
「俺は現場にいたぜ。総帥が、ぐうの音も出ない程、一方的な戦いだったからな。あまりに呆気なくて、俺でもミスリル級冒険者に勝てるんじゃないかと錯覚するほどだった」
「へー……。そんなに強いなら、あの棒の兄さんもミスリル級なのか?」
「……それが、『ウッド級』らしい……」
「「「はぁ!?」」」
イリスを見に来た野次馬達は、地味で弱そうなユキタカの話題で盛り上がり始めていた。
「……なんか、動物園のパンダの気分がわかった気がする……」
ユキタカは、大声で自分達を噂する連中に、苦笑する。
「早く済ませて、王都観光しましょうか」
イリスは、申し訳なさそうにすると、受付に向かう。
受付にはすでに、総帥が待っていた。
ユキタカ達が、前までやってくると、
「昨日はすまなかった……!」
と深々と頭を下げた。
これには、ギルドのロビーにいた冒険者達がざわつく。
一冒険者相手に、総帥自ら頭を下げるというのは、あり得ない事だからだ。
イリスは、ユキタカが受けた仕打ちを許すつもりはなく、それを無視して受付嬢にタグの発行を求めた。
「は、はい……!」
受付嬢は、急いで、用意していたミスリル製のタグを盆に乗せて差し出す。
イリスはそれを受け取る。
「ま、待ってくれ! 昨日のお詫びと言ってはなんだが、私の権限で出来る限り、ゴトー殿のランクを引き上げさせてもらった」
総帥は慌てて呼び止めると、受付嬢に頷く。
受付嬢は、用意していたユキタカ用のタグを盆に乗せて出した。
「銅製のタグ……。という事は、カッパー級(一般・レベル9以上推奨)ですか」
イリスは、普段、人が好過ぎるくらいだが、ユキタカの事に関しては、厳しい態度を取っていた。
「これ以上は、実績を積んでもらうほかないんだ。それが冒険者ギルドの鉄則なのは、君もわかっているだろう?」
総帥は、イリスが不機嫌なので、慌てて言い訳する。
「みんなの手前もあるし、これ以上、総帥を困らせては駄目だよ。──総帥、よろしいんですか? 僕はレベル01(いち)ですよ?」
「……実力は、ミスリル級冒険者が相手にならない程の強さだからな。本当は、詳しいスキルを教えてもらいたいところだが、君の判断次第だから無理は言わない。……話す気はないのだろう?」
総帥は、すでに前日、一度聞いて、拒否されている。
「(昨日、『ただの棒術使いです』って言ったんだけどなぁ。そりゃ、信じないか……)スキルは申し上げた通りです。──では、お言葉に甘えて」
ユキタカは、カッパー級冒険者の証、銅製のタグを受け取った。
別に要らなくもないのだが、カッパー級からは、色々と冒険者ギルドの設備利用や、特典が付いてくるらしい。
冒険者御用達の買い取り屋や解体業者、宿屋など、割引が適用される仕組みである。
これまでは、イリスと聖女セイの権限におんぶに抱っこだったから、本当に助かるのだった。
それに、これを受け取る事で、総帥のメンツも保てるだろう。
これが一番の目的だ。
冒険者ギルド本部総帥を敵に回すのは、どう考えてもよくない。
イリスは、それよりもユキタカの名誉を守るつもりでいたが、お互い歩み寄れるところは、歩み寄っておいた方がいいだろう。
「ほっ……。ありがとう、ゴトー殿。本当に昨日は失礼した。君達のこれからの活躍に期待しているよ」
総帥は、ユキタカが大人な態度で接してくれたので、安堵した。
こうして、イリスの昇格は無事果たされ、そのついでに、ユキタカもウッド級からカッパー級へと異例の昇格を果たしてしまうのだった。
「私だけ空気だった……」
聖女セイは、二人の昇格に嫉妬した様子だった。
「セイさんもゴールド級じゃないですか。レベル28なら、もう少しで、プラチナ級も見えてきますし」
イリスが聖女セイを励ました。
「そうだよ? 僕なんかやっとカッパー級なんだからさ」
ユキタカは笑う。
「ゴトーさんは全て規格外だから仕方ないですけど、辺境に戻る前に、こっちのダンジョンでレベル上げできないですか?」
聖女セイは、二人に少しでも追いつきたいようだった。
「昨日までは、王都観光したいって言ってたのに」
ユキタカがこの元女子高生現役モデルを茶化した。
「それもしたいけど……。冒険者の本分は、冒険とクエスト攻略でしょ!」
聖女セイは冒険者らしい前向きな発言をした。
「はははっ。 ……わかった。それじゃあ、明日、近くのダンジョンに行ってみよう」
これには、ユキタカも茶化さない事にした。
やる気を見せているのに、わざわざ萎えさせる事を言う必要はない。
「ふふふっ。楽しみですね」
イリスは、笑顔になる。
ユキタカのリュックから顔を出したマロが、「ワン!」と吠えた。
「マロも喜んでいるわ。──そうだ、イリスさん、あとで、上級治癒魔法のコツを教えて」
聖女セイはすでに、優しいイリスを慕っていた。
こうなると、一人浮いてしまうユキタカだったが、楽しそうな二人のあとを、マロを抱っこして撫でながら、あとを付いて行くのだった。




