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第55話 王都を目指して

 ユキタカ達はイリスのミスリル級昇格の為、カールセン王都に向かう事にした。


 辺境の街であるキョウガイからは、半月以上かかる道のりである。


 だが、高級馬車を使えば、かなり、短縮できるという話だ。


 その辺りは、トールデイン王国と同じらしい。


「それじゃあ奮発して、みんなでカールセン王都まで行こうか」


 ユキタカが、自宅のリビングでみんなに提案した。


 イリスは笑顔で頷き、聖女セイも旅と聞いて喜ぶ。


 連日、格上の凶悪な魔物相手のレベル上げが精神的にきつかったらしい。


「あたしは留守番しておくよ。この家を一か月近くも留守にするわけにいかないでしょ?」


 ミスリル級冒険者ダフネ・サンセッドが、意外な申し出をした。


「ダフネさんどうしたの? 一番に賛成するかと思ったんだけど?」


 聖女セイが、ビックリして理由を聞く。


「しばらく、人の多いところはいいかなって。あたし、ミスリル級冒険者だから、カールセン王都に行けば、それなりに騒がれる事になると思うの。今はそういうのいいかな……」


 どうやら、トールデイン王都で戦力として留まるようしつこく勧誘された事にうんざりしてしまったようだ。


 辺境でしばらくは、ゆっくりしたいという。


「わかった。ここはダフネに任せるよ。でもいいの? マロは僕と一緒に王都に行くけど?」


「うっ……。それは……!」


 ダフネは思わず躊躇する。


 ダフネはこの豆柴のような柴竜種のマロにメロメロになっていたからだ。


 別の家に住んでいるとはいえ、敷地内の隣なのでマロには毎日会い、肉球を堪能していただけに、それができなくなるのは、辛い事だろう。


 それに反応するように、マロがダフネの足元までやってきて、尻尾を振った。


「くっ……! 止めてくれ、誘惑するのは! ──それでも、今は人が多いところに行きたくないんだよ」


 ダフネはマロの肉球と人混みを避けたい葛藤を天秤にかけると、ひと時の休息を選んだ。


「無理を言わないであげましょう。ダフネの言う通り、今のご時世、どこの国も戦力となる冒険者の勧誘は行われているみたいですから、嫌がるのもわかる気がします」


 イリスもトールデイン王国で勧誘されたから、ダフネの気持ちの一端は理解できた。


「今となっては、トールデイン王国が異常だった気もするけど……」


 聖女セイは、トールデイン王国のリッツ国王の執着心を思い出して、嫌な顔をする。


 国力となる勇者一行を召喚する事に成功して、リッツ国王は諸外国との外交にもセイ達を同行させ自慢する事があったのだという。


 それが原因の一端となり、遥か遠く離れた北の魔王国から、魔王軍が来襲して、王都を攻撃した。


 だから、慌てて魔王討伐に派遣するという口実で、勇者一行を放り出したのだったが……。


「わかったよ。それじゃあ、留守をお願いします」


 ユキタカはせっかくのパーティーメンバーだが、一時的な脱退を了承するのだった。



 ユキタカ一行は旅支度を整えると、二日後の朝には、ダフネに見送られて辺境の街キョウガイを出立した。


 高級馬車での旅は、安全な高速街道を疾走して快適なものだった。


 途中、街道の使用料を徴収する場所があるのだが、それも込みの高級馬車なので素通りである。


 他の馬車は、安全な高速街道の維持費となる使用料を支払う。


 高速街道は魔物除けの魔導具や道の整備、一定の距離で設置された『駅』の維持にお金がかかる。


『駅』には常駐する兵士や使用料の徴収を行う職員もいるので、タダではないのだ。


 お金の無い者はそれを避けて旅をするわけだが、当然、高速街道と並行して走る一般街道を利用するので、安全はあまり確保できない。


 盗賊や魔物が出没するからだ。


 それらを避けようと思ったら、当然、高速街道を選ぶのが正解である。


 ユキタカ達の場合は、早く移動する為に高いお金がかかる高級馬車を選んだが、色々と優遇されているのだった。



 カールセン王都まで、数日というところまで来ていた。


 途中の街で宿泊する事になり、大通りの食堂で夕食を取る事にした。


「ここまで来たのは初めてですが、食べ物も違いますね」


 イリスは、席に着く間に他のお客が食べているものを見た。


「楽しみだね」


 ユキタカも笑顔で応じる。


「見て! あれってハンバーグじゃない? 私、あれにする!」


 聖女セイは、稀人から伝わったと思われる料理に気づいた。


「本当だ! ハンバーグなんてこっちに来て食べてないから、僕もあれにしようかな……。って、メニュー見て! 価格が一桁違うんだけど……! でも、食べたいなぁ……。──あっ、メニューに『とんかつ』って書いてる!」


 ユキタカもセイも日本料理が恋しくなっていたから、メニューを指差して興奮するのだった。



 三人は先人から伝わったであろう日本料理を堪能した。


 稀人ではないイリスも、初めて口にする料理に満足気だ。


「──そういえば、聞いたか? カールセン王都での噂」


「聞いた。勇者召喚をやったらしいって話だろ?」


「ああ。でも、おかしくないか? 勇者召喚っていえば、多額の予算を使って行う一大事業。普通は秘密にする理由がないよな」


「俺の予想では、失敗したんじゃないかって思っているぜ」


「それなら、勇者召喚自体、秘密のまま外に噂として出ないだろ」


「じゃあ、勇者じゃなく使えないスキル持ちが召喚されたのかもな。召喚自体は成功したから、一時は表に情報が流れたんじゃないか?」


「それならあり得るな! 国が秘密にし始めたのも理解できる」


 隣の席で酒に酔って顔を赤らめた二人の会話に、ユキタカ達は顔を見合わせて驚いた。


「私達の他にも……」


 セイがつぶやくと顔をしかめた。


「魔王が復活しているからね。それに対抗する名目でこれからも、同じ事が各国で起きると思う」


 ユキタカは冷静にこの世界の状況を推察した。


「……早く、魔王を倒さないといけない……」


 セイが思わぬ事を口走った。


 セイは元の世界に戻る為の魔法陣研究を行うつもりでいたはずだからユキタカは内心驚く。


「セイは魔法陣研究をお願い、魔王討伐は僕がやるから」


 ユキタカは、当初からの目標を口にした。


「ゴトーさんにばかり、押し付けるわけにはいかないわ」


「押し付けるじゃなく、お互いできる事をやろうって話。僕には、神器があるから戦う事に優れている。そういう役回りなのさ」


 ユキタカは落ち着いた様子で、セイを説得する。


「……わかったわ」


 セイは元の世界に戻る研究が、必要な事だと重々承知していたから、渋々頷くのだった。

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