第53話 感覚麻痺
ユキタカ達は連日、冒険者ギルドのクエストを各自完了させると、その足で奈落の谷に下り、レベル上げを行い続けた。
ユキタカとイリスのレベルに変化は無かったが、ダフネ・サンセッドはレベル「43」から、「44」へ。
聖女セイは「18」から「23」まで上昇させる事に成功した。
「うーん……。本当に上がりにくいね。──四人と一匹では経験値も分散されるから、二組に分かれてみる?」
ユキタカが怖い事を提案した。
聖女セイとダフネにとっては、ユキタカとイリス、豆柴姿の柴竜種マロがいるから、こんな危険な場所に下りてこられているのだ。
前後を二人が守ってくれるし、マロは索敵阻害能力があり、強力な魔物もいち早く見つけてくれているから、危うい事態に陥らずに済んでいる。
二人にとって、この時点で、完璧な布陣の中に入れてもらえているという感覚なのだ。
「もしもの場合どうするんですか!」
聖女セイは慌てた。
編成的に、ユキタカはダフネと二人、イリスと自分、マロ辺りがチームになるかもしれないと想像した事もある。
「そう言われると困るけど……」
ユキタカは、地底でのレベル上げに感覚が麻痺していたが、聖女セイはもう少し上げないと危険かもしれないと脳裏を過る。
「ユキ。セイさんは補助系の魔法に強い聖女です。体力面に不安が残るので、まだ、止めておいた方がいいと思いますよ。それなら、このメンバーでダンジョンにいくのはどうですか?」
イリスは地底からダンジョンの壁を壊して深層に侵入するユキタカの反則級の技を匂わせた。
これはこれで、かなり感覚が麻痺してる提案だが、全員で潜るなら危険も軽減されるだろう。
ただし、ダンジョン深層の魔物は地底以上に強力である。
聖女セイのレベルだと、一撃で即死もあるから、危険な事は変わらない。
「ダンジョン? 潜るまでの日数が効率悪すぎないかしら?」
聖女セイは王都郊外にあるダンジョンに半年程、レベル上げの為に潜っていた経験があるからかなり詳しいので、まともな指摘と思えた。
「そうだな、あたしも同意見だ。あたしやセイのレベル上げができる深層ともなるとかなり深く潜らないと難しいと思う。そんなところ、簡単にはいけないから、準備も必要だよ?」
ダフネも聖女セイに同意した。
ユキタカとイリスは視線を交わすと思わず笑みが漏れるのだった。
ドゴーン!
ユキタカが神器『傘』を使って地底の洞窟に剥き出しになっているダンジョンの壁を破壊した。
「ようこそ、ダンジョンの深層へ」
ユキタカが笑顔で破壊した壁を跨いで告げる。
「「……!」」
聖女セイとダフネはあまりの驚きに口がポカーンと開く。
ダンジョンの壁が破壊不可能というのは有名な話だから当然だろう。
それを、容易く破壊するのだから、ユキタカの神器『傘』の威力は驚異的だった。
「さあ、二人とも、今日は時間もないので少し、体験してから帰りましょうか」
イリスも笑顔で、聖女セイとダフネの背中を軽く押して中に入る。
「……ユキなら、魔王討伐できるかもしれないよ」
ダフネは呆れた様子で破壊された壁から中に入った。
「……神器が凄いのはわかったわ。でも、ゴトーさん、感覚麻痺し過ぎ! 普通、破壊不可能なダンジョンの壁を壊そうなんて思わないわよ」
聖女セイは満面の笑顔のユキタカに呆れた様子で、穴からダンジョンに入っていくのだった。
転移ダンジョン深層の魔物は地底以上に強力な魔物が出現する。
冒険者ギルドは元々このダンジョンを数年がかりで攻略できると算出していたが、ユキタカがいなければ、数十年攻略は難しかったかもしれない。
深層から急に魔物が強力になるからだ。
さらにはユキタカが倒したから今は大丈夫だが、ダンジョンボスが、階層を関係なく移動して冒険者を襲っていたので、危険度も非常に高かった。
それを数日で攻略したユキタカとイリスが異常なのだが、未だに、攻略した後のこのダンジョンの深層に到達した冒険者は皆無だ。
そこを、今、チートな方法で侵入したユキタカ達一行が、魔物狩りを始めていた。
ユキタカが『神器・傘』で倒し、イリスとマロが聖女セイとダフネを守る戦い方だ。
最強の矛である『神器・傘』が、強力な魔物達を四散する。
そして、地底でも上がりづらくなっていた聖女セイとダフネのレベルが、また、上がるのだった。
「……数時間で45に上がった……」
ダフネが呆然とした様子で漏らす。
「私も23から28に上がりました……」
聖女セイもダフネ同様、面白いように上がるレベルにショックを隠し切れない。
地底の強力と思われた魔物でも、レベルが上がりづらくなっていただけに、このダンジョンの魔物が、さらにその上をいく強さと経験値を持っているという事だ。
王都の図書館や学者から学んだ魔物一覧にも出てこない未知の魔物ばかりだったから、きっと、未確認のものなのだろう。
つまり、魔物のランク的にはSランク以上の可能性が非常に高い。
「ゴトーさん、ここの魔物って冒険者ギルドで指定されているランク的にはどのくらいなのかな?」
聖女セイが控えめに聞く。
「どうだったかなぁ……。ちょっと待ってね?」
ユキタカは神器『手提げ鞄』から神器『眼鏡』を取り出す。
「あ、それって……」
聖女セイが一時期ユキタカの形見として預かっていたものだ。
ユキタカは、『神器・眼鏡』をかけると、倒した魔物を鑑定してみた。
「何々……、この魔物は『SSS+』になっていますね。四散しているから、『謎の魔物の死肉』の表示になっていますが……」
ユキタカが苦笑して、魔石を魔法収納に回収する。
「SSS+って……。そんなランク、王立図書館の禁書にも載ってないですよ……?」
聖女セイはもう、呆れ気味だ。
驚くのに疲れたと言っていいのかもしれない。
「名前が無いって事は、未確認の魔物って事だよ。それを討伐した人に命名権があるのだけど、その様子だと興味無さそうだね?」
ダフネも驚き疲れた様子で、苦笑している。
「そんな暇はなかったですし、この『傘』で倒すと、加減を覚えて慣れるまでは原型を留めない事が多かったので、命名する気にはなれなかったです」
ユキタカも苦笑すると、イリスも同調して笑う。
リュックに入っているマロもそれに付き合うように「ワン!」と吠えるので、それ以上、聖女セイやダフネはツッコまない事にするのだった。




