第52話 従魔の活躍
奈落の底でのレベル上げは、聖女セイとミスリル級冒険者ダフネ・サンセッドにとって、想像をはるかに超える光景が展開されていた。
ユキタカの『神器・傘』による無双はもちろんの事、殴り系治癒士であるイリスもその拳で、凶悪な魔物達を拳で粉砕していく。
だが、一番驚かされたのは、パーティーのマスコットキャラクターだと思っていた豆柴姿の柴竜種マロだった。
最初こそ、ユキタカのリュックの隙間から頭を出して可愛く吠えていたのだが、いざ戦闘になると、小さな翼をパタつかせて頭上に飛び出す。
そして、口から火炎息を吐いて魔物を一掃するのだ。
これには普段、可愛がっていた聖女セイも呆然としていた。
ダフネも新種の魔獣でユキタカの従魔とはいえ、その愛くるしい見た目からマロは癒しの対象だった。
しかし、強さが自分を遥かに超えるかもしれない攻撃力に、呆気にとられる事になる。
マロは、火炎の息に「熱い!」と反応した聖女セイを気遣うと、今度は、吠えて衝撃波を生み出したり、感触が最高の肉球で魔物を殴って四散させた。
「この子まだ、子供だよね……? 成獣になったらどうなるの……?」
ダフネは生後一か月も経っていないマロの暴れっぷりに、恐怖さえ感じる程である。
「ワン!」
マロは魔物を掃討すると、フワフワと浮遊すると定位置であるユキタカの『神器・ビジネスリュック』が姿を変えたリュックに飛び込んでヒョコッと頭を出すのだった。
「……マロはどこで拾ったんですか?」
聖女セイは、マロの見方がすっかり変わってしまった。
小さな体であれだけの攻撃力は、想像が追い付かない程だったからだ。
「未踏破の転移ダンジョン攻略で得た卵から孵化したんだよ」
ユキタカは教えても問題ないと思ったのか、サラッと驚く秘密を打ち明けた。
「「ダンジョン攻略で!?」」
二人は思わず声を上げる。
「ダンジョン攻略で得られる卵って、孵化した例がないと聞いていたのに……」
ダフネは愕然とした。
「僕は、この神器があったからね」
ユキタカはリュックを見せる素振りを見せた。
「……何もかも桁外れの話過ぎて、頭が追い付かないよ……」
ダフネはクラクラする思いだった。
「……でもなんで豆柴の姿なんですか?」
聖女セイが可愛い姿のマロをじっと見つめる。
「それは──」
実家で飼っていた豆柴の話をした。
ユキタカのイメージした姿で誕生した事を聞くと、聖女セイは目を輝かせる。
「じゃあ、私が理想の男性を想像したら、その通りになるという事ですね!」
「「「人は無いって……」」」
そこは全員がツッコミを入れる。
あくまで従魔だからだ。
人型で生まれたら、それは従魔というより、奴隷である。
それはそれで、想像外だろう。
「うっ……。その前提を忘れていました……」
聖女セイは、反省する。
「どちらにせよ、未踏破のダンジョンを攻略して卵を得る。それから十年間、共に生活して魔力を込める作業をやり続ける根気がいるよ。僕は神器のお陰で数か月の期間で済んだけど」
ユキタカはリュックから顔を出して、頬ずりしてくるマロの頭を撫でた。
「それは厳しいです……」
聖女セイはすぐに諦めモードになった。
ほぼ、不可能な話だからだ。
十年という間に卵が割れるリスクがあるし、その間の動きも限定される。
それを魔力を込めながら一緒に十年間居るというのは、難易度が高すぎる条件だった。
「僕の場合は幸運だった、それだけかな。お陰でマロと出会えて良かったよ」
「ワン!」
マロは嬉しそうに尻尾を振ってユキタカの頭の上に乗る。
「見た目は凄く可愛いんだけどなぁ」
聖女セイは、マロの可愛らしさに和むが、やはり、その強さとのギャップに頭を撫でるのは一瞬躊躇した。
だが、マロがその手を舐めるので、聖女セイは笑顔になる。
「マロはいい子だものね。ごめんね、怖がって」
聖女セイは謝ると、マロを撫でるのだった。
こうして四人は、一日かけてレベル上げを地底で行った。
だが、ユキタカは「101」のまま。
イリスも「65」のまま。
ダフネは「41」から「43」に上昇。
聖女セイは「12」から「18」まで上がった。
「うーん、やっぱり、地底の魔物では僕達はもう、レベルが上がらないなぁ」
ユキタカが、残念そうにつぶやく。
「いやいや……、ユキ。あたしが一日という短時間で、「43」まで上がった事が異常な事だからね?」
ダフネはここで冒険者のレベル「40」の壁を説明した。
それは、いかに優れた冒険者でも、生涯戦って倒す魔物の数には限界があり、ほとんどの者は一流であるプラチナ級(レベル30~39を推奨)が限界と言われていた。
厳密には「39」を越える事がほぼ不可能だと言われている。
ダフネはその壁を越えてミスリル級に到達し、そこでレベル41まで上がる化け物クラスの冒険者だったからこそ、そのあり得ない経験値の蓄積について、驚かずにはいられないのだった。
「でも、イリスはこことダンジョンで、65まで上がったわけだし……」
ユキタカが食い下がる。
「それはきっと二人っきりで上げたからだよ。パーティーの数が増えれば、経験値は自ずと分散するわけだから。そもそも、ここの魔物を短時間で大量に倒す事があり得ない事だよ!」
ダフネは二人の感覚がおかしいのかもしれないと思い始めた。
「私も一日で18まで上がるとは思っていませんでした……。この半年以上、王都のダンジョン深くで苦労した日々は一体……」
聖女セイもほぼ苦労せず、「6」も上がった事に驚いていた。
「それでも、鬼道……、セイは上がるのが遅いよ。多分、聖女という上位スキルだからかな?」
ユキタカはイリスと比べて推測した。
「多分、そのせいだと思うよ。あたしのスキル自体は、『剣豪』という中位スキルだからね。それでも上げる為に、かなり無茶をしたよ。生きているのが不思議なくらいにね」
ダフネは肩を竦めてみせた。
ダフネは超一流の冒険者なのは、ミスリル級という時点で証明されている。
その彼女が言うのだから事実だろう。
「──おっと、もう、こんな時間か。日が暮れる前に、帰ろうか」
ユキタカは神器『スマホ』で時間を確認すると、崖の隙間からかすかに見える空を見上げた。
「二人がいますし、そうしましょう」
イリスも同意する。
マロも「ワン!」と吠えるので、一行は、降りてきた時同様、ユキタカに掴まった。
そして、ユキタカが『神器・傘』を開くと、上昇気流を捉え、浮遊して地底から脱出するのだった。




