第51話 クエストとレベル上げ
聖女セイとダフネの家問題も解決し、翌日からは、二人のレベル上げを兼ねて、冒険者ギルドのクエストを行う事になった。
ちなみに、聖女セイは、スキルの申請は治癒士と届け出た。
レベルが12という事で、カッパー級(レベル9以上を推奨)からである。
「羨ましい……。──カッパー級って確か、一般的冒険者レベルなんだよね?」
ユキタカは自分がウッド級(素人扱いで0から2レベル推奨)から始めているので差を感じイリスに確認した。
「はい。でも、ユキもセイさんもレベル以上の強さなので、気にする必要はないと思います。レベルを上げ、昇格点数を貯める。もしくは昇格の特別指定を達成すれば問題ありませんよ」
イリスは自身が、レベルを上げ、ダンジョン攻略という特別指定基準を達成した事で、飛び級出来た事を例に挙げた。
「いやいや……、イリス殿。未踏破ダンジョン攻略できる人は世界でも数少ないですよ? ミスリル級のあたしでも、パーティーとダンジョンレベルに恵まれたとして、攻略できるかどうか……」
ダフネは思わず、ツッコミを入れた。
だが、そこでハッとする。
イリスはもちろんだが、この頼りなさそうなユキタカが、あのランス・ファイスであり、二人でその未踏破ダンジョンをクリアしたのだった、と。
つまり、この二人とパーティーメンバーになれば、未踏破ダンジョン攻略は夢ではなく、現実のものとして達成できる可能性があるのだ。
「私はゴトーさん達の足を引っ張らない程度に強くなれれば、あとは研究に没頭したいかな」
聖女セイは、現実的な目標を口にした。
研究とは、あちらの世界に戻る為の魔法の事である。
聖女セイは、トールデイン王国をあとにした事で、王宮の極秘資料を研究できなくなったから、焦る気持ちがあった。
召喚魔法があるのだからその逆もあると考えれば、一番、その情報を持っているのは自分達を召喚した国だと考えていた。
研究には時間がかかるはず。
自分が巻き込んだユキタカだけでも、あちらの世界に戻す責任があると考えていた聖女セイは、唯一絶対の目標になっているのだった。
「鬼道院さん、僕の事はそんなに気にしなくていいですよ? 元の世界に戻りたい気持ちは当然ありますが、それは君も一緒でしょう? まずは、自分の事を考えてください。それなら、無理をせず、じっくりと研究ができると思いますよ」
ユキタカは、クエストの最中、聖女セイを気遣った。
思春期の、まだ十七歳の子供に無理をさせてまで、戻りたいとは思っていなかったのだ。
それに、ユキタカには、この世界の魔王討伐という目標が出来ている。
これは、同じ稀人である聖女セイ達を守る為でもあるが、この世界の人々も守る為だった。
「いえ、私の責任なのは事実なので、ゴトーさんだけでも戻せるように研究します。──それよりも……、私の事は名前を呼び捨てでお願いします。一番、年少ですし」
聖女セイは、クエストの標的である魔物、オークの頭を杖で粉砕しながら答えた。
「これで、クエスト完了ですね。僕の『神器・傘』だと加減が難しいので協力できなくてすみません。──名前については、わかりました。それでは間を取ってセイさんという──」
「セイで!」
「いや、いきなりはさす──」
「セイで!!」
「でも──」
「セイで!!!」
「……はい」
ユキタカは聖女セイの圧に負けると、頷くしかないのだった。
「じゃあ、あたしもダフネでいいからね。これからもよろしく、ユキ、セイ、イリス殿」
ダフネはイリスだけは、どうしても格上の圧を感じるのか、イリスだけは呼び捨てにできないようである。
イリスはご自由にどうぞ、と寛大な反応だ。
さすがイリス。
ユキタカはこの寛大な彼女に救われたから、イリスの評価は高い。
ただ、少し残念なのは、自分に対しても敬語は変わらない事だった。
距離を感じてしまうのだが、どうやら、イリスの素が敬語のようで、仕方ないと納得するしかないのだった。
聖女セイのクエストが完了すると、そのまま、奈落の谷に移動する事になった。
ここからは、みんなのレベル上げである。
「……奈落の谷って、底なしで有名なのに大丈夫なの?」
ダフネが崖の上から下を恐る恐る眺めた。
「僕とイリスは、その奈落の底でレベル上げをしたから大丈夫。ただし、かなり深いから、落下しないように僕にしっかり掴まってね?」
ユキタカは『神器・傘』を広げると、準備万端である。
イリスは慣れた様子で、ユキタカの右隣に立つと腕に掴まった。
聖女セイはそれを見て、ユキタカの左隣に移動すると、少し躊躇ってから同じように腕を掴む。
ダフネは、背後からユキタカの腰に思いっ切り抱き着く。
背中にはリュックがあり、そこには柴竜種の従魔、マロが納まっているからだ。
三人の柔らかい体が、胸が、ユキタカの体に押し付けられて役得だが、ユキタカは神器『ボクサーパンツ』の効力で、欲情は抑えられている。
だがそれでも、女性の柔らかさに何にも感じないわけではなく、少し、顔を赤らめながら奈落の谷に飛び降りるのだった。
四人は深い谷を落下していた。
「「キャー!」」
聖女セイとダフネは、一層体をユキタカに押し付け、悲鳴を上げる。
イリスは慣れたもので、ユキタカと神器を信じているからか、掴んだ腕に多少力が入っている程度だった。
聖女セイとダフネは、落下の間、悲鳴を上げ続けるのにも疲れ、奈落の底に到着する頃には、ぐったりしていた。
ユキタカはこれでも、二人を怖がらせないように、かなり上から『神器・傘』の力を発揮してゆっくり降りたのだが、初経験の二人にはそれでも、過酷だったようだ。
「少し休んでから、レベル上げと言いたいところだけど……、魔物の方から寄ってきたから、僕とイリス、マロで退治するね」
ユキタカは前後から魔物が集まってきたので、『神器・傘』を構える。
イリスも背後の魔物に対し、拳を構えた。
ダフネはミスリル級冒険者だから、かなりの強さを誇るが、魔物を目にして固まっていた。
相手が、見た事もないレベルの魔物だったからだ。
「竜が……、それも、多分、古代種の地竜と思われるものが混ざっているんだけど……!」
ダフネは悲鳴に近い声を上げる。
ダフネも国で数人しかいないミスリル級冒険者なので、竜退治は何度も行っていた。
だが、翼の無い古代種の地竜は災害級の魔物であり、遭遇例は伝承で確認する方が早いくらい珍しい。
その古代系の地竜が目の前にいた。
「大丈夫。すぐに慣れるよ」
ユキタカが笑えない冗談を言うと、『神器・傘』を振るう。
力を凝縮させた衝撃波が、魔物達を襲った。
特殊な竜鱗に覆われ、通常の竜種とは比較にならないくらい硬いと言われている古代種の地竜の胴体に、小さい穴が開いて絶命する。
その背後にいた魔物も巻き添えを食らって即死していく。
「よし、あとは硬い魔物も少ないね」
ユキタカは『神器・傘』の威力を調整するような口ぶりで、さらに、先端を振るう。
すると、他の魔物をなぎ倒すような衝撃波が生まれ、迫っていた魔物達は、肉塊になってしまうのだった。




