第47話 誓約書
ユキタカとイリスの住居まで移動した一行は、改めて話し合いの為に対面した。
聖女セイこと鬼道院聖は、勇者シオン達と袂を分かち、自身は、元の世界に戻る為に、帰還の為の魔法陣研究をするつもりのようだった。
勇者シオン達は、トールデイン王国から放逐された状態なので、活躍し、その判断が誤りであった事を示そうと、躍起になっているという。
セイはユキタカの生存をこの目で確認したら、研究に力を入れる為、各国を回って帰還魔法陣について調べるつもりだったようだ。
しかし、ユキタカを放っておけないと思ったようである。
(鬼道院さんって、もしかするとダメンズに母性本能をくすぐられるタイプ!? って、僕が駄目みたいじゃん!)
ユキタカは聖女セイのユキタカを守る宣言に驚くと、内心でツッコミを入れた。
「ところで、なぜ、ミスリル級冒険者『魔斬りの剣女』ダフネ殿と、『聖拳の治癒士』イリス殿がここにいるのですか?」
聖女セイは、名だたる二人がユキタカといる理由がわからず、首を傾げた。
「あたしはイリス殿を探して、ここまで来たのさ。旅の途中で、それは説明しただろう?」
ダフネ・サンセッドは、イリスの仲間であるユキタカには興味がない。
「私はユキと冒険者仲間として、一緒に活動しています」
魔王討伐を目指しているとは、あえてイリスは口にしない。
「ユキ? ああ、ゴトーさんの名前なんですね? これからは、私がゴトーさんを保護しますので、お二人は、自由に行動されて大丈夫ですよ」
聖女セイは、ダフネはイリス、イリスはランス・ファイスに矢印が向いているが、ユキタカを保護する事で、身動きが取れずにいたのだろう、と解釈した。
「はい?」
イリスのこめかみがピクリと動く。
「鬼道院さん、イリスは僕の友人であり、大切な仲間ですよ?」
ユキタカは、このままでは誤解が誤解を生み、揉め事になりそうな予感がしたので、慌てて間に入る。
「ですが、ゴトーさん。イリス殿は、私達では足下にも及ばない程の上級冒険者です。ゴトーさんは、……その、お邪魔になるかと……」
聖女セイは、ユキタカがスキル無しである事を、あまり言わない方がいいと思ったのか、最後、オブラートに包んで指摘した。
「ユキは邪魔ではありません。彼が言った通り、私にとっても大切な仲間です。心配の必要はありませんよ」
イリスはユキタカが間に入ってくれたので、冷静さを取り戻した。
これには聖女セイ、ダフネの二人が困ってしまった。
聖女セイはユキタカが無能力者だから、イリスのような高名な冒険者の足手まといにしかならないと考えていた。
それを言うと、両者を傷つける事になると思った。
ダフネはイリスにはランスが相応しいと考えていたから、この頼りなさそうな風体のユキタカは、聖女セイに任せた方がいいと思っている。
二人は違う意味で、ユキタカとイリスが一緒にいるのは、相応しくないと考えていた。
(どうしたものか……。正体を明かした方がいいのかな? でも、ランス・ファイスである事を鬼道院さんはともかく、ダフネ・サンセッドさんに告げて、トールデイン王国側に伝わったら、厄介な事になるだろうしなぁ……)
ユキタカは両者の考えを、何となく理解した。
「ユキ、二人には誓約書を用意して、それにサインをさせてはどうですか?」
イリスは、ユキタカの心配が理解できたから、助言した。
「「誓約書?」」
聖女セイとダフネは、意味が分からず首を傾げる。
「誓約書って効果あるの?」
ユキタカは、こちらの世界で契約書などの類が、どの程度効果があるのか、理解できなかった。
もとの世界でも、約束を破る者はいくらでもいたから、心配だった。
「魔法効果のある誓約書を私が作成しますので、ある程度は、秘密を守る事ができると思います」
イリスもあまり使った事が無いのか、そこまで自信がある様子ではない。
「……そうだね。二人に誤解を与えたままでも厄介そうだし、お願いできる? あっ、ペンは僕が用意できるよ」
魔法収納付き鞄から、『神器・ペン』を取り出した。
神器と言っても、どうやら、インクが切れない、壊れないくらい丈夫、という以外、効果はなさそうだったが……。
イリスがそのペンを手に、無限に出てくる『神器・名刺』の裏に、誓約書の内容を書く事にした。
だが、全く書けない。
「? ユキ。インクが切れているみたいです」
「え? ──ちょっと待ってね……」
ユキタカはペンを受け取ると、試しに『誓約書』と書いてみた。
問題なく書けたのでどうやら、自分にしか使えない代物らしい。
「仕方ない。僕が書くよ」
ユキタカは名刺の裏に、小さい字で誓約書の内容を書く。
その内容は簡単で、ユキタカに関する情報を、一切秘密にするというものである。
『※誓約違反の場合、自身の一切の処遇をゴトー氏に委ねるものとする』と付け加えた。
(これくらいのリスクがあれば、守ってくれるだろう)
ユキタカは、どの程度の効果があるかわからないから、具体的な処罰は書かない。
イリスはその名刺を手にして、魔法を詠唱する。
数秒ののち、
「終わりました。──二人はサインの代わりに血判をお願いします」
とイリスは聖女セイとダフネにお願いした。
聖女セイはユキタカの秘密と聞いてもピンとこなかったが、親指をナイフで少し傷つけて出血するとそのまま、誓約書に押し付けた。
ダフネも続いて押す。
すると、誓約書が一瞬光った。
カメラのフラッシュのような一瞬のものだったが、それが誓約を交わした事になるようだった。
そして、ようやくユキタカは、身に付けているものが全て、こちらの世界でいうところの神器というものになっており、それによって、チート級の力を得ている事を伝えるのだった。
「えぇ!? このひょろっとした旦那の服や靴、リュックに至るまで全てが──」
ダフネは驚きのあまり、説明された事を復唱しようとした。
すると、次の瞬間、誓約書である名刺が光り、それと同時にダフネの声が消えた。
それは文字通り、消えたと言っていいだろう。
ダフネはパクパクと口を動かすが、声が出ない。
そして、拘束されたかのように、体が動かなくなった。
どうやら、早速、誓約書の効果が表れたという事だろう。
「こ、これは!?」
だが、イリスはその光景に驚いている。
どうやら、普段の魔法効果と違ったようだ。
「あの……。ダフネさんは何を言おうとしたのでしょうか? 私、一瞬、その前後の記憶が飛んだ気がします……」
どうやら聖女セイは、ダフネが話した言葉が記憶から無くなったようだった。
「……ユキ。もしかしたら、これはそのペンの効果なのかもしれません……」
イリスは真剣な様子で、ユキタカの手にする『神器・ペン』を指差すのだった。




