第46話 無能者と聖女
聖女セイこと、鬼道院聖は、同じ道すがらという事で、ミスリル級冒険者ダフネ・サンセッドに護衛を依頼して、辺境にやってきていた。
最初、トールデイン王国側の国境の街ターバスで聞き込みを行ったが、ユキタカの情報は一切なく、困り果てた姿の聖女セイに、
「同じ辺境なら、隣国のカールセン王国側の街に、探し人はいるんじゃないか?」
とダフネが助言をして、一緒に辺境の街キョウガイまで足を運んだ。
そこで聖女セイは、ダフネと別れ、一人でユキタカを探していた。
「ユキタカ・ゴトー? 知らねぇなぁ」
「それっぽい名前の人物はこの街にも何人かいると思うが、探し人はトールデイン王国出身の人族なんだろ? 地元の身分証を持っている奴しか知らねぇぞ?」
「特徴は? ──黒髪、黒い目、変わった格好? へー、探し人は稀人なのか? でも、そんな格好なら、すぐ噂になると思うがな?」
地元の住民達や門番にも聞いて回ったが、誰も知らないという事だった。
「……ランス・ファイスという人が、嘘を吐いてるとは思えないのだけど……。ゴトーさん、どこにいるのかしら……」
鬼道院聖は、早くも手掛かりを失って困惑する。
まさか、情報源であるランス・ファイスが、ユキタカ本人であり、同行してくれたダフネが、ユキタカと会っているとは思わないのだった。
「聖女セイがこの街に来ている!?」
ユキタカとイリスは、ダフネの言葉に驚いていた。
王都から追い出される可能性は想像できていたが、自分を探しに本当に来るとは、全く想像していなかったからだ。
良心の呵責で、自分を責めている素振りがあったから、教えただけだったのだが……。
ユキタカは困惑せざるを得ない。
「あたしとは目的が違ったから、この街で別れたんだけど、しばらくは探し人を求めて、この街に滞在するんじゃないかな?」
ダフネは意外に反応がいいので、聖女セイの情報を全て話した。
「……まさか、勇者シオン達と、別行動で探しに来るとは……」
「ユキ、どうしますか?」
ユキタカの困惑を見て、イリスは迷う事無く問う。
「うーん……、会うしかないか……。彼女には僕が生きている事が、内緒である事を念押ししておく必要もあるし」
ユキタカはほぼ接点がない関係性だと思っていた聖女セイに、また、会う事にするのだった。
聖女セイを探すのは簡単だった。
日本では、現役高校生モデルだった美貌の持ち主である。
目立たないわけがないのだ。
案の定、ユキタカを探している途中で、街のチンピラに絡まれていた。
「離しなさい!」
聖女セイは、当然その辺のチンピラより強い存在だから、掴まれた腕を払うだけでチンピラは投げ飛ばされた。
「助ける必要はなさそうだね」
ユキタカがその光景を見て、気の抜けたセリフを口にする。
「ユキ、それでも、助けに入ってあげるのが、男性の役割だと思いますよ?」
イリスが女性心を口にした。
「そうだよ、あんたがどの程度強いのか、知らないけどさ。女性が一人、初めて訪れる街で不安なのは誰でも一緒だよ? そこに助けに入ってくる人がいたら、それだけでコロッといっちゃう女心を知った方がいいね」
ミスリル級冒険者ダフネもイリスに同意した。
「うっ……。そこまでは僕もわからなかった……。というかコロッといかせるつもりはないのだけど?」
ユキタカは二人の言葉に引っ掛かった。
「いいから行ってあげてください」
イリスがユキタカの背中を押す。
ユキタカは溜息を吐くと、チンピラと睨み合う聖女セイの前に飛び出した。
「えっと……。やあ、元気? 大丈夫?」
何と声をかけていいかわからなかったユキタカは、間の抜けた言葉を投げかけた。
聖女セイは、生きているユキタカを目にして、驚いたように目を見開いた。
そして、次の瞬間には、その目に溢れんばかり涙が溜まっていく。
「……ゴトーさん、無事なんですね……? 本当に良かった……!」
聖女セイは安堵すると、我慢していた涙が流れ落ちた。
「まさか、探しに来るほど心配してくれていたとは……」
ユキタカも動揺を隠せない。
自分の想像以上に、心配してくれていた事を、ようやく理解できたからだ。
「おい! なんだ、てめぇ! 俺達を無視してんじゃねぇぞ!」
チンピラ達は、聖女セイの強さに驚いていたのだが、ひょろい姿のユキタカなら、勝てる相手と錯覚した様子である。
「……ゴトーさん、下がっていてください。私が、この人達を成敗しますので」
聖女セイは、ユキタカがスキル無しの無能者とわかっているから、庇うように前に出た。
「あ、いや、僕は大丈夫──」
「そうだよ、あとはあたしらが相手するから、下がっていなよ」
そこへ傍観していたダフネも前に出る。
「ユキ、二人に任せましょう」
イリスは、助けるように言ったものの、ユキタカが動くと、死人が出ると思い直したのか、止めた。
「おいおい、女に守られて、恥ずかしくないのか!?」
チンピラ達は弱い者に、めっぽう強気だ。
ユキタカが、女性に守られる形で後ろに下がった事を責め始めた。
「彼を巻き込んだから、私には守る義務があるの。それ以上は黙りなさい」
聖女セイはチンピラ達を睨む。
綺麗な女性ほど、怒ると怖いな……。
ユキタカが内心で失礼な感想を漏らしていると、聖女セイは杖を手に、ダフネは剣を抜き、チンピラ達をあっという間に倒してしまうのだった。
「少し、やり過ぎなので、治療しますね」
二人が過剰防衛だったので、イリスがチンピラ達の傷を一気に治療する。
そこに、警備隊がやってきた。
警備隊は、チンピラ達と女性陣を見ると、すぐに状況を理解したのか、チンピラ達を捕縛し、女性陣から事情を聴く。
そして、全てを把握するとチンピラ達を連行するのだった。
「……ゴトーさん。元気でしたか? ランス・ファイスという方から、あなたが生きていると聞いて、直接、お詫びしようと思ってここまで来ました。何度お詫びしても許されないと思いますが、本当にごめんなさい!」
聖女セイは、深々と頭を下げた。
申し訳なさから、また、涙を浮かべている。
「顔を上げてください。見ての通り、元気でやっているのでご心配なく。最近、冒険者にもなったんですよ? 仲間もいるので安心してください」
ユキタカは聖女セイの心を軽くしてあげようと思い、笑顔で応じた。
それが、聖女セイには無理していると映ったのか、
「これからは元の世界に戻れる日まで、私が傍であなたを守りますから、安心してください!」
と力強く宣言した。
「ええ!?」
想像していなかった言葉に、ユキタカは思わず、声を上げるのだった。




