第45話 魔斬りの剣女
ユキタカが作ったコカトリス料理は手伝ったイリスも、急遽お客となったミスリル級冒険者ダフネ・サンセッドも感動する程の美味さだった。
料理の腕もそうだが、何より肉自体がとてもジューシーで、噛むと肉汁が口内に広がる味わいに女性二人はうっとりである。
「鶏肉ってパサパサしているのが普通なのに、この鶏肉はしっとりしていて美味しい!」
ダフネはコカトリスの肉だとは知らず、鶏肉だと思っていた。
「味が濃いですよね。こんなお肉は食べた事がないです……! ──ユキ、これからは鶏肉ではなく、コカトリスにしましょう」
イリスはダフネに同意すると、チキン南蛮をフォークで刺す。
「へー、このお肉って、コカトリスなんだ? 美味しいね! うん? ちょっと待って……。今、……コカトリスって言った……? あの……、コカトリス? 魔物の中でも絶対食べたらダメなやつだよね……?」
ダフネは美味しさのあまり、満面の笑顔を浮かべていたが、コカトリスの肉と聞いて、見る見るうちに顔が青ざめていく。
コカトリスと言えば、質の悪い毒持ち魔物の代名詞の一つであり、食用などありえないから、血の気が引くのも当然だった。
ダフネは席から立ち上がると、左手は口元にやり、外に飛び出そうとする。
どうやら、吐こうとしているようだ。
「ダフネさん、ちょっと待って! この肉は大丈夫ですから!」
イリスが、止める為、ダフネの右手首を掴む。
「大丈夫なわけないでしょ! うっ!」
ダフネは口元を覆っていた左手でイリスの手を振り払おうとした。
だが、イリスの腕力に勝てるわけもなく、じたばたするだけとなる。
「落ち着いてください! このお肉は正しい調理が成されているから、毒も呪いも無いんですよ。安心して!」
イリスは嘔吐寸前のダフネを落ち着かせる為、混乱時に使用する鎮静魔法を唱えた。
その魔法の効果なのか、それとも、イリスの言葉を信じたのか、それともじたばたしてもイリスの腕力に勝てないと諦めたのか、ダフネは大人しくなった。
「……本当に大丈夫なの?」
ダフネはユキタカとイリスを交互に見て確認する。
二人は自信を持って頷く。
「……わかった、信じる……。でも、なんでコカトリスなんて食べようと思ったのよ。そんな事を考えるなんて正気じゃない。でもまあ、美味しかったけど……」
ダフネは、お腹も満たされていたし、冷静になった事で、二人に正しく呆れる事ができた。
「ユキがものの鑑定が出来て、正しい調理方法を見つけてくれたんです。それを今日試しました」
イリスが自分が『浄化魔法』使える事は伏せた。
「この人が?」
ダフネは全く強そうな人に見えないユキタカを、じっと上から下まで見て確認する。
そして、イリスがこの男とパーティーを組むのは、鑑定スキル持ちだからなんだと理解した。
「はい。ユキはとても優しくて凄い人なんです。だから、私は彼とパーティーを組む事にしました」
イリスは笑顔で正直な感想を告げる。
「うーん……。あのランス・ファイスよりも? ……まあ、彼と比べるのは酷だけど……。強くても人間性が良くないってことは、いくらでもあるし……」
ダフネはイリスがランスを捨てて、ユキと組んでいると思っているようだ。
「ふふふっ。ランスも良い人ですよ」
イリスはダフネの疑問に笑って応じると、増々ダフネの疑問は強まるのだった。
「イリス殿とランス殿が別れた事も疑問だけど、さっきからその従魔も気になっているんだよね」
落ち着いたダフネは、ユキタカの手からコカトリス料理を貰って食べている豆柴姿のマロに視線を向けた。
「これはユキの従魔です。名前はマロ。豆柴という魔獣の姿をしているそうです」
イリスはユキタカの代わりに簡単に説明する。
「へー。可愛いな! 小さいし、背中に翼があるという事は飛べるのか? それだけでも貴重な魔獣だよね?」
この世界には豆柴は存在しないのでわからないが、そういう種類の従魔がどこかに存在しているのかな? くらいにダフネは思っているようだ。
ユキタカがマロの頭を撫でているので、ダフネもマネして頭を撫でようと手を伸ばす。
すると、マロがダフネの手を嫌がるように、
「ガルル!」
と威嚇する。
だが、見た目が可愛いので、ダフネは驚かない。
「待ってください。マロはこう見えて、柴竜種という新種の竜の類だから機嫌を損ねたら危険ですよ?」
イリスが注意を促す。
「へー。新種の竜なの? それは凄いね! ──……って、えぇー!?」
ダフネはマロの頭に伸ばした手が一瞬固まる。
そして、すぐに手を引っ込めた。
「マロ、この人は悪い人じゃないから、怒らないでね? でも、危害を加えるようなら怒っていいよ」
ユキタカが冗談交じりにマロに注意する。
マロはユキタカの言葉に、同意するように、
「ワン!」
と元気よく答えるのだった。
「……柴竜種……。あたし、ミスリル級冒険者としていろんな魔物や魔獣の類に遭遇したし、竜種も飛行竜もどきなら倒した事があるけど、こんなにかわいい竜種は初めてだよ!」
ダフネは飼い主であるユキタカから許可を得て、マロの頭を優しく撫でた。
もう、メロメロという感じで、満面の笑みである。
「そうでしょう? 私も誕生の瞬間に立ち会えたのは幸運でした!」
イリスも笑顔で激しく同意した。
「くぅー! あたしも早く、ここに来るべきだったよ。トールデイン王国では、今、勅令を発して、国内の腕利き連中を王都に召集している最中だからね。中々、出国するのが難しかったんだ」
「「トールデイン王国が?」」
ユキタカとイリスは、驚いて聞き返した。
「ああ。勇者一行を魔王討伐に送り出す事になってさ。王都の守りが手薄になるからね。あたしも王都に引き止められていたんだ。でも、あの国の下心がわかってしまったから、色々理由を付けてここまで来たわけ」
ダフネはどうやら、トールデイン王国を見限ったようだ。
「勇者一行を魔王討伐に!?」
ユキタカは、やはりとは思いつつも、驚いた。
勇者一行が王都に留まっていると、また、魔王軍の襲来があるかもしれないと、リッツ国王が判断したのだろう。
それまでは、国内の軍事戦力として、稀人を囲い込む様子だったから、魔王軍襲来と戦力を天秤にかけた結果、理由を付けて追い出す方が恨まれないし、安全と考えたのかもしれない。
実際、ダフネの口からは、ユキタカの想像通りの答えが返ってきた。
「──勇者一行もこれには少し、駄々を捏ねていたんだけどね。聖女セイが、『自分が出ていくから、みんなは王都に留めてくれ』と願い出たんだ。それで、勇者達も目が覚めたのか、渋々同意した感じだったよ」
「鬼道院さんが……」
ユキタカは鬼道院聖に、自分が生存している事をランスの姿で伝えていたから、それが原因かもしれない、と少し後悔した。
「それで勇者一行は北に向かったのですね?」
イリスが行き先を聞く。
「勇者一行は勇者シオン、聖騎士レオ、賢者ルナの三人は北の隣国に向かったみたいだけど、聖女セイは違うよ」
「え? では聖女セイはどこに?」
イリスが疑問を口にする。
「聖女セイは人探しとやらで、この辺境に来ているよ。何しろ、あたしがここまで護衛をしてきたからね」
ダフネはマロのお腹を至福の喜びとばかり撫でている。
「「ええ!?」」
ユキタカとイリスは、意表を突いた返答に、驚くのだった。
ここまで読んだ頂き、ありがとうございます。
よろしければ、作品フォロー、いいね♥、レビュー★を押して頂けたら幸いです。
応援よろしくお願いします(。・ω・)ノ゛♪




