第44話 解体と仕込み作業
通常、魔物の肉の多くは、人が食べるには汚染されているので、非常に不味いとされているらしい。
実際、試した冒険者はいくらでもいたし、伝記にも資料としていくつも残されているから、これは事実のようだ。
奈落の底でユキタカとイリスが灰色六足熊の心臓を食べた事があるが、あれは特殊な例のようだ。
だが、汚染されている魔物肉も、聖女が使えるとされる浄化魔法があれば、食用として食べられるという。
イリスの知っている常識外の事なので、最初は驚いた。
しかし、自分が浄化魔法を使えるので、ユキタカを信じ、イリスは大量に入手したコカトリスの死骸を浄化魔法でまとめて解毒し、呪いを解くのだった。
「よし! イリスのお陰で、大丈夫みたいだ」
『神器・眼鏡』をかけたユキタカは、鑑定でコカトリスの肉が、食用に変わった事を確認した。
実際、毒々しく見えていたコカトリスの傷口も鮮やかなピンク色になっており、浄化魔法が成功したのは、イリスにもわかった。
「じゃあ、逆さづりにして血抜きをし、解体しようか」
ユキタカは、コカトリスの足を縄で縛ると、太い幹に吊るす事にした。
やり方は、イリスがわかっていた。
と言っても、鶏の解体を理解しているという事だったので、まずは、それに近づけるように、尻尾の蛇部分も斬り落とし、喉を割く。
逆さづりにしてあるから、血が簡単に抜けていく。
血抜き作業が終わると、今度は、腹を割いて内臓を取り出す。
こちらは、毒袋があるので慎重に行う。
だがそれも杞憂に終わった。
毒袋の中身も浄化されてしまっていたからだ。
「あちゃー。これってもう、お金にならないよね……?」
「そうですね。薬のもとになるので高価だったのですが……。今度からは、毒袋を最初に取り出しておいて、その後に、浄化魔法を使用した方がいいですね」
イリスは忘れないように、自分に言い聞かせた。
「蛇の部分は、皮や牙、骨も需要があるんだっけ?」
ユキタカは胴回りがかなりある蛇部分を魔法収納に回収していく。
「はい。今回のコカトリスはかなり大ききめのものが多かったので、なめして革鎧の材料にできそうです。牙は錬金術で金属と組み合わせ、刃物に加工できますし、骨は鞭系の武器に使用したり、呪術に使用したりもするので買い取り屋さんが喜びますよ」
イリスは冒険者として長く活動しているので、専門知識も豊富だった。
「へー、そうなんだ……。──イリスがいてくれて助かったよ。僕一人だと、買い取り屋で足元見られていたみたいだからさ」
ユキタカは苦笑する。
実際、イリスが仲間になるまでは、地底やダンジョンで討伐した上位の魔物の死骸が安く買い叩かれていたのだ。
それでも、上位の魔物という事で、それなりの額になっていたから、ユキタカは気づかずにいたのである。
「これからは教えるので覚えてくださいね。私がいつも同行している状況ばかりではないでしょうし」
「だよねぇ……」
ユキタカは反省するしかない。
二十五歳という事で、世間に慣れてきて、新たな発見が少なくなる年頃だったが、こちらの世界に召喚されてからは、新たな発見と経験の日々である。
だから、学ぶ事の連続であったが、イリスのお陰で、効率よく経験もできるようになってきた。
あちらの世界では、ネット知識で予防線を張る事が多かったが、こちらではイリスから得る知識と、経験から得る知恵で自分が成長しているのを実感できている。
「これは貴重だな……」
ユキタカは森の中で解体作業を行いながら、いい汗をかき、満足するのだった。
解体作業を終え、辺境の街キョウガイに戻った二人は買い取り屋に解体した部位を肉以外ほとんど売り払う事にした。
「あら? 肝心の毒袋はどうしたんだい?」
買い取り屋の店主も、持ち込まれたのが、コカトリスである事は理解できたので、首を傾げる。
「自分達で解体した時に駄目にしちゃったんです」
ユキタカが言い訳をする。
まあ、嘘ではないだろう。
「はははっ! 素人が解体するとそういう事もあるさなぁ。まあ、その為に、解体屋もいるんだから、利用してあげてくれ。鶏冠の数だけでも、コカトリスは二十四羽はいたんだろう? それだけの数解体するのは、専門家に任せるのが一番だぜ?」
買い取り屋の言い分はもっともである。
でも、素人が持っていくと、足元見るじゃん!
ユキタカは内心でツッコミを入れると、気持ちはすでに夕食に向かうのだった。
借家に戻ると、ユキタカは早速、夕食の為に、仕込みを始める事にした。
鳥料理となると、やりたい事は沢山ある。
ましてや、浄化魔法で綺麗にしたコカトリスの肉はかなり美味しそうだ。
すでに、調味料の類は大枚をはたいて、色々と買い込んでいる。
過去にこの世界に召喚された稀人のお陰で、お酒やみりん、酢、味噌や醤油、マヨネーズ、ソース系も調味料は存在しているのだ。
ユキタカは焼き鳥、から揚げ、鳥刺し、照り焼き、チキン南蛮、油淋鶏など次々に作っていく。
イリスはユキタカの横で手伝いをしていたが、ほとんど知っている高価なメニューばかりだったので、目を輝かせていた。
借家は街の西の外れにあるから、匂いに釣られて人がやってくる心配はない、と思ったのだが……。
コンコン。
扉がノックされた。
「イリス殿、ランス殿は居るかい?」
聞き覚えがある声がした。
しかし、言葉遣いが違う。
知っている声の主は、いつも敬語だったからだ。
「「? ──はい、ちょっと待ってください!」」
食卓に料理を並べている最中だった二人は、目を見合わせると返事をする。
ユキタカが自分が出ると身振りで応えると扉を開けた。
そこには、ミスリル級冒険者ダフネ・サンセッドが立っていった。
「君、誰?」
ダフネは、ユキタカの顔を見て、首を傾げる。
会った事があるのは、ランス・ファイスの姿をしたユキタカだけだったからだ。
奥にはイリスがいるので、家を間違ったわけではない。
「えっと……。イリスの冒険者仲間です」
ユキタカは一瞬、答えに迷ったが、その場しのぎの嘘を吐いてもすぐにバレるだろうという考えが頭を巡った結果の返事だった。
「そうなんだ? ──……イリス殿はランス殿と別れたのか……。──うーん、まあ、いいっか! イリス殿。いきなり押し掛けて悪いけど、あたしを仲間にしてもらえないかな?」
「えっ!?」
ユキタカが驚いて声を上げる。
イリスも驚いているが、こちらは声をあげていない。
「なんで、君が驚くの。君、あたしとは初対面だよね? あ、でも、ミスリル級冒険者の私の顔を知っていてもおかしくないか……。イリス殿の仲間だし、知ってて当然だよね」
ダフネは妙に納得すると、ユキタカはスルーして、室内に入っていく。
「イリス殿、お願い! あたし、トールデイン王国を出奔したんだ。だから、猫を被る必要がなくなったんだけど、こっちで頼れるのは、イリス殿とランス殿だけなの!」
これまで、クールさと丁寧な言葉遣いが印象的だっただけに、砕けた物言いに二人は困惑した。
「うーん……。──ユキ、どうします?」
イリスはパーティーのリーダーはユキタカだと思っているので、確認する。
ぐぅ~!
「あっ……。──とりあえず、食事してからにしようか? さすがにお腹空いたよ」
ユキタカは、作り立てのコカトリス料理を前に、お腹が鳴った。
「いいの!? あたし、今日はパンと水しか食べずに、ここを目指していたから助かるよ!」
ダフネは壁際の椅子を食卓に持ってくると、嬉しそうに着席するのだった。




