第48話 神器の説明
「このペンの?」
ユキタカは驚いて自分の『神器・ペン』を凝視する。
「普通の契約魔法だと、ユキの秘密を明かそうとしたら、その部分だけ言葉に変換できなくなるだけのです。ですが、ダフネ殿やセイ殿の様子を見る限り、身動きを取れなくしたり、聞いた者の記憶を一部消去する能力がそのペンにはあるようです」
「それは凄いね……」
ユキタカはイリスの説明に、ゴクリと唾を飲み込む。
「あの……。ダフネ殿は大丈夫でしょうか?」
聖女セイが前後の記憶が飛んで困惑しつつも、ダフネ・サンセッドが動けない状態を心配した。
「「あっ」」
ユキタカとイリスはそこでようやく慌てた。
どう解除すればいいのかわからないからだ。
だが、すぐに誓約書に書かれている誓約違反の条項に気づいた。
『※口外しようとすれば誓約違反と判断し、自身の一切の処遇をゴトー氏に委ねるものとする』
「もしかして、一切の処遇を僕に委ねる事になっているから、身動きが取れなくっているんじゃない?」
「なるほど! ──という事は……、ユキが解除できるという事になるのでは?」
イリスがユキタカの指摘に、答えを導き出した。
「そうだね。──『解除!』……でいいのかな?」
ユキタカが自信なさげに告げると、硬直状態だったダフネは力が抜けたようにその場に倒れる。
それをユキタカが受け止めた。
「……びっくりした。……あれを口にしようとしたら、麻痺したように動けなくなったよ……。なんて怖い契約魔法なんだ……」
ダフネは想像を超える契約魔法の威力に、タジタジになっている。
お陰で口にする言葉も慎重になった。
「何となく理解したわ。誓約書を守らないと今のようになるのね?」
聖女セイは前後の記憶が無いものの、誓約書が原因だという事は、すぐに理解したようだ。
「そういう事みたいです」
ユキタカも同意するしかない。
「でも、それが本当に《《それ》》なのかの証明にはならないよね?」
ダフネが大きな胸を撫でおろしながらも、疑問を口にした。
指摘の通り、口外厳禁になった事と、神器である事はイコールでない。
「それじゃあ、少し、神器の力を見せようか」
するとユキタカは、魔法収納鞄から、コンビニの袋を取り出した。
見慣れた袋に聖女セイは、
「ノーソンの袋???」
と疑問符が頭の中を埋め尽くす。
一方、ダフネは半透明のコンビニ袋を見た事がないので、不思議そうに見つめている。
ユキタカは、そのノーソンのコンビニ袋を頭に被ってみせた。
すると、次の瞬間、ユキタカの姿が消える。
「「え!?」」
聖女セイとダフネは驚く。
だがすぐに、二人は目を細めて分析を始める。
「透明化魔法? いや、あの魔法は背景に同化するだけで、触れられるはず……」
ダフネはユキタカのいた場所を手で触る素振りを見せた。
手は空間を素通りしてしまう。
「ならば、魔法解除で」
聖女セイが透明化魔法対策の魔法をすぐに唱えた。
だが、何の反応もない。
「「完璧な透明化!?」」
聖女セイとダフネは、目を見合わせて、改めて驚くのだった。
ユキタカはその場に立ったままだったが、二人の驚く反応を楽しんだ後、すぐに袋を頭から取り去った。
すると、透明化していたユキタカがその場に現れた。
「凄い……、凄いけど、これは使用禁止にしてください」
聖女セイが、疑わしい目でユキタカを見つめた。
「あっ……。──ちょ、ちょっと! 僕はこれを悪い事に使っていないからね!? 使い方がわかったのも、数日前だし!」
ユキタカは聖女セイが何を警戒したのか、すぐに理解した。
そう、思春期の健全な少年? なら一度は想像する、透明化して異性の着替えを覗き見するという考えを、だ。
ラノベ好きのユキタカは、すぐにピンときて言い訳した事が、仇となった。
「すぐに気づくという事は、思いついていたんですね? やっぱり使用禁止です。誓約書を書いてください」
聖女セイは、ジトっとした視線をユキタカに向ける。
イリスとダフネは意味が分からず、首を傾げた。
(楽しそうな能力だから見せたのに! 見せるんじゃなかった!)
ユキタカは後悔するのだったが、知られた以上、誓約書を書く事にした。
『コンビニ袋による透明化は、必要と思われる場面以外での、使用を一切禁ずる。なお、仲間に使用した場合は、同仲間の許可がなければ、痺れが取れない事とする』
ユキタカは血判を押すと、コンビニ袋を魔法収納付き鞄に戻した。
「面白い能力だったのに……」
ユキタカは残念がった。
だが、聖女セイの軽蔑に満ちた視線を感じると、直立して首を振るのだった。
ユキタカはその後、無限に湧いて、自分の都合に合わせて、名前や肩書が変わる名刺。
都合よくこちらの世界の身分証に変化する免許証。
伸縮自在のネクタイ。
服装を自在に変化させるスーツ上下。
体の清潔を保ち、濡れてもすぐに乾燥するワイシャツ。
同じく水を弾き、歩き疲れる事がない革靴などを紹介した。
「なんと……。本当に能力付きの《《アレ》》なんだね……」
ダフネが改めて驚いた様子で、ユキタカの全身の装備品を見つめた。
他にも次元魔法収納付きリュックや魔法収納付き鞄などもあるが、それ以外の神器はまだ、丈夫な事以外、性能がよくわかっていない。
「そして、僕が一番のお気に入りなのが、これ」
ユキタカは、『神器・傘』を魔法収納付き鞄から取り出して二人に見せた。
ダフネは傘を知らなかったが、聖女セイは、見慣れた傘に驚きはない。
「傘という事は、雨を操るとか?」
聖女セイは何となく予想した。
「おお! それは試した事が無かった。今度試してみるよ。──で、この傘は──」
ユキタカは聖女セイの指摘に反応するも、一番役に立っている使用法を見せる事にした。
それが、武器としての一面である。
ユキタカが手加減して軽く地面に先端を突き立てると、地面が簡単に抉れた。
鈍く大きな音が、イリス達のお腹に響く。
「きゃっ」
聖女セイが驚いて思わず小さい悲鳴を上げた。
「こんな感じで、僕のメイン武器として使用しているよ」
ユキタカは自慢げに『神器・傘』を見せた。
「傘が武器って子供の遊びじゃないのに……。でも、ゴトーさんの言う事が本当なのはわかったわ……」
聖女セイは、しおらしくつぶやく。
ここに来たのは、ユキタカを守るつもりでいたからだ。
だが、自分の方が非力で、役に立てる存在でない事を、残念に感じたのだった。




