第42話 上級冒険者のスカウト
イリスはプラチナ級冒険者に無事昇格し、ユキタカは冒険者ギルドキョウガイ支部長の配慮のお陰で、冒険者登録してもらえる事になった。
最強冒険者と思われるイリスとパーティーを組んでいれば、いずれ頭角を現すかもしれないという期待から、最弱でも登録を認めた形である。
ユキタカは、もちろん、レベルだけなら限界突破して101レベルだが、スキル無しなので弱い事に変わりはない。
いや、スキル無しを考えるとこの世界においては最弱の存在だろう。
だが、神器を全身に装備しているので世界最強の可能性がある存在だが、鑑定上は最弱扱いになるのは仕方がない事だった。
ちなみに、冒険者登録時のスキルの自己申告は、「棒術使い」という事にしてある。
実際、『神器・傘』を手頃な長さの棒に変化させていた。
こうして、ユキタカとイリスは、最弱棒使い冒険者と、最強クラス冒険者チームとして、冒険者ギルドキョウガイ支部で噂される事になった。
キョウガイ支部のとある上級冒険者チームが、すぐ、イリスのスカウトに動いた。
イリスと同じプラチナ級冒険者『青い雷光』というチームで、二人がギルドを訪れるのを待ち伏せして、二人の前に立ちはだかる。
「君が、トールデイン王国から移籍してきた最強冒険者と呼び声高いイリス殿かな? ──噂以上の美人だ……。──おっと、今日は、君を我がチームに迎えたいと思ってね。君と同じプラチナ級冒険者チームだから申し分はないだろう? 『青い雷光』は、治癒士の君を歓迎するよ!」
『青い雷光』のリーダー、クレリオンは一目でイリスを気に入った様子だった。
イリスの肩に手を回し、ユキタカの存在には気づいていない様子だ。
「私には仲間がいるのでお断りします」
イリスは肩に回された手を軽く払う。
「仲間? ああ。彼の事か」
クレリオンは、冒険者とは思えない一般庶民姿のユキタカに気付くと、その全身を見渡す。
「こういう者です」
ユキタカはい挨拶とばかりに名刺をクレリオンに渡す。
名刺を知らないクレリオンは、不思議そうに、その名刺を受け取り、目を通す。
「ユキ・ゴトー? これが君の名前かい? 変わった名前だな。申告しているスキルは確か棒術使いと聞いた。失礼だが、レベルはどれくらいかい?」
クレリオンはユキタカが全く強そうには見えないので、イリスとパーティーを組むからには相当レベルが高いのだろうと考えた。
「クレリオン、受付嬢の話では、彼はまだ、ウッド級(素人、レベル0~2くらい)らしいぞ」
『青い雷光』の仲間の一人である忍びの姿をした男が、リーダーに入手した情報を伝えた。
「ウッド級!? 正気かい君? ウッド級は冒険者とも言えないような階級だよ? 普通は、レベル5くらいまでは事前に上げておいて、冒険者登録後、薬草採取クエストをすぐに完了させ、駆け出しのアイアン級に昇格するのが常識だが……」
クレリオンは冒険者を目指すうえでの初歩的な常識を教えた。
どうやら、本人に悪気はないようで、ユキタカの常識の無さを心配しているようだった。
「へー、そうなんですね? 教えてくれてありがとうございます」
ユキタカも嫌味の無い言い方に、親切な人だな、くらいに受け取った。
「本当に素人じゃない。いえ、素人はまだ、常識を知っている分、まだ、マシかもしれないわ」
この様子を伺っていた『青い雷光』のメンバーの一人で魔術師の姿をした女性冒険者が今回ははっきり嫌味とわかる言い方をした。
「リアナ、失礼だぞ?」
リーダーのクレリオンが、魔術師の女リアナを注意する。
「リーダー。リアナの言う事ももっともだぜ? こう言っちゃなんだが、そちらのプラチナ級冒険者イリスと全く釣り合っていないじゃないか。それどころか足を引っ張るレベルだろ」
大きな剣を背負う戦士が、魔術師リアナの肩を抱いて庇った。
どうやら、この二人は付き合っているようだ。
「マリオも言い過ぎだぞ! ──確かに最強レベルの治癒士と素人では、不釣り合いではあるが……。──ユキ・ゴトー君だったね? 君の為にもはっきり言うが、パーティーを組む相手は考え直した方がいい。格上過ぎる者と一緒では、君の命にも危険が及ぶし、イリス殿もレベルにあったクエストができないだろう。君も男なんだから、彼女の為にそれくらい気を遣ったらどうだい?」
クレリオンが仲間の意見を代表する形で、ユキタカに苦言を呈した。
「みなさん失礼ですよ。ユキがいなかったら今の私はここにいません。それに、彼は私などより、とても強い人です。これ以上、ユキの侮辱するようならば──」
イリスが珍しく感情的になって一歩前に出たが、それをユキタカが手で制した。
「イリス、大丈夫。僕は気にしていないから。──彼女と僕は、お互い納得したうえでチームを組んでいます。そして、彼女が、あなた方のチームに入らないと判断したのなら、話は終わりでよろしいでしょうか?」
ユキタカは内心、相手がラノベに出てくるような、典型的上級冒険者姿のチームに、ドキドキしていた。
「……イリス殿。今は一時の感情で彼を選んでも、いずれ後悔する時が来ます。その時はうちに来てください。歓迎しますよ」
クレリオンは、イリスを諦めないとばかりに予言すると、仲間を連れてその場を去った。
「……正論を言っているのだけど、一面的で、必ずしも正しいとは言えないんだよなぁ」
ユキタカは苦笑してイリスにつぶやく。
「間違っていますよ! ユキは強いのですから」
イリスは最初、怒っていたが、ユキタカが否定してくれたので、すぐに落ち着いた様子に戻る。
「彼らがこの街最強のチームなんだよね? 魔王討伐チームにスカウトできないかと思ったけど、そういう感じの相手じゃないかな……」
ユキタカはしばらくこの街を拠点にして、いい人材がいないか探すつもりでいたが、第一候補であったチームが期待外れだった。
彼としてはレベルよりも性格を重視していた。
レベルは、転移ダンジョンで上げればいい、と思っていたからだ。
性格の不一致は、長い旅を一緒するのに障害となる。
誰かの為に我慢する環境になるのは、仲間としても背中を預けられないと判断したのだ。
それに同意するように、ユキタカの背負うリュックの中で大人しくしていたマロが、
「ワン」
と一声吠えると、イリスもそれに同意して、頷くのだった。




