第39話 その後の話
第一飛行師団を率いていた魔族の師団長だけでなく、多くの魔物を巻き込んで消滅させた為、他の魔物達は恐慌状態に陥った。
王都を蹂躙していた残りの魔物達は、慌てて飛翔すると、逃げる為、北の空に飛び立つ。
だが、ユキタカが姿を変えているランス・ファイスはそれを見過ごすわけもない。
逆に飛び立ってくれたから、王都の住人達を巻き込む恐れも無くなった。
ランス・ファイスは、『神器・傘』の変化した槍を構えると、逃げる残りの魔物達に向けて、その力を遺憾なく発揮するのだった。
トールデイン王国の王都は、短時間の魔王軍の襲来で、小さくない被害を受けた。
至る所で消火活動が行われ、鎮火されているが、襲撃により、死傷者も沢山出ている。
王都民にとっては、青天の霹靂とも言うべき、突然の危機だったが、それも、無名の槍使いが救う事となった。
その名はランス・ファイス。
王宮の人々は、この人物を『神槍使いのランス』と呼んで讃えた。
そばにいる『聖拳の治癒士イリス何某』も、同様に讃えられた。
負傷者の治療に活躍したし、残った魔物の駆除にも大活躍したからである。
「お前見たか!? 一瞬で魔王軍を消し飛ばした瞬間を!」
「見たさ! 王都の空を覆う程の魔王軍が現れた時には絶望しかけたが、あの英雄があっという間に綺麗な空を取り戻してくれたよ」
「俺は逃げていて空を見る余裕なんてなかったよ。だが、上空が影に覆われていたのに、一瞬で地上を照らす太陽の光が戻ってきてから、ようやく気付いたよ」
「私なんて、魔物の魔法で火傷を負ってもう駄目だと思ったら、あの偉大な治癒士様があっという間に治療してくださったわ。あんな魔法、初めて見たよ」
「それに、お二人とも美男美女で、絵になるんだよな」
王都民達は、魔王軍を討伐した英雄として、二人を讃えるのだった。
「「へっくしょん!」」
ランス・ファイスとイリスは、王都を救うとそのまま、翌日には王都をあとにしていた。
国王が二人を王都に留めさせようと、酒池肉林のパーティーを準備していたが、それを嫌っての事のようだ。
すでに、王都中には英雄であるこの二人の人相書きが早くも出回り始めていたが、二人の姿を目撃した者はいない。
なぜなら、ランス・ファイスとイリスは、『神器・マスク』を使ってその顔を変えていたからである。
「本当に便利なものですね」
イリスは王都を離れ、辺境に向かう乗合馬車の中で、変身しているユキタカを見た。
ユキタカは年配の人物になっていた。
手にしていた槍は杖に変化している。
イリスはその妻といった風貌の年配の女性姿だ。
二人を疑う者はいない。
「国を出る直前まで、この姿で良いかもしれないですね」
ユキタカは笑う。
イリスが綺麗な見た目から、おばさんになってるのには違和感しか感じないが、イリスもランス・ファイスの姿にずっと違和感を感じていたのかもしれない、とそこでようやく気付いた。
「ふふふっ。そうですね、お父さん」
イリスは変身した姿の役になり切ると、目尻にしわを作って笑う。
「はははっ!」
ユキタカはイリスの演技に笑うと、二人は国境まで夫婦役を演じるのだった。
その頃、王都では──
勇者シオン一行は、打ちのめされていた。
特に勇者シオン、聖騎士レオの二人は、一度ならず、二度、三度と圧倒的な力の前に為す術もなく敗北していたから、自尊心はズタズタになっていた。
特に、魔王軍の師団長相手にも何もできなかった事は、ショックが大きい。
あんな相手と戦う事になるのだと思うとなおさらだった。
今回はランス・ファイスとイリスの二人がいたから、殺されずに済んだが、もし、いなかったら自分達はあそこで終わっていた。
それに、魔王に目を付けられた事で恐れを抱く事になった。
魔王軍を返り討ちにしたランス・ファイスとイリスはすでに、王都をあとにしており、国王もその事で混乱している。
つまり、彼らも、次、また同じ規模の魔王軍に襲われたら、王都が滅びると自覚しているのだ。
「……みんなどうする?」
勇者シオンは、王宮の一室にみんなを集めると、今後の事について問うた。
「どうするって言っても、国王陛下の判断に任せるしかないだろ? 俺達は稀人なんだから、この世界の事はよくわからないしさ」
聖騎士レオが、自信喪失して投槍気味に答えた。
「今回の事で完全に流れが変わったと思います。ここに来る前、貴族達が私達の扱いについて話し込んでいましたから」
賢者ルナは、生気を失った目で淡々と伝えた。
「僕達の扱い? ……それはどういう事だい?」
勇者シオンが聞き捨てならないとばかりに反応した。
「わからない? 私達は今や、魔王軍に目を付けられて邪魔者扱いなのよ。ここに置いておけば、また、魔王軍に襲撃を受ける可能性が高いから、追い出した方が王都の安全を保たれると、みんなが思っているのよ」
「馬鹿な! 僕達は勇者一行だぞ!? そんな貴重な存在を追い出してどうするんだ!? 国家の戦力なのに!」
勇者シオンは憔悴した目で、賢者ルナを睨むと噛みついた。
「私に言わないでくれる? ここの人々は少なくともそう思っているのだから」
賢者ルナは、勇者シオンに冷笑する。
「くそっ!」
勇者シオンは、空いている椅子を蹴り飛ばす。
椅子は壁に叩きつけられ、砕け散った。
「物に当っても仕方ないわ。もし、本当に追い出されるなら私は私のやりたい事をやるだけだよ」
聖女セイは、すでに考えが固まっている様子で、表情には決意が滲み出ている。
「とにかく、追い出されないよう、僕達の存在意義を国王陛下に改めて理解してもらうしかないない。勇者召喚は一大事業、それも当たりを出して、僕達が現れたのだから、そう易々と追い出されはしないと思うけどね」
勇者シオンは、みんなを落ち着かせようと提案するのだったが、自分が一番動揺していた。
「……ここにいても、もう、あまり意味はないかもしれない」
ランスとイリスを国王に紹介したミスリル級冒険者ダフネ・サンセッドは、王都にある自宅で決意をしていた。
ダフネ・サンセッドは、トールデイン王国の冒険者ギルド王都本部では、優秀な人材として重宝される人物である。
だが、今回の魔王軍襲来では自分の力に限界を感じていたのだ。
王都の近くにはダンジョンがあり、そこでレベルを上げる事も出来るが、すでに、踏破したダンジョンである。
今の自分のレベルをさらに上げるには、攻略難易度が高いダンジョンに挑戦するのが、新たな成長の近道だろう。
そして、辺境にはランスやイリスのような化け物がいる事もわかった。
自分も便利で楽な王都の環境から、辺境に生活の場を移して強くなる事を心に誓うのだった。
二週間後。
ユキタカとイリスは、トールデイン王国の国境を越え、カールセン王国入りしていた。
すでに二人とも、『神器・マスク』を取って、元の姿に戻っている。
「ようやくキョウガイの街に帰ってこれましたね」
イリスも久し振りにユキタカの姿を見て安堵した。
「ここでもう少し、レベルを上げてから魔王討伐に臨みたいのだけど、どうかな?」
ユキタカが、イリスに自分の意思を改めて告げる。
「はい、私も、魔王軍幹部との闘いで殴った手応えからもう少し強くならないと魔王に勝てないかもしれないと思いました」
イリスもユキタカの意見に同意した。
二人の意思が固まったところで、ユキタカが背負っていた神器『リュック』から、
「ピピピピ……」
という音が鳴る。
イリスが反応しないところを見ると、自分にしか聞こえていないようだ。
ユキタカは神器『リュック』を降ろすと、中身を確認する。
すると頭の中に、
『次元魔法収納の中で、十年が経過したので、卵がもうすぐ孵ります』
と中身の表示がされた。
「え!? ──イリス、ダンジョンで入手した卵が孵るみたいだよ!」
「本当ですか!?」
ユキタカは急いで神器『リュック』から卵を取り出し、イリスはすぐにその場にタオルを敷く。
ユキタカが卵をその上に置くと、すぐに卵の殻にひびが入った。
「いいタイミングだね。新たな仲間になってくれるかもしれない」
喜ぶユキタカ。
「ふふふっ。どんな子が生まれてくるのでしょうか、楽しみです」
笑顔で応じるイリス。
二人は、魔王討伐の目標を前に、新たな仲間の誕生を迎えるのだった。




