第38話 魔王軍の襲来
「魔王軍は、トールデイン王国に宣戦布告する! 理由はわかっているな!? 勇者召喚を行った事はすでに、魔王様の耳に入っているぞ! 異世界の勇者達よ、出てくるがよい! 我らは魔王様のご命令で貴様達の息の根を止めに来た、魔王軍第一飛行師団である。隠れても無駄だぞ!」
王都上空を飛行する魔物達の中でも、ひと際大きな翼と体格を持つ悪魔の姿の魔物が王宮を見下ろすと、音声魔法を使い、王都全体に聞こえる音量で叫ぶのだった。
「あれは、魔族でございます、陛下! 我が国は魔王軍に宣戦布告されました。至急、戦いの準備を! ──お前達、急げ!」
近衛騎士団長は、傍にいた部下に命じる。
その場に居合わせた将軍達も緊急事態に大慌てになった。
「聞こえておるわ! ──勇者達に命じよ! 今こそ、働きの場であると! こういう時の為に召喚したのだからな!」
「お待ちを陛下! 勇者殿達はまだ、成長の途中でございます。敵は王都の結界を破って侵入してくるような強者。今、そんな相手と戦わせるべきではございません!」
近衛騎士団長が、国王の命令に苦言を呈す。
勇者は未来の切り札だが、今はまだ、その力はない。
実際、一対一なら近衛騎士団長は、勇者達に勝てるし、部下の数人も互角以上に渡り合える程度だからだ。
「そんな悠長な事を言っている場合ではあるまい! 敵は目の前にいるのだぞ!」
国王の言う事も間違いではない。
敵が待ってくれるわけがないのだ。
待つ気がないからこそ、勇者を早々に退治する為、魔王は、こんな遠方のトールデイン王国に軍を派遣しているのである。
「ですが……!」
近衛騎士団長は、苦悶に満ちた表情で、きっと将来強くなってくれるであろう勇者シオン達一行の事を考えると、今、戦わせるのは時期尚早だと考えていたから、言葉に詰まった。
「ならば、勇者殿達に勝利したこの者達に、戦ってもらえばいいのでは?」
重臣の一人が、その場から避難する事なく、残っているランス・ファイス(ユキタカ)とイリスを指差した。
大騒ぎになっていた謁見の間の者達は一瞬でピタリと止まる。
「おお、そうだった! ランス・ファイスとイリス何某よ。魔王軍を討伐せよ! 王国の危機だ、当然戦ってくれるな?」
国王は、期待の目でランス・ファイスとイリスを見つめた。
「……魔王討伐は勇者様達の仕事だと、先程陛下がおっしゃったばかりですが?」
ランス・ファイスは、自分達の魔王討伐目標を、否定したばかりである事を指摘した。
「こ、これは、王国の危機である! ならば、誰もが国の為戦う義務があるだろう!?」
「いえ、私はこの国の民ではありません。ですから、その義務はございません。ですが、どうしてもおっしゃるなら、こちらの条件を飲んで頂きたい」
ランス・ファイスは淡々と話す。
その間に、魔王軍は、痺れをきたした。
上空から、火魔法や火炎息を要する魔物の攻撃を開始したのである。
王都上空は、火の塊が無数に舞い、王都の街並みに降り注ぐ。
呆然と立ち尽くしていた王都民は、一斉に悲鳴を上げて逃げ惑い、火に包まれる。
「貴様、こんな緊急事態に条件だと!?」
国王は目を剥いてランス・ファイスを睨みつけた。
「はい、私達や稀人、勇敢な者達が、魔王討伐の為に旅に出るのを国が邪魔しなければ、何の問題もありません。もちろん、命令や監視など、干渉されないという条件が必須ですが」
先程まで、爵位を与えてでもこの国に引き留めようとしていた国王に、自由を求めた。
「陛下! 敵は王都内上空にいて反撃も難しいです。結界も破られた今、この王宮も無防備ですぞ。すでに、魔物の一隊がこちらに向かっている様子。ご決断を!」
重臣の一人が、国王に判断を迫った。
それくらい切迫した状況なのだ。
「わ、わかった! お主達の条件を飲もう! 早く、敵を討て! わが王都が、王宮が燃えてしまう!」
「言質を頂きました。──イリス?」
「はい!」
ランス・ファイスはイリスと視線を交わすと、窓から飛び出していくのだった。
勇者シオンは魔王軍に指名されたので、周囲が止めるのも聞かず、仲間達と一緒に外に飛び出していた。
「勇者シオンはここにいるぞ、魔物ども! さあ、かかってこい! 勇者の本当の実力を見せてやる!」
勇者シオンは、ランス・ファイスとイリスに、一方的に負けた事が余程自尊心を傷つけたのか、力を示そうとしていた。
それは、聖騎士レオと賢者ルナも一緒である。
聖女セイは別の理由で、力を示そうとしていた。
それは、ユキタカの生存を知った事で、この世界で前向きに生きる理由が生まれたからだ。
四人は、それぞれ、スキルの能力を活かして、上空を飛ぶ魔物に攻撃を仕掛けた。
下級の魔物達は、勇者シオン達の攻撃に次々に仕留められていく。
王国の魔法使いや騎士達も、これを見て勢いに乗ると反撃に出た。
城壁に備えつけの巨大な弩を王都内上空に方向転換させ、攻撃魔法、飛ぶ斬撃を放つ。
だが、魔物達の攻撃もまた強力だった。
数匹一組で力を合わせると、巨大な火球を生み出し、地上の魔法使いや騎士達に攻撃を仕掛けた。
巨大な火球は地上の兵士達を襲い、焼き尽くす。
「くっ……。制空権を奪われた状態で、あんな強力な攻撃を防ぐのは困難だ……!」
隊長の一人が、不利な現状を口にする。
そんな中、勇者シオン達は、それぞれが強力な魔法を駆使して、対抗していく。
そこに、魔王軍第一飛行師団の師団長である魔族が、気づいた。
「そこにいるのはもしや、勇者か! わははっ! その程度の力しかないとは、魔王様の言う通りだった! ──弱い内に奴らを八つ裂きにするぞ!」
魔族の師団長は、勇者シオンに向かっていく。
「敵将がこちらに向かってくるぞ、火力を集中させるんだ!」
勇者シオン達は、魔族の師団長がこちらに真っ直ぐ向かってくるので、チャンスとばかりに迎え撃つ。
だが、魔族の師団長はその攻撃を易々と弾きながら、突進してくるではないか。
聖騎士レオが盾を構えて防ごうとするが、盾は砕かれ、聖騎士レオも建物の壁に吹き飛ばされて、動かなくなった。
「弱い、弱過ぎるぞ! だが、容赦はせぬ。それが魔王様のご命令だからな! 勇者達は皆殺しだ!」
魔族の師団長が、斬りかかる勇者シオンの剣を吹き飛ばして、鋭い爪で鎧を砕く。
賢者ルナの火魔法は、魔族の師団長の一息で消し飛ばされ、圧倒的な差を見せられた。
その中で、聖女セイは、聖魔法による攻撃で、魔族の師団長の顔にかすり傷を与えたが、抵抗はそれまでだった。
魔族の師団長が、衝撃波を繰り出し、勇者達は呆気なく吹き飛ばされたのだ。
「終わりだな」
魔族の師団長が、勇者シオン達に止めを刺そうと手を掲げ、魔法を繰り出そうとした時だった。
イリスが、いつの間にか目の前に立っていた。
「いつの間に!?」
魔族の師団長が、目を剥く。
イリスは答える事無く、前に踏み込むと敵に拳を数発叩き込んだ。
魔族の師団長は、あまりの威力に吐血すると、思わず上空に飛んで逃げる。
「なんという威力だ……! ──レベル『65』の殴り系治癒士!? そんな馬鹿な……!?」
魔族の師団長は相手のスキルが見えるのか、イリスの強さに驚愕した。
そこに、イリスとは別の異様な力を感じ、そちらに視線を向ける。
そこには、槍を構えた男がこちらに鋭い視線をむけていた。
「こっちは……、レベル『01』のスキル無し? なんだ、ただの雑魚──」
魔族の師団長が、安堵のつぶやきを発した時である。
そのレベル『01』のスキル無しが、奇妙な形の槍をこちらに向けて突きだした。
その瞬間、強力な風が巻き起こり、同時に衝撃波が魔族の師団長を襲う。
一陣の強烈な風を含む衝撃波は、魔族の師団長だけでなく、周囲にいた多くの飛行型魔物達も巻き込み斬り刻み、消し飛ばすのだった。




