第35話 訪問者達
ユキタカが姿を変えているランス・ファイスとイリスは、国内最強を誇る精鋭が集まる近衛騎士団や勇者一行を、十分驚かせる強さを示した。
そうする事で、推薦人であったダフネ・サンセッドの面目を保ったのだったが、これ以上の義理はない。
イリスを裏切った元冒険者仲間の捕縛に力を貸してくれた恩は、これで返せただろう。
「さっさと、辺境に戻ってゆっくりしたいところだね。でも、イリスの事をステファン第一王子殿下がかなり気に入っている様子だったけど……」
ランス・ファイスが渋い声で、イリスに漏らした。
二人は、二部屋が繋がっているリビングのような一室でゆっくりしている。
「ふふふっ。私も辺境に戻りたいです。ここは居心地が悪いですから」
イリスはランス・ファイスに同意すると、暗にステファン第一王子に誘われても断る態度を匂わせた。
ランス・ファイスは内心ほっとした。
せっかくできたこの世界での大事な仲間であったから、ここでお別れとはなりたくない。
コンコン。
扉がノックされた。
ランス・ファイスは、イリスに視線を向ける。
イリスは黙って頷く。
「はい。ちょっとお待ちください」
ランス・ファイスは渋い声で応じると、間にある待合室のような小部屋を通って、扉を開いた。
そこには、ダフネ・サンセッドが立っていた。
同じ客人として隣の部屋をあてがわれていたので、不思議ではない訪問である。
「……少しいいですか?」
ダフネ・サンセッドは冒険者の中でもかなり上位のミスリル級冒険者だが、ランス・ファイスとイリスに対しては、腰が低い。
二人の強さを一番知っているのだから、当然だったが。
「どうぞ」
二人は部屋に招き入れる。
ダフネ・サンセッドは椅子に座ると、すぐに目的を口にした。
「実は、ステファン王子殿下が、イリス殿を叙爵して、王都に留まらせようと考えているようです。──イリス殿はその気がおありですか?」
「いえ、私の両親が亡くなった時、親族は助けてくれず、王家も周囲の助言にだけ耳を傾け、幼い私の言う事には耳を傾けてくれず、家は取り潰しとなりました。正直、その不信感は残っていますし、今さら、この国の貴族になる気もありません。私は冒険者として生きるつもりです」
イリスは毅然とした態度で答えた。
ダフネ・サンセッドに答えているというより、その向こう側にいる王家に対する言葉に聞こえた。
「……断るとは思っていました。そこで、王子殿下は、冒険者ギルドの地位を一足飛びで、ゴールド級からオリハルコン級に上げる手伝いができると、申し出ています」
ダフネ・サンセッドは、無駄とわかっていたが、王家から命令された事を伝えているようだった。
「お気遣い感謝しますが、自分の力で地位は上げるので問題ありません。ダフネさん、大変な役目をさせてごめんなさい」
イリスはダフネ・サンセッドの心情を察したのか労いの言葉をかけた。
「いえ、私もお二人を不用意に、王家へ推薦してしまったと、後悔していますから」
ダフネ・サンセッドは、二人の強さに敬意を持っている様子だった。
彼女も、ミスリル級冒険者として誇りがある。
二人は自分よりはるかに強いし、何より、ダンジョン攻略という偉業を成し遂げても、それを鼻にかけない謙虚さがあった。
自分は今の地位に驕って、その二人の気持ちを察せず、王家に推薦して迷惑をかけたからこそ、反省しているのだった。
「あなたの立場なら、当然の行動だったのでしょう。普通に考えて王家に仕える機会は名誉と考える人も多いでしょうし、気にしなくていいですよ」
ランス・ファイスもダフネ・サンセッドの立場を気にかけるのだった。
ダフネ・サンセッドは、最後にまた、お詫びをすると出ていった。
そのまま、知らせに行ったのか隣の部屋に戻った気配はない。
その数分後、また、扉がノックされた。
「「?」」
次は誰が訪問してきたのか想像できない二人は、首を傾げる。
また、ランス・ファイスが扉を開けて出迎えると、そこには聖女セイこと鬼道院聖が立っていた。
「これは聖女様。どうぞ、お入りください。──それで、何用でしょうか?」
ランス・ファイスは、内心驚きながら、部屋に通す。
イリスはダフネ・サンセッドが戻ってきたと思っていたから、聖女セイが入ってきて、こちらも驚いている様子だった。
「実は、お二人に聞きたい事があるんです……」
聖女セイは、聞きづらそうな態度を取っていたが、勇気を振り絞るように声を発した。
「「聞きたい事?」」
質問の内容が想像できない二人は、視線を交わして疑問符を頭に浮かべた。
「はい。お二人のいた辺境に、稀人はいましたか? もしくはそういった情報を聞いた事はありませんか?」
聖女セイは、思いつめた様子である。
「……いえ。稀人を見た事はないですね」
ランス・ファイスが、イリスに代わって答えた。
イリスに嘘を吐かせない為である。
稀人といったら、ユキタカの事だろう。
本人なら、自分以外見た事がないから、嘘にはならない。
それに、自分が嘘を吐いてもバレないかもしれない、という気持ちもあった。
というのも、聖女セイは、そのスキルの能力として、嘘か真かの判断ができる力を持っていたからである。
ランス・ファイスは、全身、『神器・スーツ一式』で身を固めているから、嘘を誤魔化す能力があるかもしれないと考えたのだ。
聖女セイは、真実を見抜く力を使用したのかわからないが、残念そうな表情になった。
「……ただし、情報なら少し」
「え? ──それはどういった情報ですか!?」
聖女セイは、一筋の希望を見出したかのように、ランス・ファイスに迫る勢いだった。
「王都の冒険者が、逃げる稀人っぽい格好の人物を、辺境地帯にある奈落の谷に射落として去っていった、というものです。真偽は定かではありません。目撃者も自分の命の心配をして口を噤んでいた話ですが、あの奈落の谷なら、落ちた者は助からないでしょうね」
ランス・ファイスは、聖女セイが自分に無関心だった勇者一行の一人だったので、自分以外の稀人の存在を探していると考えて嘘を吐いた。
君達が見捨てた男は死んだよ、と暗に答えて、思い出してもらおうとしたのだ。
「!」
聖女セイは、それがユキタカ・ゴトーの事だとすぐにわかったのか、言葉に詰まる。
そして、ショックで眩暈を起こすと、その場に倒れ込むのだった。
ここまで読んだ頂き、ありがとうございます。
よろしければ、作品フォロー、いいね♥、レビュー★を押して頂けたら幸いです。
応援よろしくお願いします(。・ω・)ノ゛♪




