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スキル無しゴトーさんは最弱のはずです!~勇者召喚に巻き込まれたモブサラリーマンの異世界冒険記~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第34話 殴り系治癒士の実力

 勇者一行に圧倒的な力で勝利した瞬間、練兵場には大きな歓声が巻き起こった。


 見物人達は、ユキタカが姿を変えているランス・ファイスの事を、


「「「神槍ランス!」」」


 と大合唱する。


 見物していたのは近衛騎士団が大部分だ。


 その彼らの中で、勇者一行と一対一で勝利する者は少数だった。


 それを四人同時に相手して勝ってしまうのだから、沸き立つのも仕方がない事だった。


「静まれ! ええい、静かにせい! ここは栄えある王宮の練兵場だぞ!」


 ステファン第一王子が、盛り上がる見物者達に少し、不満げな顔をした。


 それに気づいた見物人達が、ようやく静かになる。


「ランス・ファイスといったか? 腕の方は、認めよう。どうだ、わが友である、勇者シオン達の護衛兼教育係になるつもりはないか? 報酬は弾むぞ」


 ステファン第一王子は、先程断られた事を忘れたように、改めて、ランス・ファイスを勧誘した。


「私は辺境でのんびり暮らすのが性に合っております。連れのイリスも同じ意見ですので、お断り致します」


 ランス・ファイスは相手が王子でもはっきりと断った。


 内心では冷や冷やものだったが、元々自分を殺そうとした国である。


 今さら雇われるつもりはない。


 それに、あれだけ強いと思っていた勇者一行も、神器を装備した自分には敵わない事も確認できた。


 だから、ランス・ファイスの中では、「ざまぁ」ができて、満足だったのである。


「なんともつれない武人だな。──ところで、イリス何某の方の実力も試しておきたいな」


 ステファン第一王子は、ランス・ファイスの頑なな返答に、少し考え込んだが、イリスを説得できればランス・ファイスも説得できると、判断したようだった。


 そこへ、介抱されていた勇者シオンと聖騎士レオが怒りの表情で立ち上がった。


「まだだ! 僕達は少し油断しただけだ! それに、王国の宝物庫にあった鎧を砕くなどありえない。きっと、ダンジョン攻略の際に、得た国宝級の槍に違いない。武器が凄いだけで中身はきっと大した事はないはずだ!」 


「俺もその意見に賛同だ! その槍無しで、もう一度勝負しろ!」


 勇者シオンと聖騎士レオは、恥をかかされた事に、納得がいかない様子である。


(うっ。結構正解だからなぁ……)


 ランス・ファイスは槍に変化している『神器・傘』のお陰で強さを保っていられているのは事実だったから、内心、少し困るのだった。


 しかし、少しだけである。


 ランス・ファイスは、手にしている槍を手放したとしても、負ける気がしなかった。


 というのも、こちらの世界に適した装備に変化してる『神器・スーツ一式』や『神器・革靴』があったからだ。


 未だどんな能力かははっきりとは確認できていないが、『神器・傘』の力以外にも、それを振るう為の力や反応速度、疲れ知らずの体力など、自分の能力がチート級に底上げされているのを強く感じていた。


 それらが他の神器によるものである事は、この半年の間使用して、疑問から確信に変わっている。


 ランス・ファイスが槍を離さないので図星と読んだのか、勇者シオンと聖騎士レオは、さらに手にしている槍の代わりに、他の槍で勝負しろと迫った。


「黙りなさい。ランスはあなた方四人を相手に、圧倒的な武威を示したのですよ。それを槍のせいで負けたと言い掛かりをつけて、恥ずかしいと思わないのですか?」


 イリスが二人の前に立ちはだかる。


「お前が黙れ!」


 聖騎士レオがイリスに掴みかかった。


 勇者シオンも、立ちはだかってきたイリスに、怒りをぶつけようと、手にした剣を向けた。


 イリスは聖騎士レオをあっさり躱し、剣を向けてきた勇者シオンの懐に一瞬で飛び込む。


 そして、その顎に拳を下から叩き込んだ。


(漫画みたいなアッパー! さすが、殴り系治癒士!!)


 ランス・ファイスが、内心でイリスの見事なパンチに、親指を立てて賞賛した。


 勇者シオンはまた、白目を剥いて空を大きく舞うと、見物人達のいるところに、落下する。


 イリスはそれを見届ける事無く振り返ると、聖騎士レオに対峙した。


 聖騎士レオは、慌てて大剣を抜く。


 イリスはそれを確認すると、躊躇なく踏み込む。


 聖騎士レオは、勇者シオンがノックアウトされた姿を見ているから、油断なく大剣の斬撃範囲に入ったイリスの胴体を薙ぐ。


 だが、その剣先は虚しく空を斬る。


 イリスは、直前に、急停止して大剣の間合いに入らなかったのだ。


 そして、通過する大剣に拳を振り下ろし、大剣を叩き落とした。


 いや、その刃を砕いていた。


 聖騎士レオが、手を痺れさせて呆然としていると、イリスが踏み込んで一気に距離を詰め、左の拳が顔に繰り出される。


「ま、負けました!」


 思わず聖騎士レオが負けを認めて叫んだ。


 イリスの拳は、当たる直前で拳を止めていた。


 しかし、風圧は止められず、聖騎士レオの顔に見えない衝撃がめり込んだ。


 聖騎士レオは吹き飛び、柱に叩きつけられると、白目を剥くのだった。



「……!」


 ステファン第一王子は、イリスの強さまで勇者シオン達によって確認する事になり、驚きに呆然としていた。


「お二人の強さは、よくわかりました! ダフネ・サンセッド殿の面目は保たれたと判断してよいですね、王子殿下?」


 それを察した部下の一人が、間に入る。


「そ、そうだな。わが友、勇者シオン達がまだ未熟だったとはいえ、二人がダフネの言う通りの人物である事は証明された! 今日はこれくらいでお開きだ。三人とも、客人として丁重に扱うから、今日はゆっくり過ごしてくれ」


 ステファン第一王子は、バツが悪そうに言うと、そそくさとその場をあとにするのだった。


「ランスさん、彼女いますか?」


 ランス・ファイスとイリスが王子の背中を見送っていると、いつの間にかそばまで寄ってきていた賢者ルナが、ランス・ファイスの腕に絡みついてきた。


 大きな胸の弾力が、腕に思いっ切り伝わってくる。


 ランス・ファイスは内心、いろんな意味で驚いていた。


 胸の弾力もだが、四宝寺瑠奈は、知的でクールな女子高生だと思っていたからだ。


 それに、以前、自分が一緒の時は、一度も見せなかった態度にも驚いていた。


 聖女セイも、友人の見せる初めての姿だったのか、軽く目を開き、驚いた様子を見せている。


 そこへイリスが無言で間に入って、二人を引き剥がした。


「イリス?」


 ランス・ファイスは、渋い声でイリスの反応にも内心驚く。


 イリスも自分の行動に驚いたのか、ハッとする。


 そして、一度咳をすると、


「ランス、お言葉に甘えて今日は休ませてもらいましょう」


 と提案した。


「あ、ああ。そうしよう」


 ランス・ファイスは内心でいろんな事に混乱しながらも、侍従の案内で自分達の部屋に移動するのだった。

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