第32話 前哨戦
王宮の練兵場は、王家の者が鍛錬する為に使われているが、それ以外は近衛騎士団が使用していた。
勇者・鷹宮野シオンを先頭に、聖騎士・獅子堂レオ、賢者・四宝寺瑠奈の順で進み、最後に少し距離を取って聖女・鬼道院聖が後に続く。
ランス・ファイス姿のユキタカとイリスは、ミスリル級冒険者、『魔斬りの剣女』ことダフネ・サンセッドと共に、近衛騎士に囲まれる形で最後尾を歩いて練兵場に入った。
勇者一行は慣れた様子で腰の剣を抜くと軽く振り、準備運動を始める。
ランス・ファイスとイリスは視線を交わすと、ランスは魔法収納付き手提げ袋から神器『傘』が変化している槍を取り出し、イリスは魔法収納から専用籠手を取り出し装着した。
「……お二人とも、わざと負けては駄目ですからね? そんな事をしたら、推薦した私のメンツがなくなるだけでなく、あちらを怒らせる事にもなりますから。彼らのわがままぶりは、王宮では有名なので手加減したら後々厄介です」
ダフネ・サンセッドは二人に近づくと、小声で忠告する。
ランス・ファイスにとっては、ダフネ・サンセッドのメンツはどうでもいいし、護衛になるつもりもさらさらない。
だが、イリスの立場が悪くなる事だけは、避けねばならなかった。
イリスはランス・ファイスの気持ちを察したのか、
「私の事は気を遣わずともよろしいですよ?」
と小声で告げた。
そこへステファン第一王子が部下達を連れて練兵場に入ってきた。
「両者とも準備は良いか? それでは勇者シオンよ、前回同様、まずはダフネと闘いたいか?」
「ああ、前回はコテンパンにやれたからな。レオ、今回は勝つぞ!」
「おう!」
勇者シオンと聖騎士レオは、それぞれの高そうな剣を交差させて息巻く。
「もしかして……。──ダフネ・サンセッドさん、二対一で戦うのですか?」
ランス・ファイスは一対一の勝負だと思っていたので、軽く驚いた。
「私はミスリル級冒険者ですよ? 上にはオリハルコン級とアダマンタイト級しかいない、国内でも指折りの冒険者です。そのくらいのハンデは付けますよ」
ダフネ・サンセッドは、相手がランス・ファイスとイリスなので自慢にもならないと思ったが、世間での評価を少し自慢した。
「じゃあ、早くやろうぜ」
聖騎士レオが腕を振り回しながら、練兵場の中央に移動する。
勇者シオンもあとに続いた。
ダフネ・サンセッドもそれに従い、中央に。
ステファン第一王子は、両者の準備が終わったのを確認すると、満足そうに頷く。
そして、部下に手を上げる。
「それでは、──始め!」
部下は王子の指示に従って、開始を宣言するのだった。
両者の試合は、一進一退の好試合だった。
勇者シオンと聖騎士レオは、開始直後に体力や攻撃力、防御力が上がるバフを使用して能力を上げ、コンビネーションを駆使してダフネ・サンセッドに斬りかかった。
ダフネ・サンセッドも、すぐに魔法で自分の能力を上げて対応した。
だが二人とも、会わないうちに成長していたのか、鋭い斬撃の応酬の中、少し押され気味だった。
それでも、やはり、ミスリル級冒険者である。
経験の差を見せるように、時折、隙を見つけて勇者達の足を引っかけて倒したり、掴んで投げ飛ばすなど、体術を駆使して相手を翻弄した。
「くそっ! 純粋な剣の腕で勝負しろよ!」
聖騎士レオが歯噛みしてダフネ・サンセッドに斬りかかる。
「レオ、きっとダフネも余裕がないのさ」
勇者シオンが鋭い指摘をした。
そう、ダフネ・サンセッドはこの二人がかなり成長していたので、本気で戦っていたのだ。
だが、負けるまではいかず、接戦の末、どうにか二人を叩きのめして床に這わせた。
「そこまで!」
審判が止めに入った。
「はぁ、はぁ、はぁ……。お二人とも強くなりましたが、今回も私の勝利ですね」
ダフネ・サンセッドは自分のメンツが保たれた事に安堵した様子だ。
「チッ! 紙一重の差だが、次こそは勝てる距離だ……!」
聖騎士レオが舌打ちして悔しそうだったが、距離がかなり縮んでいる事に満足そうにつぶやく。
「はぁ、はぁ、はぁ……。聖、回復を頼む……」
勇者シオンは聖女セイに声に回復魔法を頼んだ。
聖女セイは、無言で杖を掲げると、二人を回復してみせた。
「ありがとう、聖」
鷹宮野シオンが、感謝する。
「──それでは、ダフネ推薦の二人の実力とやらを、見せてもらおうか。まさか、今の試合で怖気づいたという事もあるまい?」
ステファン第一王子は、その様子を確認すると、お気に入りのダフネよりも、強い冒険者はそうそういないと思っていたから、挑発的だった。
ステファン第一王子が聞いたところでは、イリス何某の方は治癒士で、それも、ゴールド級冒険者だそうだし、ランスの方は冒険者としての階級もない人物だという。
ダフネクラスの実力を持っているなら、それに見合う地位と名声を持っていない方がおかしいと、ステファン第一王子は考えていた。
だから、ランス・ファイスが、最初に断りを入れてきたのは、ダフネがまた誘いを断る為の駆け引きの一つでしかないと睨んでいたのだ。
ちょっと、揺さぶりをかければ、すぐにビビって詫びを入れてくるだろう。
「断るとダフネ・サンセッド殿のメンツにも関わるようなので、私は四人全員を相手にしましょう」
ランス・ファイスは渋い声で、とんでもない事を宣言すると、前に出るのだった。




