第30話 王都へ
ランス・ファイスに変身したユキタカとイリスは、カールセン王国辺境の街キョウガイをあとにした。
国境を越えてトールデイン王国の辺境の街も通り過ぎ、ダフネ・サンセッドの道案内で、三人は馬車に揺られながら一路王都を目指す。
王都までは普通の馬車では一カ月かかる道のりである。
今回は高級馬車という事で、二十日ほどで到着するらしい。
もちろん、旅費はダフネ・サンセッド持ちという事で、ランス・ファイスとイリスも遠慮する必要はない。
しかし、あまり、散財させてはトールデイン王国側に要らぬ借りを作る事にもなりかねないから、二人は道中贅沢をしなかった。
ちょっとした贅沢をしたいと思った時は、自腹で済ませたのだった。
ダフネ・サンセッドはミスリル級冒険者である。
普段なら尊敬され、異名で呼ばれる程、畏怖される存在だったが、ランス・ファイスとイリスを前にしては、気を遣う側に回っていた。
だから進んで、出費はこちらが負担すると申し出たが、ランス・ファイスとイリスは首を縦に振らない。
旅の先々で二人がこちらの金でまったく贅沢をする気がないので、ダフネ・サンセッドは、自分の紹介で王都に連れていくものの、国とこの二人の機嫌を損ねれば自分の首が危ういかもしれないと、感じ始めていた。
冒険者として死は恐れていないが、不名誉な死だけは勘弁したいという気持ちはある。
それだけに、せめて二人との距離を詰めたいと思うのだったが、中々そうもいかないのだった。
ランス・ファイスとイリスは、高級馬車の移動には満足していた。
特にランス・ファイスは、王都から辺境までの道のりは通常の馬車で大変な思いをしていたからだ。
前回の時、乗り心地は最悪で、お尻が痛い日々を一カ月間、ずっと味わっていたから、満足するのも当然である。
どうやら、高級馬車の性能は、昔、勇者召喚された時の稀人によって技術が伝わったものらしい。
ただ、稀人の技術は国や貴族、お金持ちの類に独占されているそうで、その技術が一般化されているものは少ないようだ。
高級馬車もその一つらしく、平民では中々利用できない代物だった。
「帰り道は自腹で高級馬車にしましょうか。普通の馬車で一カ月揺られるのは大変ですから」
もうすぐ、王都に到着するのだが、ランス・ファイスはすでに、帰りの事を考えていた。
「ランス、さすがにそれは、ダフネ・サンセッドさんに失礼ですよ」
イリスはそんなランス・ファイスに対し注意した。
「私が原因ですので、お気遣いは無用です。ただ、王家や貴族に対しては、断るにしても配慮をお願いします。無礼を働けば投獄もありえますので」
ダフネ・サンセッドは二人に忠告した。
と言っても、この二人が黙って投獄されるとも思えないが、口にはしないのだった。
そして、二十日間の旅程を経て、王都に到着した。
ランス・ファイスは久し振りの王都だが、今思うと、王宮とダンジョンへの移動ばかりだったので、決められた道以外通っていなかった事に気付く。
高級馬車はダフネ・サンセッドが指定した宿に移動する。
宿はそれなりに高い宿のようで、地方からやってきた下級貴族やお金のある商人達が宿泊しているようだ。
「今日は旅の疲れがあるでしょうから、ゆっくりお休みください。私は王宮に向かい、お二人を連れてきた事を知らせてきます」
ダフネ・サンセッドはすっかり、尊敬の的であるミスリル級冒険者とは思えない腰の低さになっていた。
二人に一礼すると、馬車に乗って王宮へと早速、向かうのだった。
「……どうしましょうか? 王都に来た事あるのでしたよね?」
ランス・ファイスがイリスの過去にあまり触れないように聞く。
「お気を遣わなくても大丈夫ですよ? 私の元実家は地方だったので、あまり王都については詳しくないですが、それでも、有名なお店くらいはわかるので案内します。ふふふっ」
イリスはランス・ファイスの気遣いが嬉しそうだ。
「じゃあ、何か美味しいものが食べられるところに案内してもらえますか? 王都には数か月滞在しましたが、ほとんど王宮だったので、実は城下のお店を全く知らないんですよ」
ランス・ファイスは情けない気持ちでお願いする。
イリスは快く承諾すると、二人で有名店に向かうのだった。
有名店には行列ができていた。
そこで、ランス・ファイスがダフネ・サンセッドの名を口にすると、お店の店主が現れ、奥に通してくれた。
店内は特別なお客専用と一般専用の席に分かれていた。
もちろん、二人は特別席の方である。
「さすが、ミスリル級冒険者という事なのかな。まあ、名前を使うくらいなら、問題ないよね?」
ランス・ファイスが渋い声で冗談っぽく告げた。
「そうですね。ふふふっ」
イリスも納得すると、二人はお勧めを注文し、その美味しい料理に舌鼓を打つのだった。
しばらく食事を楽しんでいた二人の耳に、隣の席の話し声が聞こえてきた。
「王宮に勇者一行が滞在しているという話は聞いたか?」
「ああ。稀人って話だろう? まだ、若いが、相当な強さらしい。お偉いさん方は国の戦力として計算しているって話だ」
「なんだ、魔王討伐に送り出すとかじゃないのか?」
「それはないだろう。この国は魔王領から遠く離れているし、国も魔王討伐の為に召喚したわけじゃない。近隣諸国に対する牽制だろうな」
「外交ってやつか。そういえば、その勇者一行ってかなりの美男美女らしいぞ。お偉いさん達、自分のところの子供と結婚させようと動いているくらいだからな」
「はははっ。そりゃ、上位スキル持ちの稀人だったら、子供も期待できるから、当然だな。だが、俺の聞いた話では、勇者一行は結構我儘らしい。俺の知り合いの王宮勤めのメイドから聞いたが、最近は特に無理難題を言うから困っていると愚痴を漏らしていたよ」
「強いうえに、王宮でちやほやされたら、我儘にもなるさ。子供だって、親が甘やかせば、自分が偉いと勘違いしちまうからな。相手は稀人、それも勇者様ときたら、注意できる人間なんてほとんどいないんじゃないか?」
「違いない」
隣の席の客は、そこで話を終えると、違う話題に移った。
「……」
ランス・ファイスは、これを聞いて、少し黙り込んだ。
自分が知っている高校生グループは、確かに今どきの子供という感じだったし、多感な時期だろうから、数か月間強くなるのを実感しつつ、周囲から大事に扱われれば勘違いしてもおかしくないだろうなと、思えた。
「大丈夫ですか?」
イリスが同じ稀人のランス・ファイスに気を遣う。
「大丈夫。ちょっと、心配していたんだけど、あの生活環境だと仕方ないか……。僕も勇者スキル持ちでちやほやされていたら、調子に乗っていたと思うしね」
ランス・ファイスは苦笑する。
「ランスに限って、それはないと思いますよ」
イリスが思いのほかすぐに否定した。
「……ありがとうございます」
ランス・ファイスは、高い評価をされた事に少し照れると、素直に感謝するのだった。
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