第29話 王都への召喚状
ランス・ファイス(ユキタカ)とイリスは、ダフネ・サンセッドに引っ張られる形で近くの食堂に入った。
元々、食事はする予定だったが、それはイリスと二人でする予定だったのでランス・ファイス(ユキタカ)は少し、不本意である。
「お二人が国境の街キョウガイにいてくれてよかったです。探す手間が省けましたから」
ダフネ・サンセッドは、笑顔だ。
「その推薦ですが、お断りします」
ランス・ファイス(ユキタカ)は変装した渋い顔と渋い声で、即座に断った。
「そう言わず、お願いできませんか?」
ダフネ・サンセッドは、こびる様子もないが丁寧だ。
「こちらにも生活があるので」
ランス・ファイス(ユキタカ)は、頑として聞かない様子である。
「とは言っても、イリスさんはトールデイン王国の国民として登録されていますからね……。その時点で断るのはあまり、お勧めしません」
ダフネ・サンセッドは困った様子もなく、ランス・ファイス(ユキタカ)ではなく、イリスに視線を向けた。
イリスは深刻な表情を浮かべ、ダフネ・サンセッドが渡された召喚状に目を通す。
「ランス。私は王都に行かないといけないようです……」
「なぜです? ここはカールセン王国なのだから、トールデイン王国のいう事を聞く必要は──」
「あるのですよ、それが。王家の召喚状に、国民は外国にいたとしても従う義務があるのです。私もまさか、お二人がこんなに嫌がるとは思っていなかったので、推薦した手前、申し訳ないと思いますが、イリス殿は冒険者としての地位とダンジョンを踏破した名誉もあり、今やわが国では有名人という事もあります。王家のみならず、貴族も会いたがっていますから、王都まで足を運び、直接断りを入れる必要があります」
「……ダフネ・サンセッド殿。私達を嵌めましたね?」
ランス・ファイス(ユキタカ)は、渋い顔の眉をひそめた。
「うっ……。そうはっきり言われると、心苦しいですが……。実は私も勇者一行の護衛を依頼されていたので、仕事を理由に断り続けていたのです。そして、仕事を終えて王都に戻ったら、また、護衛話になったので、苦し紛れに腕に覚えのあるお二人を推挙させてもらいました。でも、嵌めたわけではないですからね? そこは誤解です」
ダフネ・サンセッドは二人と再会してみて、前回と違う雰囲気に敵に回したらいけない相手と判断したのか、本人も知らぬ間に冷や汗をかきながら弁解していた。
「誤解と言いますが、そもそも、あなたの事はろくに知らないので信用自体ないですよ?」
ランス・ファイス(ユキタカ)は、イリスに関わる事でもあったので、追及の手を緩めない。
「私も軽率でした。本当にすみません……。ですが、先程もお話した通り、召喚状がある以上、出向かずに断るというのはお勧めできません。ただご安心を。私も断った話なので、一度、王都を訪れて直接お断りした方が、問題にならずに済むかと思います」
ダフネ・サンセッドは、自分の判断が、命の危機に直面している気分に陥っていた。
こんな感覚は初めてだった。
すると、黙っていたイリスが口を開いた。
「ランス、私が一度、王都に赴いて、話をつけてきます。その間、こちらの事、よろしくお願いします」
「……一人で行かせるわけがないでしょう。それに召喚状には二人の名が書かれています。イリスが行くなら私も行きますよ」
「ランスはカールセン王国側の人間なので付き合う必要はないですよ?」
「同じパーティーなのだから、一蓮托生ですよ」
ランス・ファイス(ユキタカ)は、イリスの決断に付き合う姿勢を見せた。
すると、その場の雰囲気の緊張感が、嘘のようになくなった。
どうやら、ダフネ・サンセッドの感じた張り詰めた緊張感は、イリスによるものだったようだ。
前回、会った時は、ランスの神がかりな威力の槍に驚かされた部分が大きかった。
だから、そこを高く評価していたのだが、今回はイリスの方に驚かされる事になった。
何故、前回、このゴールド級冒険者のイリスの強さに気づかなかったのか、とダフネ・サンセッドは自問自答するしかない。
「それでは準備もあるでしょうから、二日後の朝、ギルド前で」
ダフネは安堵した様子で食堂をあとにするのだった。
「『魔斬りの剣女』と呼ばれて、大抵の冒険者から恐れられるミスリル級冒険者の私が、二ランク下のゴールド級冒険者に震える事になるとは……。ランス・ファイス殿もあの槍の威力から強いと思ったが、体の底から発せられる重い空気はイリス何某の方が、怖いと感じた……」
ダフネ・サンセッドは、宿泊している宿屋に戻ると、冷や汗を拭った。
ダフネの勘は正しい。
イリスは実際、冒険者の最高峰であるアダマンタイト級に位置するレベル65まで上がっていたのだから、その強さが滲み出ていたのだ。
それに対し、ランス・ファイス(ユキタカ)は、槍の威力という点で驚かされたが、当の本人はスキル無しの無能力者であり、全ては身に纏う『神器』が凄いのであって、本人から滲み出る強さは皆無だったのである。
その事実を知らないダフネ・サンセッドは、二人の異質な強さに、畏怖を感じるしかない。
「……でも、あの二人なら、国王はおろか、周囲の貴族や勇者一行も文句は言わないだろう。正直、彼らの我儘にはうんざりしていたし……。辺境にあんな逸材が二人も眠っていた事を考えると、私もそろそろ王都から離れて、剣の腕を磨き直さなくてはいけない……」
ダフネ・サンセッドは自身の驕りを反省した。
そして、今は、二人を王都まで案内し、推薦した者として二人の判断を見届ける事に専念しようと、自分に言い聞かせるのだった。




