第26話 限界突破
未踏破の『転移ダンジョン』を、ランス・ファイス(ユキタカ)とイリスのパーティーが攻略した事は、ダンジョンの出入り口付近にそれを示すオベリスクが出現した事で、すぐに誰もが知る事になった。
迷宮核を破壊したイリスとパーティーメンバーのランス・ファイス(ユキタカ)は、そこで変化が起きていた。
それは、まず、イリスのレベルアップである。
イリスはすでに、ランス・ファイス(ユキタカ)と最下層に到達するまでパーティーメンバーとして強力な魔物を沢山討伐していたから、レベルも上がり過ぎてピタリと止まっていた。
だが、迷宮核は桁違いの経験値を持っていたようだ。
というのも、レベル55だったのが、65まで上がっていたからである。
これは、確認されている冒険者の中では最高クラスのレベルだ。
通常、レベル50以上で冒険者ギルドの上から二番目のランクであるオリハルコン級に匹敵する実力と見られるからだった。
その上はレベル60以上。
つまり、アダマンタイト級、伝説クラスと呼ばれる冒険者のみである。
だが、レベルだけでは評価されないのも事実だった。
というのも、スキルの質にもよるからである。
それを証明する人物が、ユキタカ本人だ。
レベルこそ99だが、スキル無しの無能力者なので、いくら高くても意味がないものになっているのである。
イリスは殴り系治癒士として、最強クラスかもしれないところにいつの間にか到達していたのは事実だった。
ただ、その事実を当人は確認していないので知らない。
まあ、強くなっている実感は、このダンジョン内での魔物との戦闘で感じてはいたが。
すでにレベルをカンストしていたユキタカだったが、その彼にも変化が起きていた。
それは、レベルの限界突破である。
イリスが迷宮核を破壊し、オベリスクがせり上がってきた後、脳裏に某ゲーム内で問題が起きた時に鳴るような低い音が鳴り響いたのだ。
デンデン、デンデン、デンデン、デンデン、デレンデン
『設定の限界突破を確認しました。想定外の事が起きています。確認、対応の為、しばらくお待ちください……。スキル無し……、レベルカンスト……、限界突破……、神器による補正……。──ユーザー確認を完了致しました。……手元にある神器を専用化しました。……以後、本人の求めに応じ、いつでも手元に戻るように修正しました。……ユーザーのレベルが限界突破し、前人未踏の領域であるレベル101になりました。これからも異世界ライフをお楽しみください』
「え?」
ユキタカはダンジョン最深部の部屋で一人、その声に反応した。
「どうしました?」
イリスがランス・ファイス(ユキタカ)の様子にすぐ気づいた。
「今、頭の中で声がして──」
ランス・ファイス(ユキタカ)の渋い声で、脳裏に聞こえた声について説明する。
「脳裏にそんな声が!? ──初めて聞きました……。それは私達にスキルを与えてくださるという神の声かも知れませんね。規格外のゴトーさんに対する特別処置が、行われたような内容に思えます」
イリスは治癒士として聖魔法は神の力を感じる事で行使できた。
当然、神の力を信じている。
ユキタカの説明からもその存在を意味する内容に思えたようだった。
「……システム上のバグを修正しようとした結果、存在するものを今さら消去はできないので、この世界にできるだけ適した形に変更した、という感じに僕は聞こえましたが……」
元々無神論者だったユキタカは違う解釈をした。
とはいえ、脳内に聞こえた声を聞く限り、この異世界には、神やそれに類する者が存在するのは事実だろう事も理解できた。
「この世界にできるだけ適した形に……? ──ゴトーさんは規格外な力の持ち主だから、それもわかる気がします。このダンジョンも、クリア不可能ではないかと思えるくらい、ここまでくる間の魔物は強力でしたが、ゴトーさんは難なく倒してしまいましたから……。──ふふふっ。頼もしい仲間ですね」
イリスはユキタカの強さを恐れる事無く、パーティーの仲間として頼もしく感じた様子だった。
「……イリスさん、今後は仲間として名前の方で呼んでもらってもいいですか? 姓の方だと落ち着かないというか……」
ユキタカは『神器・マスク』を外すと、ランス・ファイス(ユキタカ)の姿からユキタカに戻った。
現在の身分証はユキ・ゴトーとランス・ファイスを使い分けている。
ユキタカはイリスとの仲間として距離を少し縮めたい思いもあったのが一番の理由だろう。
「……名前の方で、ですか? ──わかりました。確かにその方が、仲間として自然ですね。私の事はイリスと呼び捨てにしてください。お願いします、ユキさん」
「イリス……? わ、わかりました! ──じゃあ、僕も呼び捨てでいいですよ」
ユキタカは少し照れながら承諾すると、自分も申し出た。
「いえ、ユキさんは年上ですし、私もユキさんと対等と言える程強くないので……」
イリスは畏まった様子で声が小さくなっていく。
どうやら、ダンジョン最深部までの往復の間に、改めてその差を痛感したようだった。
「イリス、僕は稀人だから、この世界で新参者なのは知っているでしょう? 強さでは『神器』のお陰で僕の方が強いのかもしれないけれど、この世界については君の方が断然僕より詳しいよね。お互いの長所を尊重できれば、それでいいんじゃないかな?」
ユキタカはイリスの目を真っ直ぐ見つめると、正直な気持ちを伝えた。
「……すみませんでした。私、ユキさん……、ユキを仲間と言いながら特別扱いしていました。そうですね、これからはユキと呼ばせてもらいます」
イリスはユキタカの真剣な眼差しに、自分の卑屈になっていた部分に気づかされた。
そして、過去のパーティー時代もいつの間にか、そういう気持ちで、当時も仲間と接していたのかもしれない、と反省するのだった。
二人はユキタカの破壊した壁からダンジョンを出ると、地底に戻ってきた。
「トールデイン王国とカールセン王国、どっち側に行きますか?」
ユキタカは『神器・傘』を広げながら、目的地を聞く。
「今、トールデイン王国に戻ると、ダンジョン攻略の件で騒ぎになると思うので、カールセン王国の方が都合がいいと思います。……どうでしょうか?」
イリスはユキタカの手を握った。
「僕も動きやすいのは、そっちですね。それじゃあ、カールセン王国側の街に戻ったら、これからの事について話し合いましょう」
ユキタカは承知すると、イリスと共に、『神器・傘』で風の動きを掴んで浮遊し、奈落の底から地上に戻るのだった。




