第22話 宝箱の中身
「開かない? ──という事は……」
鍵穴のある宝箱だったので、ユキタカは思いついたように、自宅の鍵を取り出した。
「予想通りなら、この自宅の鍵も神器としての力があるはず……」
ユキタカは鍵穴に自宅の鍵を突き刺し、回した。
すると、予想通り、自宅の鍵は、宝箱の鍵穴に適応した。
「やっぱり……! でも、これって、宝箱だけでなく、いろんな鍵穴が開けられる可能性が生まれたなぁ……。──やばい、これ地味に凄い神器かも……」
ユキタカは色々な可能性を想像した。
だがすぐに、宝箱の中身を確認していない事に気づいた。
ユキタカは、気持ちを切り替えると、両手でその宝箱を開いた。
「卵?」
ユキタカは宝箱の中身が、ダチョウの卵くらいの大きさだったので、拍子抜けしてしまった。
「……このダンジョンでどのくらい前からあるんだろうか? 基本ダンジョンは時間をかけて成長するものだって、王都では教わったなぁ……。すると、ここは数百年経っていてもおかしくないよね? そうなるとこの卵、中身が腐っているんじゃないか?」
ユキタカは恐る恐るその卵を宝箱から取り出す。
手にした瞬間だった。
脳裏に色々な情報が流れ込んできた。
卵は、ユキタカの能力に近いものを備えた、ユキタカのイメージする従魔が誕生すると可能性があるらしい。
だが、それには安定した環境で約十年間、本人が魔力を込め続けながら、温める必要があるようだ。
それができないと、従魔ではなく新たなダンジョンを生む迷宮核が誕生するという事のようである。
「うわー……。これ無理ゲーじゃん……」
ユキタカは呆れた。
そもそも、安定した環境の準備や、そこで十年間本人が魔力を込め続けるなど、物理的にかなり難しい。
それができるのは、安定した収入のある一部のお金持ちくらいだろう。
まあ、普通に考えたら、このダンジョンの最下層に到達できるのは、地位と名誉も持っている実力者だろうから、その財産を投入して孵化させる事は可能かもしれないが……。
しかし、ユキタカはそんなものは一つとしてない。
強いて言えば、『神器』持ちなので、実力はある事になるのだろうが、安定した環境は全くない。
ましてや十年間など無理な話である。
「……とりあえず、魔法収納に入れておこうか」
ユキタカは、魔法収納機能のある手提げ袋をリュックから取り出して、卵を入れようとした。
だが、うんともすんとも反応しない。
「……もしかして、卵は生きているから入らない、って事……?」
ユキタカは察すると、仕方がないので背中に背負っているリュックに入れる事にした。
「割らないように気をつけないとな……。でも、この時点で安定した環境じゃないよな……」
ユキタカはぶつぶつ言いながら、降ろしたリュックに卵を入れて、背負う。
そして、
「この状態なら移動しながら温められるけど、十年間はありえないよなぁ。それに温度や湿度もあるし、安定した環境で孵化させるって、やっぱり無理じゃないか?」
と大事な事に気づいた。
その瞬間である。
リュックを背負うと、背中に感じる卵の存在が消えたではないか。
「え!?」
ユキタカは喪失する背中の感触と、急に軽くなったリュックに驚く。
すると、頭の中にまたも情報が流れ込んできた。
それは魔法収納に納める時と同じ感覚だった。
入れたものが整理されて、それが頭の中でわかる感覚である。
脳裏には『迷宮の卵:魔力で温めながらの十年分を、高速経過中』と浮かんできた。
「……どういう事?」
ユキタカは理由がよくわからなかった。
『神器・ビジネスリュック』が姿を変えているリュックは、これまで『竜殺し』の異名を持つ冒険者の矢を防げるほどの丈夫さ以外では、機能を発揮していなかった。
しかし、生きているものを魔法収納のように回収する事ができるらしい。
さらには、時間を経過させる事も可能という事のようだ。
通常、魔法収納内はものしか回収できないが、内部は時間が止まっているので、食べ物などを腐らせる事はない。
このリュックは生物を回収できて、内部で時間を経過させる事が可能のようだ。
「なるほど……。こういう能力があったのかぁ。これってかなり便利かも?」
ユキタカが感心していると、足元にあった宝箱が地面に溶けていくかのように喪失した。
「……これでこのダンジョンは踏破ダンジョンになったのかな? でも、確か迷宮核を破壊しない限り、一定の周期で宝物やダンジョンボスは復活するんだっけ?」
ユキタカは王都で担当責任者から聞いた内容をうっすらと思い出す。
「どうしよう? このまま、迷宮核を破壊したら、このダンジョンの権利や管理権を持つイリスに迷惑がかかるかな……。復活周期は少なくとも数年先らしいけど、ここの攻略難易度は王都のダンジョンの比じゃないだろうから、冒険者が辿り着くのは、ずっと先だとは思うけど……。──よし、残そう!」
ユキタカは袂をわかったイリスにまだ、友人としての好意を寄せていたから、迷宮核は残す事にするのだった。
ダンジョンの帰り道はそう時間もかからなかった。
名刺の裏に記した地図をチェックしながらだったからだ。
それでも、数日かかった気もしたが、ダンジョン内では時間の感覚が失われやすい。
ユキタカにとっては、魔法収納に納めている食糧が底を尽きるところだったので、ダンジョンの攻略自体は少なくとも一か月は経過しているようだった。
「ふぅ………。名刺が置いたままだから、この壁だな。これを壊せば地上に戻れる」
ユキタカは『神器・傘』を構えると、来た時同様、ダンジョンの壁を破壊するという荒業で、ダンジョンから脱出するのだった。
ユキタカは、前回と同じように『神器・傘』で浮遊し、地底から脱出すると、拠点としているカールセン王国の国境の街キョウガイに戻る。
城門では、門番がユキタカの顔に気づいて、
「おう、久し振りだな! 二か月ぶりだが、今までどこにいたんだ?」
と気軽に声をかけた。
「そんなに経っていました? ……自分の中では一か月くらいのつもりでしたが……」
これは正直な気持ちである。
だが、ダンジョン内ではスマホで時間が確認できるとはいえ、あくまでも時間だけで他は表示されなくなっていたから、日数はわからなかったのだ。
「そんなに時間を忘れて働いていたのか? 働き過ぎての過労死だけは気を付けろよ? はははっ!」
門番は笑ってユキタカを通す。
ユキタカは渡した身分証を返してもらって街に入ろうとした。
その際に、門番が思い出したように再度、声をかけた。
「そう言えば、冒険者のイリスがあんたを探していたぞ。俺が『しばらく前に姿を消してからは見かけていない』と教えたら、必死になって探していたみたいだ」
「え!? それっていつの話ですか!?」
「一か月前くらいだ。あんたを探して他の街に行ったのかもしれないが、その様子だと全く出会う機会がなかったみたいだな。こういう時は、下手に動かず、待つと良いかもしれないぞ? たまにいるんだ。すれ違いで会えない事が。それじゃあな」
門番をユキタカに助言すると仕事に戻っていく。
(イリスさんが僕を……? トールデイン王国で、また、何かあったのかな?)
ユキタカは少し心配になったが、一か月も前の話である。
きっとイリスも探すのを諦めて、トールデイン王国に戻ったのかもしれないと自分に言い聞かせると、この日の宿屋を探すのだった。




