第21話 転移ダンジョン攻略
ユキタカは、ダンジョンの壁を外から易々と破壊すると、内部に侵入した。
これだけでかなり異常なのは、冒険者ギルドの一件で理解している。
だが、手持ちの『神器・傘』で破壊できるのだから、問題はないだろう。
ユキタカは、とりあえず、この未踏破ダンジョンのクリアを目指す事にした。
食糧はまだ十分ある。
ただ、ダンジョンは当然ながら、適当に進めば迷子になる可能性があるので、紙に書いて進む事にした。
「万年筆があるから書くのは問題ないとして……、紙はどうしようか……? ──あっ。名刺の裏側に番号を振って書いていくか」
ユキタカはこちらの世界に来てから、一度も使用する事無くポケットに入れていた名刺入れを出す。
普段、三十から四十枚入れている名刺だが、開けるとぎっしり入っている。
名刺は前の世界の会社名が入っているはずだったが、こちらの世界の文字で『ユキタカ・ゴトー』とだけ書いてあった。
「あれ? こんなに補充した覚えがないんだけど……。それに、内容が変わっているという事は、これも『神器』化しているのかな?」
ユキタカは、一枚名刺を取り出すと、試しに破ってみる。
すると名刺はあっさり破れた。
「……『神器』化していない? 持ち物は全部『神器』になっているのかなと思っていたけど、そうでないものもあるのか……」
ユキタカちょっと、勿体ない事をしたなと思いつつ、名刺入れに視線を移す。
ぎっしり入った状態のままだ。
「……まさかだけど、無限に出てくる名刺になってる? もしかしたら、身分証と連動して内容が変わるのかもしれない」
ユキタカは、ユキタカ・ゴトー名義の名刺を一枚取り出したうえで、元が免許証の身分証を取り出し、試しにマスクを使って変装した時の身分である『ランス・ファイス』を想像した。
すると身分証がランス・ファイスのものに変化する。
そして、名刺入れの中の名刺を確認すると、名前が変化していた。
ただし、一枚だけ取り出していたユキタカ・ゴトー名義のものは、変化していない。
「これは便利かも……。って、名刺を渡す機会は、この世界にはないか?」
ふと元の世界のサラリーマン的立場で考えてしまったユキタカだったが、すぐに今の世界では、使いどころがあるのかわからない事に気づいた。
とはいえ、裏側は真っ白なので、ダンジョンの地図をメモるのには向いている。
ユキタカは、気を取り直すと、破壊した壁のところに、「これは目印用に置いているので取らないでください」と裏側に書いた名刺を一枚置く。
そして、自身はダンジョンを先に進むのだった。
ユキタカはダンジョンを進みながら、名刺の裏側に万年筆で地図を描いていく。
驚いたのは、絵心がない自分が万年筆で書くと、想像通りに綺麗な地図が、描けた事だ。
「これも万年筆が『神器』化している証拠だね……。多分、インクが切れない、字や絵が綺麗になるとかが能力かな?」
ユキタカは能力を確認しながら、ダンジョンを進む。
ダンジョンは『転移ダンジョン』とイリス達が命名しただけあって、進む先々の行き止まりと思われるところには、転移魔方陣が用意されていた。
そこに乗ると、先に進めるのだが、ランダムに飛ばされる事がほとんどだった。
一度、飛ばされた事がある場所に戻って、また、同じ転移魔方陣に乗ると今度は違う場所に飛ばされる、という事を経験したので、イリスが言っていた通りのようだ。
だが、ユキタカは何か規則性があるかもしれないと、見た事がある場所に飛ばされると同じ道を進み、何度も同じ転移魔方陣で移動を試みた。
すると、ある規則性を発見した。
それは、ランダムと思われていた転移魔方陣には十分間ごとに移動する場所が変わり、それも、一時間ごとにリセットされて元に戻る事だ。
つまり、一つの魔法陣は、六ケ所と繋がっている事になる。
これに気づくのに、ユキタカは半日間、移動し続けて気づいた。
「規則性があるのはわかったけど、全ての場所に行くのは大変だから、先に行けそうな魔法陣だけを確認し、優先して使用するしかないかな」
ユキタカは数百枚目かの名刺に地図を描くと魔法収納に直して整理する。
魔法収納の便利なところは、関連付けて保存ができる事だ。
名刺に描いた沢山の地図も、番号を振っているとはいえ、沢山の山から探すのは大変である。
しかし、魔法収納だと、欲しいものがすぐに出せるので手間が省けるのだ。
だから、『神器・万年筆』の力で綺麗に描き、魔法収納で保存する事で、ユキタカは大して苦労する事無く、『転移ダンジョン』の奥に進む事ができるのだった。
ユキタカはダンジョンを進んでかなりの日数が経っていた。
ユキタカは食料が続く限りは、先に進むつもりでいる。
戻るのは地図のお陰で簡単だからだ。
行く先々で、当然、魔物は出現するし、中には、ラノベでも読んだ事がある、モンスターハウスと呼称されていた、全ての魔物を倒すまで閉じ込められる部屋もあったが、そこはユキタカの『神器・傘』で呆気なく一掃して脱出する事ができた。
「一般の冒険者は大変だろうな……。規則性を見つけて、地図を作るのも普通に難しいだろうし……」
ユキタカは水筒から、久し振りに飲みたくなった炭酸飲料を出し、それを飲み干して、このダンジョンの厄介さに呆れる。
「それに、罠や魔物も進むにつれて、強力になっている気がするもんなぁ。『傘』が強すぎてよくわからないけど」
ユキタカは、炭酸のゲップをすると、立ち上がった。
その視線の先には、身長の数倍はある立派で大きな扉がある。
明らかにこれまでのものとは違う。
途中、エリアボスの部屋と思われる部屋はいくつかあったが、ここまで立派な扉ではなかったからだ。
それに、それらのデザインは全て統一されていたから、後半以降は、エリアボスの部屋に到着した時、すぐにわかったのだ。
「……ここが、ダンジョンボスの部屋かもしれない。──うん?」
大きな扉の脇に、何か文字が書かれたプレートが張ってある。
ユキタカは、扉を開ける前に、そのプレートの文字を確認した。
そこには、
『ダンジョンボスを倒した者だけが開ける事ができる最後の扉である。さあ、勇者よ、執拗に追い駆けてくるダンジョンボスを倒し、この奥の宝を手にして見せよ!』
と書かれていた。
「……執拗に追いかけてくるダンジョンボス?」
ユキタカはここまで、そんな敵に遭遇した記憶がないので、首を傾げる。
あるとすれば、イリスに初めて会った時、倒した巨大な黒い狼のような魔物が、確か、イリス達『白金の牙』を執拗に追いかけ回していたはずだが……。
ふとそれが頭に浮かんだユキタカは、試しに大きな扉を触れてみた。
すると、重々しい大きな扉が音を立てて、ゆっくり開き始めるではないか。
「やっぱり! あの時倒した魔物がダンジョンボスだったのか……。そう言えばイリスが、あの時ビックリするくらいレベルが上がった気がすると言っていたなぁ」
ユキタカは呑気にそんな事を思い出すと、空いている途中の隙間から中に入っていく。
室内は暗かったので、スマホを取り出し、ライトを使用する。
スマホの灯りに照らされて、広い室内の様子が浮かび上がった。
部屋の中央には、アニメで見た事があるような、わかりやすい宝箱が一つ置いてある。
ユキタカは胸を躍らせて、その宝箱に歩み寄るのだった。




