第20話 ひとりぼっち
「はぁ……」
ユキタカは、隣国カールセン王国国境の街キョウガイの郊外で一人、大きなため息をついていた。
イリスとトールデイン王国国境の街ターバスで別れ、すでに一週間が経っていた。
ユキタカは、別れ際にイリスからこれまでのお礼にと、半ば強引に渡されたお金は、使う気になれなかった。
その為、地底で得た魔物の骨や皮、内臓などの部位や、魔石などを売り、生活費として過ごしていた。
しかし、ここのところはずっと、街の宿屋に引き籠っていたので、一週間ぶりに外に出ている。
「駄目だ……。落ち込んでばかりもいられない。お金はあるけど、定期的に稼ぐ習慣をつけないと不安になるし」
ユキタカは、一人になって街の外に出かける事はなかったから、反省するとカールセン王国側にある崖に向かうのだった。
「この大地の裂け目、街の人達も近づかない有名な場所だったんだな。まあ、上からは地底が見えないから、そりゃあ怖がるか」
ユキタカは両国を跨ぐ形で存在する裂け目「奈落の谷」を上から覗く。
そして、次は周囲に人がいないか見渡した。
誰もいない事を確認すると、魔法収納付き手提げ袋から傘を取り出し、手にしたまま崖に飛び降りる。
しばらくの間、ユキタカは落下に身を任せていたが、地底が迫ったところで傘を広げ、その速度を和らげた。
フワフワと落下するのに身を任せながら、
「落下時間を考えると、相当な深さなのは間違いないんだよなぁ。……今考えると、最初にここへ落ちた時、僕はどうやって助かったんだろう?」
とようやく大事な事に気づいた。
「……やっぱり、スーツの力なのかな? 姿を変える以外に他の能力もあるという事か……?」
空中で傘を差しながら、ゆっくり落下するユキタカの姿は、とても滑稽だったが、誰もそれを目撃している者はいないから問題はない。
色々考えている間に、ユキタカは地底に到着した。
それからは、地底の魔物狩りが始まった。
地上の森よりも、魔物の遭遇率が高い地底は、一週間鬱屈としていたユキタカにとっては、ストレス解消に持って来いだった。
『奈落の谷』は、前人未踏の場所であったので、人目を気にする事なく暴れる事ができたからだ。
ユキタカは神器であろう『傘』の力を発揮し、地上で見かけたら大騒ぎになること間違いなしの、かなり強力な魔物を次々に倒していく。
ストレスの発散と生活費を稼ぐ目的で狩られる魔物達も災難だったが、それは不運としか言いようがない。
体力が尽きる寸前まで暴れてみようと、ユキタカは地底で猛威を振るっていたが、時間間隔がわかりにくい地底では、どのくらい時間が経過しているのかわからなかった。
ただし、夜が何度も来ているのは、地底に訪れる闇でわかってはいたが。
「買い溜めしてきた食料も結構減ったから、何日も経っている気がするけど、ここだと時間の感覚が麻痺するな……」
ユキタカは、無限に飲み物が出てくる水筒で白湯を呑む。
お酒を飲む気にはなれなかったし、ジュースも最初は喜んで飲んでいたが、健康を考えると普段の水分補給は白湯に落ち着いていた。
なにしろ、チートなのは持ち物だけであり、その持ち主はただのモブサラリーマンなのだ。
体を壊したら異世界生活も終了なので、健康には気を遣っている。
「そう言えば、リュックに常備薬ケースが入ったままだけど、こっちに来てから中身を確認していなかったな」
ユキタカは、崖の斜面を背中に座ると、リュックを降ろし中身を確認する。
「電動髭剃りは、充電が無くならない以外には、何も変わらないしなぁ……。──あった、常備薬ケース」
ユキタカは、リュックから取り出す。
一見すると透明のケースには何も入っていない。
「……やっぱり、食べ物も含め、こっちに召喚された時点で、持ち物の一部が喪失しているのは間違いないな……」
中身が入っていないのはわかっているが、ユキタカは常備薬ケースを開けた。
すると、ケースには見た事もない薬がびっしりと入っている。
「!?」
ユキタカは、中身が入っていないのがわかる透明ケースなのに、開けると入っている不思議に混乱する。
思わず、蓋を閉めると、やはり、透明なケースだから入っていないのがわかった。
振ってもシャカシャカと音が鳴るわけでもない。
だが開くと、薬が入っているのだ。
「……軽く混乱するな……。重さも開けると変わるし……。五感がバグる……」
ユキタカは慣れない感覚に呆れた。
「でも、これで、薬にも困らないで済む事はわかった。健康の為に、サプリを飲んでおこう」
召喚前には、偏った食生活で不健康にならないように飲んでいたサプリを、薬の中から見つけて飲む。
すると、この一週間の鬱屈とした気持ちや、体調不良が嘘のように消えていく。
「す、すごい、効き目だ……! ──でも、効果があり過ぎて、ヤバい薬じゃないかという心配が脳裏を過っちゃうなぁ……」
ユキタカは思わず苦笑すると、リュックに戻すのだった。
ユキタカは休憩を終えると、また、歩き出す。
「この辺りは見た覚えがある。最初に来たところだ……」
そこは、最初に遭遇した『灰色六足魔熊』の巣穴だったところだった。
ユキタカは、スマホのライトで巣穴を照らす。
「この先にダンジョンが……。──あっ! 穴が塞がっている……。本当にダンジョンって勝手に修復するんだ……」
ユキタカは巣穴に似つかわしくないむき出しの壁を見つめる。
そこで、イリスの事を思い出してしまう。
「あの事も今となっては、良い思い出だな……。──そうだ……。この壁をまた破壊してダンジョンに入ってみようかな? イリスの話だと、ダンジョンの出入り口は発見した管理者によって、人の出入りを制限されるって言ってたから、ここから入れたらチートだよね?」
ユキタカはいたずら心に火が付くと、傘を身構え、ダンジョンの壁を早速、破壊するのだった。
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