第17話 偽者の真偽
ユキタカは、イリスと支部長の事情説明の場に、関係者として同席していた。
イリスは『白金の牙』の元仲間の裏切りによって見殺しされそうになった事、そこをランス・ファイス(ユキタカ)に助けられた事などを淡々と説明する。
そして、どうにかダンジョンから脱出した先の隣国の街で、自分が独断専行の末、仲間を見捨てて逃げ出し、魔物に殺されたという事になっている事を知り、急いで戻ってきた事を続けて話した。
「……イリス何某。それを証明するのには証拠が必要だが、それが彼だと?」
支部長は、信じられないとばかりの態度を見せると、疑う様子でランス・ファイス(ユキタカ)に視線を向ける。
「はい。それに、私が生きている時点で彼らの証言は全て噓だという事になりますよね?」
イリスは、支部長の態度に不審な表情を浮かべながら指摘した。
支部長は冒険者ギルドの人間として、冒険者を守る立場にある。
イリスはすでに、死亡した事になっており、トールデイン王国の冒険者ではなくなっていたから、今は『白金の牙』を守る立場として話を聞いているようだった。
「嘘かどうかは、証拠がないと証明は難しいだろう? それに今まで君が冒険者ギルドに戻ってこなかった事にも問題がある。彼らは君が死んだと思ってダンジョンから戻ってきている。そして、君は、ひと月以上音沙汰がなかった。本当ならすぐに君が冒険者ギルドを訪れ、生存報告をしておくべきではないか? その事を考えると、彼らの言い分の方が筋も通っていたと思うのだが? ──まあ、君が生きていた、という事以外はね?」
支部長の言い分は、イリスが自分で死を偽装して、仲間をハメようとしていたのではないかというニュアンスに聞こえた。
「……話を聞いていました? 私は彼らに裏切られ、ダンジョンで追手くる魔物の囮にされたのですよ? 死にかけた事で、そんなどん底に追い落とした彼らと対面する気になれず、隣国に留まっていたとは想像できないのですか?」
イリスは、あまりの返答に呆れた様子を見せた。
「どちらにせよ、私はこのターバスの街冒険者ギルドの支部長として、ゴールド級チーム『白金の牙』を守る義務がある。君はすでに死亡届が認められ、冒険者ギルドのメンバーではない。悪いが君がこれまで得ていた、この国での冒険者としての権利はすでに失われているのだよ」
支部長は、一方的な主張でイリスの言い分を否定した。
「ちょっと待ってください! 冒険者の犯罪を、ギルドは目を瞑るという事ですか!?」
さすがにお人好しのイリスも、これには完全に腹を立てて言い募る。
それに、『白金の牙』がゴールド級に昇格している事にも憤るきっかけとなった。
自分を殺した見返りに得た地位だとわかったからだ。
「支部長さん、あなた、『白金の牙』から、いくら貰いました?」
黙って両者の話を聞いていたランス・ファイス(ユキタカ)が、突如、会話に割って入った。
「な、なんだと!? 失礼にも程があるぞ!」
支部長は他所者の指摘に、一瞬でお怒りモードに入った。
「失礼? あなたが言いますか? イリスさんに対して失礼な事を並べ立てているのはあなたですよ? そもそも、証拠がないのにイリスさんの死亡届を受理したうえ、未踏破ダンジョンの情報独占を彼らに許したり、彼女の口座を勝手に『白金の牙』のものにする事を許可したのも、あなたの許可がないとできない事ですよね? それを考えるといくら貰ったんだろうか? という考えに至りますよ」
ランス・ファイス(ユキタカ)は、渋い声で支部長の関与を理路整然と追及する。
「ば、馬鹿なこと言うな! 私はしっかり、『白金の牙』のこれまでの実績や言い分を聞いてだな──」
「その実績も、イリスさんの活躍があってこそですよね? 支部長なら彼女のギルドや、チームへの貢献度が高いのはわかっているはず。なのに、今回の事で、彼らは力不足にも拘らず、ゴールド級へ昇格している。これって、あなたと『白金の牙』が示し合わせた事ではないと不可能ではないですか?」
ランス・ファイス(ユキタカ)は、支部長の言葉を遮ると、図星と思われる事を大きな声で指摘した。
これは外まで聞こえていたのだろう、突如、支部長室の扉が勢いよく開けられ、冒険者と思われる四人の男女が入ってきた。
「そこまでだ! イリスを騙る偽者と、それに便乗する下種野郎め!」
「アダム!」
イリスは自分を偽者呼ばわりする元仲間の名を口にした。
「馴れ馴れしく呼ぶな、偽者め! ここにいる全員が、イリスの死体を確認しているのだからな。どうせ、イリスの財産を狙って変化の魔法でも使って成りすましているのだろう? あのダンジョンが二人だけで脱出できない事は、俺達がよく知っている! 最低三人はいないと起動しない転移魔方陣が途中に存在するのだからな!」
アダムと呼ばれた『白金の牙』のリーダーは、イリスを前にしても動じる様子もなく、偽者扱いした。
「そういう事だから! 茶番はこれまでよ!」
女魔法使いのデイジーがアダムの腕に絡みつくと、イリスを睨む。
「表に出な。俺達がその偽者の本性を暴いてやるよ」
盗賊職のブラウンが、イリスを睨む。
「ゴールド級冒険者チーム『白金の牙』を相手に、悪だくみをしようとしたのが運の尽きだな!」
弓使いのジョナサンが軽薄な表情で舌を出す。
これにより、冒険者ギルド内は騒然とした。
イリスが生きていた事に加えて、支部長が『白金の牙』から賄賂を貰っていた可能性、そして、それを堂々と否定するアダム達である。
冒険者達の中には、ゴールド級冒険者であるイリスを尊敬している者もいた。
それだけに、どちらの言い分が正しいのかわからない。
しかし、少なくとも最近、金遣いが荒く、調子に乗っていた『白金の牙』よりは、偽者扱いされているイリス達を応援したい者は密かにいた。
「ちょっと待ってくれ。ダンジョンでの出来事を知っているだけでも、本人の可能性は高いんじゃないか? そもそも転移ダンジョンの情報は、『白金の牙』に独占されているわけだし。それに、ダンジョンを二人だけで脱出できたのなら、相当な実力者という事になると思うぞ。いいのか、そういう人物を証拠も無しに、吊るし上げにしようとして」
その場に居合わせた冒険者の一人が、声を上げる。
これには他の冒険者達も納得して頷く。
「その可能性はない! これは、本来、有料の情報だが……、あのダンジョンはそもそも、三人以上で乗らないと発動しない転移魔方陣がある。俺達はだからこそ、帰ってこられたんだ!」
アダムは、自信満々に他の冒険者の鋭い指摘を否定した。
「それなら、簡単だ。私が壁を破壊して、ダンジョンから脱出したからな」
ランス・ファイス(ユキタカ)は、渋い声で事実を告げた。
「はぁ!? ──おいおい、いきなり、嘘がバレたぞ! ダンジョンの壁はそう簡単に破壊できない。出来たとしても表面が傷つく程度で、それもすぐに修復されるのが、ダンジョンなんだよ! そんな常識も知らずに、詐欺行為を働こうとしたのか? 笑えるよ!」
アダムは、ランス・ファイス(ユキタカ)の嘘の尻尾を掴んだ、とばかりに勝ち誇る。
これには、他の冒険者達も黙ってしまった。
「それならば、試してみるか? 私の槍の威力を?」
ランス・ファイス(ユキタカ)は、動じた様子もない。
「いいだろう! ゴールド級冒険者を敵に回して、ただでは済まない事を教えてやるよ!」
アダム達『白金の牙』は、ランス・ファイス(ユキタカ)とイリスを、ただの嘘つきだと確信する。
そして、ギャラリーを引き連れると、ギルドの敷地にある訓練施設に移動するのだった。




