第15話 神器の能力
カールセン王国国境の街キョウガイで、ユキタカとイリスは数日を過ごしていた。
その間、ユキタカの持ち物について、いくつか実験してわかった事があった。
それは、それは、ユキタカの持ち物は全て『神器』のようだという事である。
と言うのも、イリスが刃物で、ユキタカの持ち物全てに、軽く傷を付けようとしたが、不可能だったからだ。
とはいえ、『神器』と確認できても、それらがどんな能力が付与されているのかは、詳しくはわかっていない。
今のところは、
スーツ一式……丈夫、シワができない、快眠、汚れが付かない、変身ができる。
眼鏡(紛失して手元にない)……物鑑定ができた。
手提げ鞄……丈夫、魔法収納有り。
傘……丈夫。武器として衝撃波、突風を起こせる。風を捉えて空を飛べる。
マスク(三枚組)……丈夫、臭いを完全遮断してくれる。呼吸が楽。
ビジネスリュック……丈夫。
革靴……丈夫、変身機能、多分だが、長時間歩いても疲れない。
ワイシャツ……丈夫、洗濯不要、体の清潔も保ってくれるみたい。
ネクタイ……丈夫、意思で伸びるので、拘束具になりそう?
免許証……丈夫、こちらの世界の身分証に変化してくれる。
下着……丈夫、清潔を保ってくれている?
他の持ち物も丈夫なのは同じなので、これから使用してその能力を試していく必要がありそうだ。
そして、一番大事な事は、他人が使用できないという点である。
イリスにはマスクを一つ譲ったが、使用できるのはユキタカが承認したからだ。
他の物は、イリスに渡して使用させてみても駄目だったので、他者による悪用の恐れはほぼ皆無のようである。
「悪用されないのは、一番ありがたいなぁ……。ただし、心配事がまだあるんですよね……」
ユキタカはイリスに不安を漏らした。
「心配事?」
「うん。僕が死んだ場合、持ち物の所有権がどうなるのかって事。この『神器』の存在を知って、そう考える人は必ず出てくると思うんですよね。でも、さすがに僕も死にたくないからその実験はできないですけど……」
ユキタカは『神器』が自分専用である事を確認した事で、死んだ時の心配をする事になった。
「ふふふっ。周りの事も考えてくれているのですね。──約束はできませんが、その時、私が地底に捨てるなりどうにか処分を考えます」
実験の手伝いをしていたイリスは、ユキタカに対して誠実な態度を示すのだった。
それから、ひと月程が経過した。
その間、イリスは冒険者として単独でできるクエストを見つけてはこなし、ユキタカはそのイリスに同行して手を貸したり、いろんな事を学んだりしていた。
お陰で冒険者としての知識もかなり身に付いてきた。
とはいえ、ユキタカはまだ、冒険者登録をしていない。
というのも、わざわざリスクを冒してまで、登録する必要性を感じないからだ。
ユキタカには『神器』の免許証が変化した完璧な身分証がある。
それに、わざわざ冒険者にならずとも生活には困らない程の強さを持っているから、足のつくような事はしなくてもいいのでは? とイリスから助言されていた。
だから、イリスのクエストの手伝いをしながら魔物を狩り、それを買い取り屋に売って稼ぐという生活で安定しつつあった。
そんなある日の事。
イリスは深刻な顔をして宿屋に戻ってきた。
丁度、冒険者ギルドに用事があって、ユキタカと少し別行動をとっていたのだ。
「どうしました?」
ひと月の間、一緒に行動していて、まだ、二人は敬語だった。
「……個人の問題なので……。──いえ、聞いてもらえますか?」
イリスは最初話すのを躊躇したが、思い直してユキタカに相談する事にした。
その内容は、ダンジョンまでチームを組んでいた『白金の牙』の仲間の話だった。
どうやら、彼らはイリスがダンジョンで独断専行の上、一人だけ逃げた先で魔物に襲われ死んだ事にしたようだ。
そして、未踏破ダンジョンのあらゆる情報の権利を自分達で独占してしまったらしい。
さらには、イリスからの遺言と称して、彼女の開設していた口座を最近、チームの仲間だったという理由で自分達のものにしたそうだ。
それを国境を越えてやってきたという、トールデイン王国側の冒険者達が話しているのを聞いたのだという。
「……戻りましょう」
ユキタカは、イリスの気持ちがわかったので、背中を押す提案をした。
「……そうですね……。このままだと私の存在が消されてしまうので、一度戻って彼らと対決しようと思います。──ゴトーさん、これまでありがとうございました」
イリスは真剣な表情で決意を胸に、ユキタカに別れの言葉を口にする。
「何を言っているんですか、僕も行きますよ」
「え? でも……」
「はははっ! 僕には完璧な身分証があるんですよ? それを使えば他人に成りすましてトールデイン王国に入国する事も可能です」
「ですが、人の目を誤魔化す事ではできません。一度、顔を覚えられると問題が起きた時、ゴトーさんの身分が発覚する恐れがあります」
イリスはこんな時でもユキタカの身を案じて断ろうとした。
「ふふふっ、実は、昨日、これの新たな使い方がわかりまして──」
ユキタカは自信満々にイリスにも渡したマスクを出して見せた。
「マスク……ですか?」
イリスはマスクの能力について把握しているつもりだったから首を傾げた。
ユキタカはイリスの疑問符の浮かんだ顔をみて、百聞は一見に如かずとばかりに、マスクを装着する。
すると、白いマスクの色が肌色に変わり、それどころか形も変化して消えてなくなるではないか。
いや、ただ消えただけでなく、ユキタカの顔自体が、見知らぬ男の顔になっていた。
「え……!?」
イリスは、その事実に少し遅れて気づくと驚く。
「凄いでしょ? マスクって人相を隠せるので、あっちの世界では便利使いする人が多かったんですが、そこからの派生とばかりに、このマスクには顔自体を変化させる能力があったみたいです」
ユキタカはイリスの驚く顔を楽しむと、マスクを外して元の顔に戻ってみせた。
「そんな能力が……、でも、それならゴトーさんの身分は偽装しても問題ないですね……。──ゴトーさん。私に手を貸してもらえますか?」
「喜んで!」
イリスは、頼もしい味方ができた事で、緊張した面持ちから、ようやく安堵した表情に変わるのだった。
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