九話
人の流れを外れる。
肩がぶつかる。罵声が飛ぶ。誰かに腕を掴まれる。
振り払う。
足は止まらない。
避難所の標識を横目に、逆方向へ走る。
アスファルトが揺れる。遠くで爆発音。空気が震える。
上を見上げる。
高層ビル群の上に
夜の闇を切り裂くように白い軌跡が走っている。
重力装置の残光。
だが、そのさらに上。
雲の層を押し広げるように、異様な“影”が滞空している。
都市の灯りを覆い隠すほどの巨体。
滑らかな外殻は黒く、まるで光を吸い込むようで、無数の装甲板が層状に重なり合いながら、ゆっくりと回転している。
胸の奥が、強く脈打つ。
呼吸が乱れる。
それでも、走る。
その中心。
開かれた“口”のような構造体。
内部に収束していく紫色の光。
エネルギーが、溜まっている。空気が引き寄せられている。
周囲の塵や瓦礫が、ゆっくりと浮かび上がり、中心へと吸い込まれていく。
街全体が、わずかに引きずられている。
そして。
発射。
音より先に、光が走る。
一直線。
都市を貫く奔流。
触れたものすべてを分解し、蒸発させ、跡形もなく消し飛ばす。
ビルが、途中から“消える”。
道路が、抉られる。
光が通過した後には、何も残らない。
ただ、空白だけが残る。
遅れて、轟音。
衝撃波が街を叩き潰す。
ガラスが砕け、建物が軋み、人の悲鳴が空気に溶ける。
あれが、敵の最終兵器。
エネルギー砲搭載オブジェクト。
都市殲滅用。
瓦礫を越える。倒れた標識を跨ぐ。煙の中に踏み込む。
熱い。
喉が焼ける。
視界が滲む。
それでも、目を逸らさない。
夜空。
高層ビル群の中で
もう一度、光が弾ける。
まばゆいばかりの光が街中に拡散する。
世界が昼のように明るくなる
衝撃波が遅れて来る。
体が揺れる。
足を踏ん張る。
その先で、紫色の光とともに影が落ちてきた。
音もなく、ゆっくりと。
地面に墜落する。
ドンッ!!!
墜落地点に走る、走る。
周りのことなんか気にならない。
そう、間違いない。あれは絶対……
墜落地点が見えてきた、ボロボロの装甲を装備した少女が横たわっていた。
「アリア!!!!!!」
少女がかすかに動く。
か細く、かすれた声で
「……来ちゃったのね」
「来たよ。アリア……」
顔部分にあったはずの装甲は砕けていた、
アリアは目を閉じている。
「フフフッ……残念だけど、もうあなたの笑顔を見ることはできないし、匂いを感じることもできなくなっちゃったみたい…………。」
アリアは残りの嗅覚と視覚をすべて使い切り、すでに聴覚と触覚しか残っていない。
サインはアリアを抱きしめる
「こんな戦いもうやめよう、逃げよう。これ以上苦しむことはない…」
アリアは力なく微笑む
「無理ね、私が諦めたらいったいどれだけの命が失われるの?」
サインの頬に涙が伝う
「泣かないで…。一つ、お願いがあるの…………最後に私の名前を呼んで」
「最後なんて言うなよ…」
「サイン……」
「…アリア」
アリアはサインの腕を振りほどき、立ち上がる。
すでに覚悟は決まっているようだ。
背後の空。
巨大兵器が、再び光を溜める。
最後の一撃。
都市そのものを消し飛ばすための収束。
リングが軋む。
空間が歪む。
「前は生きていればそれだけでいいと思えてた」
背中の装置が再び稼働を始める
「…………でも今は…それだけじゃダメになってしまった。」
「…私ってば……我儘ね」
アリアはふと笑顔になって主人公の頭をなでる
「あなたの存在、絶対忘れないわ」
手が離れる。
アリアは背を向ける。
空へ。
重力装置が咆哮する。
最後の上昇。
(研究所時代の味、あんまり良いものは味わえなかったな……)
敵の最終兵器ともう一度相対する
(好きな音、あなたの声を聴いていると何だか安心してきたの)
サインの声が聞こえた気がした
(目に映る景色、プラネタリウム楽しかったなぁ~。)
本物の星空、見たかったな……
(あなたの香り、花の香り)
絶対に忘れることは無いよ。サイン
(残る暖かさ、あなたと手を初めてつないだ日、人生で一番嬉しかった。私はあそこで、"幸せ”を見つけられたの。)
すべてを圧縮する。
五感の残滓。
「「「「はぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁっぁ!!!!!!」」」」」
人生そのもの。
一点へ。
そして――
閃光。
(バイバイ、楽しかったよ)
世界が消える。
衝撃。
沈黙。
・・・・・・・・・
サインは歩く。
崩れた街を
重い足で。
瓦礫を越え。
見つける。
アリア。
倒れている。
動かない。
「アリア!!」
揺らす。
「アリア!!」
反応はない。
目は開いている。
何も映さない。
音も、触れた感触も、届かない。
もう、何も感じるとこができない。
「……アリア……」
声が崩れる。
涙が落ちる。
ぽつり、と。
その瞬間。
アリアの目からも。
一筋の涙。
ゆっくりと。
確かに。
何も感じられないはずなのに。
それでも。
涙だけが。
静かに零れていく。
最期まで読んでいただきありがとうございました。
もし、反応が良かったらこの後の話も書こうと思います。




