二話
巨大軍備製造国営企業「International Biological Technology 」通称「IBT」
世界中に高品質・高機能武器を販売する世界が認める大企業だ
そんな大企業の本社ビルの地下フロア24。
そのセキュリティチェックエリア。
セキュリティエリアというには簡素で、白い壁の無機質な部屋に机と椅子が数個あるだけの部屋だ
二人の研究者らしき人間がノートパソコンで記録映像を見ていた。
「ダコタさん……俺これからこいつに会うんすか?」
男が見つめる先には先ほどの映像に出ていたダコタ・レイヴェンがいた
「そうだ、サイン。お前の働きが認められてB+クラス研究員になったからだな」
恐怖とも絶望ともとれる表情をしている”サイン”と呼ばれたこの男。
二十二歳もの若さにしてIBTに入社し、たった四年でB+クラスにまで上り詰めた
研究員。”サイン・ベルトルト”
彼は正直昇進を望んでいなかった。好きな研究だけをしていたかった。
「お前には彼女……LH-23の監督になってもらう」
ダコタは視線を画面に向けたまま続ける。
「LH研究の一端を担えるのだ。光栄なことだな」
・LH(Liviathan Homunculus)とは
「BIT」が独自に完成させた生体編集技術により完成させたホムンクルス。
脳科学における脳の特定領域が体の各部位をどのように支配しているかを示す図の意味であるHomunculusより命名がなされた。
自身の五感を代償にすさまじい力が出力されるという。
敵国に対し対処手段、抑止力として製造された存在。
画面の中の少女は、無表情のまま命を簡単に奪っていた
――あれは人間ではない。
そう思った。
・・・・・・
これまでとは違う部屋
モニターに並ぶ数値。
「対象、安定値を維持」
鳴り響く機械音
「サイン、次の段階へ」
差し出された小さなデバイスを受け取る。銃のトリガー部分だけを切り取ったような手のひらに収まるほどの黒い装置。
「……これは?」
「停止トリガーだ」
「異常時にはそれで“対処”しろ」
「……対処?」
「そうだ。」
軽く言う
「……ボタン一つで、か」
サインはその装置を見つめる。
軽い。
あまりにも。
それが、ひどく不気味だった。
・・・・・・
消毒液とよくわからない臭い、人工的な空気だ。
サインは無言で歩いていた。
白い廊下。
無機質な照明。
一定間隔で並ぶ扉
そのすべてが、“人間を扱う場所ではない”ことを示している。
「LH-23の監督任務、ね」
小さく呟くが、当然返事はない。
なんて企業だ。
こんな仕事、長くやるつもりはない。
目的の場所に到着し足が止まる。
目の前に、分厚い扉。
電子ロックが解除される音。
「――入れ」
無機質な音声。
サインは一度だけ息を吐き、トリガーを軽く握り直してから扉を押した。
・・・・・
部屋の中は、静かだった。
広い。
だが、何もない。
ベッドと、簡素な机。
それだけ。
「……お兄さんが、新しい人?」
少女がいた。
ベッドの上に座っている。
脚をぶらぶらと揺らしながら。
装甲はない。
戦場で見た“それ”とは、まるで違う。
ただの少女だった。
サインは一瞬、言葉を失う。
――これが?
あの、戦場を消し飛ばした存在?
「へぇ」
「”前の人達”よりもずいぶん若いね」
少女が立ち上がる。
ゆっくりと、こちらへ歩いてくる
眼には生気が宿っていない
距離が近い。
異様に近い。
サインが反応する前に、
LH-23「ねぇ」
「味って、どんなだっけ」
(突然のキス)
サイン「っ!?」
一瞬の出来事だった。
柔らかい感触が離れる。
LH-23「……やっぱり」
「何も感じない」
(ウソだろ……)
「ねぇ、嬉しいでしょ」
唖然
「おま、お前は…何を言ってるんだ……」
言葉が、うまく出てこない。
少女はフッと笑って
「またしようね」
理解追いつかない
その時、天井からアナウンスが流れる。
「すまないサイン、先に忠告すべきだった。」
「……説明に戻るが、彼女はすでに味覚をすべて失っている。そして最近の戦闘で嗅覚も五十パーセントほどしか残ってない。」
サインは額を押さえる。
少女はサインを見ながら首を傾げる。
「なんでそんな嫌そうなの」
「普通しないだろ、こういうの」
「そっか、”普通”ね。」
「普通がよかった?」
あっさり返される。
その言い方に、サインは一瞬言葉を詰まらせる。
「そういう問題じゃないだろ!!!」
その一言で、理解してしまう。
こいつは、自分を道具とした思ってない。
だから、こういうことができる。
サインの中に、じわりと嫌悪が広がった。
その空気を切るように、ダコタの声が続く。「サイン」
壁のモニターが点灯する。
「LH-23は高い安定状態にあり、反抗心はない。忠誠心と安全性を鑑みて、これより休養期間に入る」
「……はい?」
「次の運用までLH-23の稼働は停止。その間の管理をお前に任せる」
サインが眉をひそめる。
「”居住区画”へ移送しろ」
「……冗談ですよね」
「命令だ」
それで終わりだった。冷たい一言。
通信が切れる。
静かになる。
サインはゆっくり顔を上げる。
少女がこちらを見ていた。
「外、行くのね」
少しだけ楽しそうに。
サインは眉をしかめる。「……行くらしいな」
「楽しみだね、お兄さん」
即答だった。




