一話
輸送機内
低い振動音
遠くにうっすらと乱立するビル群が見える。
オペレーター
「南西国境付近で軍事衝突が発生」
「敵は37式機械化部隊。増援の進軍車両も来ており、現地部隊は壊滅寸前です」
ノイズが多く混じる
「やれるか?LH-23?」
輸送機に乗っているのは二人。
赤髮の険しい顔をした軍人を思わせる鋭い眼光を放つ女性
”ダコタ・レイヴェン”
もう一人
LH-23…そう呼ばれた16歳程の少女だった
「…今回、どれくらい使っていいの?」
「……最低限でいい」
「ふふ」
「それ、優しさ?」
・・・・・・
最初に、音が消えた。
激しい銃撃戦のはずだった。至る所で爆発音が響き、銃弾の雨が降り注いでいる。
爆撃の轟音も、銃声も、兵士たちの怒号も――すべてが、唐突に断ち切られる。
誰かが気づく。
「おかしい」と。
だが、その違和感を言葉にする前に、
――視界が歪んだ。
空間が、沈む。
いや、潰れている。
地面が、空に引きずり上げられたかのように、逆巻いた。
兵士の一人が浮く。次の瞬間、その身体は“押し潰された”。
骨が砕ける音は、誰にも聞こえない。
ただ、肉と装備が一塊になって、地面に叩きつけられる。
理解が追いつかない。
何が起きているのか、誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは――
「何か」が、来ている。
空に、影があった。
ゆっくりと降下してくるそれは、人の形をしていた。
少女だった。
無機質な装甲に覆われた四肢。
背部に展開された重力制御ユニット。
そして、その中心にある“人間の顔”。
感情は、薄い。
ただ、淡々と彼女が、着地する。
衝撃は、ない。
ただ、周囲の空気が沈む。
背中のユニットが強烈な音を周囲に響かせる
キュィィィィィィィン!!!!!!
兵士たちの膝が折れる。
立っていられない。
見えない圧力が、全身を押し潰している。
少女が、わずかに首を傾けた。
その瞬間、
――世界が、押し潰された。
・・・・・・
……
「人間の感覚というのはね」
カメラの向こうで、男が笑う。
顔が近い。
異様なほどに。
「こんなちっぽけな体に閉じ込めておくには、あまりにも“無駄”なんだよ」
彼は指を鳴らす。
背後では、無数の機器が唸りを上げていた。
規則性のない振動音。
まるで、何かが“生きている”ような音。
「光、音、熱、匂い。君たちはそれを感じているつもりでいる」
口角が上がる。
「だが違う。あれはすべて”変換”だ」
カメラに、さらに顔を近づける。
「外界のエネルギーを、電気信号に変えているだけに過ぎない」
・・・・・・
少女の周囲にいた兵士が、次々と潰れていく。
「ギャッ]]]]]]ベキッ!!!
「待っ……]]]]]ブチュッ!!!
少女は動かない
ただ、周囲の肉が圧縮され、血が地面に広がるだけ。
・・・・・・
「なら、逆にしたらどうなる?」
男は笑う。
その目は、狂気に濁っていた。
「脳へ送られる前に、その信号を“抜き取る”」
手を広げる。
「感覚は、エネルギーだ」
「それも、とてつもなく高効率なね」
・・・・・・
少女は、ゆっくりと目を閉じた。
豪雨のように打ち付けられる銃弾をいとも容易く弾き飛ばす
何かを覚悟したかのように少女は目を閉じる
・・・・・・
「“それ”はは質量でも熱量でもない。情報そのものをエネルギーに変換しているんだよ。極めて効率的で、美しいだろう?」
「無論、通常の人間では耐えられない。神経は焼き切れ、脳は崩壊する。だから我々は器を用意した。」
「ホムンクルスだ。」
・・・・・・
重力制御ユニットが人の神経を逆撫でするような恐ろしい音を鳴らす
周囲の物体が振動し始める
・・・・・・
無数の機器がひときわ大きく鳴る
「感覚のエネルギーを」
「そして――出力する」
「人間が一生で感じる情報量、それを一瞬で解き放ったら、どうなると思う?」
・・・・・・
――嗅覚、二十パーセント消費。
その瞬間、彼女の内部で何かが焼き切れる。
匂いが、消える。
血の臭いも、火薬の臭いも、土の臭いも。
すべてが、無になる。
だが次の瞬間――
解放された。
見えない奔流が、戦場を薙ぎ払う。
空気が裂け、地面が抉れ、兵士たちが消える。
まるで、存在そのものを削り取られたかのように。
・・・・・・
彼は、恍惚とした表情で呟く。
「都市の一つや二つ、簡単に消し飛ぶよ」
・・・・・・
少女は、目を開ける。
目の前に広がる惨状に何も感じない。
それでいい、と理解している。
これが、
自分の価値だから。
戦場は、すでに戦場ではなかった。
死体の山。
いや、それすらも曖昧だった。
原形を留めていない。
少女が、ゆっくりと歩く。
その足取りは軽い。
まるで、何も起きていないかのように。
遠くで、まだ生きている兵士がいた。
震えている。
銃を構えるが、手が動かない。
少女と目が合う。
その瞬間、
彼は理解した。
これは兵器ではない。
災害だ。
・・・・・・
「もちろん、代償はある」
男は肩をすくめる。
「回路は一度焼き切れば、二度と戻らない。つまり――感覚は失われる」
だが、と彼は続ける。
「問題はそこじゃない」
笑う。
・・・・・・
少女は、立ち止まる。
敵は、もういない。
少女は自分の鼻に触れる
血がべっとりと付いている
前まで感じていた鼻を突くような血と肉の臭い
……それもそこまで不快に思わなくなっていた
彼女は、ほんのわずかに首を傾ける。
そして、
何も言わずに、空へと浮かび上がった。
「任務完了。」
そう言い残し、去っていった
・・・・・・
「彼女らはね」
男の声が、最後に落ちる。
「失っているんじゃない」
静かに、断言する。
「変換しているのだよ」
「光を、音を、温もりを、匂いを、味を――」
ほんの一瞬、沈黙。
「世界そのものを」
画面が、暗転する。
「兵器として、これ以上なく完成されているとは思わないか?」
――記録終了(サムエル・マックス氏のインタビュー)。




