85.再び東部戦線へ②
場所:ノイエ帝国東部地域
「みんな〜旅団初の仕事だよ」
屋敷の部屋を与えられてから2日ほど経って、ノアに呼ばれ、そう言われた。
「今回の目標は敵師団長の討ち取り。"手段は問わない"らしい。みんな案ある?」
「はいはーい」
私のファンとか自称してた女が手を挙げる。
「じゃあ、ヒガミちゃん」
ノアがそう言う。そういう名前なんだ。
「できるだけ高高度から侵入して、午前4時に強襲しましょう」
「ほぉ?"HALO降下"もどきに"悪魔の時間"か」
感心したかのように大尉が言う。
よく分からない。
その後色々な作戦が出たものの、結局ヒガミの案が採用された。
ノアは全員を連れ、屋敷の外に出た。そして大きな倉庫の扉の前に立つと
「決行は今日の夜間ということで、早速準備しよー!」
そう言って扉を開けた。
中には多種多様な武器が揃っていて、中にはノイエ帝国軍の装備ではない…おそらく外国製の兵器も混じっていた。
「好きなの取って行って良いからね」
そう言ってノアはみんなの前から姿を消した。
私含むみんなは早速倉庫内の物資をなるべく多く争奪しようと行動を始めた。
最初にパッと目に付いたのはマスケット銃。
素早く手に取る。全体の雰囲気はダークブラウンと言った感じで、装飾が少ない。
何となく手に馴染む。
「おや、楓様はそちらを気に入ったんですか?良いですよねグラウエンブルク式」
ヒガミがそう言ってくる。
なんでついてくるんだろう。
「グラウエンブルク式って?」
「あれ?ご存知ないんですか」
「…悪かったわね」
「グラウエンブルク式魔法杖はフーロイ=ゼン統一王国軍の主力武器で、開発者はあのオリビア・フォン・グラウエンブルクです。かなり昔から現役なので、製造期間によって形状や色が絶妙に違います」
「これはどの型なの?」
「むむむ…あれ?これって…」
「どうかしたの?」
「あら〜…一発で引き当てちゃった?」
ノアがしれっと会話に交じってくる。
「こっ…ここっ…これって…!」
ヒガミが慄くように…或いは鶏のようにコッコと鳴く。
「そう。帝国一の名を持つ剣"アルキア"を作ったシェルナー・リストの作品よ」
「名前は…確か"エヴァ"」
そんな偶然有り得るのだろうか…?
……まさか
「貴女の祖父が統一王国に亡命する前の、最後の作品よ」
ノアから発されたその言葉に全身の鳥肌が立った。
私に両親はいない。そして祖父との面識もない。
物心ついた時から孤児院で暮らしていたからだ。
「これはシェルナーの、貴女へ向けた最初で最後の作品。不器用な性格なりに、貴女が喜びそうな…マシなものを作ろうとしたみたい」
ノアはそう言う。
「シェルナー・リストって剣はたくさん作ってたんですけど…魔法杖を作ったのは1回だけで、それがこれなんですよね…でもあれ…?確か銃剣も一緒に」
ヒガミは何故か涙を流しながらそう呟いた。
「"ピエトラーナ"ね。エヴァがもしこれを見つけたらと取っておいたの。あげるわ」
そう言ってノアはひょいと銃剣を出す。
私はそれを受け取り、魔法杖に付けた。
じんわりと何か暖かい感じがして、涙が出そうになる。
この感情を表す正しい表現が思い当たらない…けれど、私には"楓"に無かったものがちゃんとあるように感じられた。
深夜、敵第4師団防衛線後方、上空
「もうそろそろですね」
私達は今、飛行魔法を使っているノアに引っ張られたグライダーに載せられ、高高度を飛んでいる。
グライダーの操縦桿を握り、上手く横転しないよう制御しているのは大尉。前世で航空機の操縦でもしていたのだろうか。
「総員、降下準備だ」
大尉が操縦席を離れ、みんなのいるこちらに来る。
制御は大尉が魔法で維持してるっぽい。
「再確認するぞ。降下後は空気抵抗と魔法を上手く制御しながらだんだん落下速度を減速させていく感じだ。失敗したらタダでは済まんから注意しろ」
大尉は簡潔にそう言うと、グライダーの最後方に立った。そして蹴りで後方扉をぶち開けて、外を確認する。
大胆極まりない。
「よし。良いぞ!降下!降下!」
50近くの旅団員達がパラシュートも付けず続々と降下する。
私の番だ。
「下で会いましょう!」
ヒガミにそう言われきる前に、私は飛び降りた。
次回、続き。
ちなみにシェルナーはヘマが会った武器屋の人のこと。ペトラとピエトラーナは瓜二つの存在。




