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怪族  作者: ゴルゴンゾーラ三国


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09

 さっきまで慎重にリビングを歩いていたのに、ほぼ反射的に、バタバタと勢いよく台所のシンクへと向かう。明らかに掃除がされていないそこへ、吐き気がするままに戻そうとしたが、胃の内容物はすっかり消化されてしまったのか、唾液がぼたぼたと垂れるだけだった。


「――、ぅ、ッ」


 収まらない吐き気。しかし、吐けるものは何もない。

 僕は乱暴に口元をぬぐった。ついでに、蛇口のレバーを上げ、僕が吐いたばかりの唾液を流す。

 ……水道は流れるのか。まあ、二階でトイレやシャワーを使えることは分かっているのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。

 ちら、とコンロを見る。コンロも、普段から使われている様子はなく、薄汚い。試しに、スイッチを回すと、火がつく。ガス・水道・電気、全てが健在。

 周りがこの有様では、普通にライフラインが通っている状況が、異常に思えた。


「――……」


 僕は衝動のままに、流しの下の棚や、引き出し、全てを確認する。包丁、まな板、鍋にフライパン、その他、全てが使われた形跡がない。

 食器棚を確認すれば、棚には埃が積もっているのに、僕が普段使っている食器だけが、異様に綺麗で、やけに目立っていた。


「――はぁ……ッ、はぁ……ッ」


 自然と、息が荒くなる。息をひそめた方がいいのだろうか、と思いながらも、僕の意志とは反対に、呼吸が大人しくなることはなかった。

 流しの下や食器棚を調べた勢いで、僕は冷蔵庫の取っ手に手をかける。が、一瞬、手が止まる。

 流石にここを確認するのはためらいがあったが――ここまで来たら、見なかったことにして部屋に戻る、という選択肢は頭の中からなくなっていた。


 覚悟を決めて開けると、冷蔵庫の中は、綺麗に整理されていた。食品を一つひとつ手に取って確認してみるが、賞味期限はおろか、消費期限が切れているものはなかった。少なくとも、カレンダーのように、冷蔵庫の中身は十年前で止まっていた――ということはなさそうだ。


 安全に食べられるものなのかどうか、今の僕に判断できるとは思えなかったが、少なくとも近くのスーパーで売っているものなのだろうことは分かる。少なくとも、それに寄せてある見た目だ。

 少し減っている食材の内容と、昨日今日の料理のメニューを照らし合わせてみても、ほとんど一致している。この中にあるものを使ったのだろう。

 ……どうやって調理しているのかは知らないが。


 しかし、仮に、僕の食べている食事に使われている材料が安全だったとしても、料理している人間が分からなければ、安心して食べることはできない。


「ま、まだ……、まだ、全部、確認したわけじゃないから……」


 僕は、自分を奮い立たせるために、声を絞り出した。頭のどこかでは、そんなこと言ったって、リビングがこれじゃあ誰も住んでいないことは明白だと、分かっていたけれど。

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