10
脱衣所に風呂、両親の寝室に子供部屋。全部確認したが、どこもリビングと変わりない。
埃まみれで、誰かが使っている、あるいは生活している痕跡は一切ない。随分と昔に時を止めた部屋。
そして、両親の姿はどこにもない。
誰もいない。
これが、十年前に気が付いたらどれだけ良かっただろうか。
それはそれで、ある意味大変だったかもしれないが、少なくとも、得体のしれないものへの恐怖を感じなくて済んだ。
「二階――二階。そうだ、二階にいるんだよ」
僕はまだ諦めきれず、そんなことをつぶやく。力が入らない足を無理やりに動かして、僕は階段を上る。
そして、見てしまった。
――僕の部屋の前、ドアのすぐ横に、夕食が置かれている。
「――ッ!」
僕は思わず、声を上げそうになって、慌てて両手で口をふさぐ。今、悲鳴を上げたら。あの日、階段下へと、料理にハエがたかっていると声を投げかけた直後のように、何かが階段を駆け上がってくるかもしれない。そんな考えが頭をよぎり、咄嗟だった。
限界だ。
僕はその料理を無視して、自室へと入る。
部屋に入って、手あたり次第、棚を扉の前へと寄せた。扉を全部隠せるくらいの大きな棚があればよかったが、あいにく、僕の部屋にはカラーボックスくらいしかない。
しかし、不幸中の幸いか、高さ的にちょうどよく、ドアノブの下に入り、外から開けようとしても棚が引っ掛かって、下がり切らないだろう。蹴破られたら終わりだが、少なくとも、普通に入ってくることはできないはず。
僕は、そのままベッドへともぐりこみ、頭から布団をかぶる。
もう、日が暮れる。一階を探索し始めた頃はまだ太陽があったが、それも沈み始めている。小学生の下校時間って、こんなに遅かったか。
暗い中、二階を探索する勇気はない。僕の自室以外に、水回りしかなくても。
僕は枕元にあったスマホと、目覚まし時計を布団の中に引き込んだ。スマホは外と連絡する用で、目覚まし時計は何かあったとき、投げつけるために。
僕の部屋には、何かを殴るような、長さと重さを兼ね備えたものはない。高校時代は野球部だったけれど、熱心な野球少年でもなかったので、自分のバットはないし、掃除機をかけることもないので、それもない。
小学生の頃買ってもらった目覚まし時計は、絵に描いたような目覚まし時計、というデザインのもの。ダメージを与えられるとは思えないが、少なくとも、今、布団の中から手が届くもので、一番投げやすそうなのだ。
何かあれば、投げてやる。
そう、布団の中で、目覚まし時計を強く持っていると――。
――コンコンコン。
三度、扉の下の方からノックが聞こえてきた。カラーボックスを扉の前に置いているからか、音は少しくぐもっている。
その音は、まるで、先ほどは僕が部屋にいなかったことを知っているかのように、部屋の前に夕食を置いたことを伝えていた。




