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次に気が付いたときには、朝だった。
どうやらあのまま寝てしまったらしい。寝ているというか、気絶というか。少なくとも、眠気を感じなかった。あまりのストレスに、意識が飛んだのだろう。
布団の中でスマホを見ると、朝の八時だった。
ちら、と布団を少しだけ上げ、扉の方を覗いてみる。
特別、カラーボックスが動いた様子はない。大きな音もしなかったし、無理に何かが入ってこようとすることは、なかったのだろう。いや、寝ていたから、本当のところはどうなのか分からないが。
でも、少なくとも、大きな音で目が覚めるようなことはなかった。
「――……」
ごくり、と僕は唾を飲み込む。
一生、この部屋にこもっているわけにはいかない。風呂はまだしも、食事やトイレをどうにかする方法が、ここにはない。
二十年近くこの部屋に引きこもっていたというのに、いざ籠城しようとなると、何一つ、頼れるものがないことに気が付いた。小腹を満たすお菓子一つ、小便を足すペットボトル一つない。
かといって、窓から外に出るのも難しい。二階だから、落ちたところでよっぽど運が悪くない限りは死なないだろう。
その代わりに、つたって歩くような足場は一切ないため、安全に下へ降りられる確率も低い。
もしも、降りるときに大きな音を立てて、それで、あの日、階段を勢いよく上ってきた何かが寄ってきたとして。果たして、怪我をした僕が逃げ切れるというのだろうか。
ずっと外に出ていないのだ。体力や筋力が落ちきっていて、普通に無傷で走ったって、すぐに捕まる想像ができる。
窓から外に出るのは、最終手段だ。
まだ、二階のキッチンが残っている。そんなところに住んでいるはずがないけれど、家の中を全て調べるまで、誰もいない、と言い切ってしまうのが、怖い。もしかしたら、キッチンに両親が住んでいるのかも、なんていう、ありえない想像にすがってしまう。
でも、ほら、二階のキッチンにいたら、僕が一階を調べている間に僕の部屋の前に料理を置く、ということもできるわけで。
……じゃあ、なんで、ハエがたかってると言ったとき、一階から階段を駆け上ってきたんだよ、って話ではあるが。
それでも、一階を調べているとき、誰にも、何にも遭遇しなかった。もしかしたら、そのまま、普通に玄関から出られるかもしれない。その後、行く当ては一切ないが――少なくとも、ここにいるよりは、ずっとマシだ。
なんにせよ、この部屋にずっといるわけにはいかない。
僕は震える手で、扉の前のカラーボックスを、覚悟を決めて、どかした。




