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恐るおそる開けたのに、扉の前に何かがいる、ということはなかった。ただ、昨日の夜に置かれていた食事と、今置かれてるものはメニューが変わっている。
料理が置かれていることへの恐怖で、しっかりとメニューの内容を確認していなかったが、昨晩は、どんぶりがメインに置かれていた記憶がある。今あるのは、おにぎりと味噌汁、ミートボールや卵焼き、ブロッコリーにミニトマトなどがのった皿。
どことなく、手作り弁当のようなラインナップ。やっぱり、朝は弁当の残り物を置いている、ということなのか。元となる弁当が、そもそも存在するのかも怪しいが。
僕は極力、音を立てないように廊下を歩き、ゆっくりと、二階のキッチンへとつながる扉を開ける。
――しかし、僕の嫌な予想通り、そこには何もなかった。
元より、二階の台所は、冷蔵庫も、食器棚も、何もない。祖父母が共に亡くなり、僕が部屋を移動した後に、二階のキッチンにあるものは全て処分していたのだ。
祖父母の部屋は僕が使うとしても、その他は必要ないだろう、って。風呂場のものをそろえたのだって、僕が引きこもるようになってからだ。料理は全て母さんが用意してくれたので、僕が作る必要もなく。そのころにはもう、母さんに疲れ切っていた父さんが、台所に立とうとすることもなかったから。
二階のキッチンの様子も変わらず、何も置かれていないことに心折れた僕は、備え付けの棚等を探す気力もなくなってしまった。そんなところに両親がいるわけもない。
いよいよ、家の中は全て確認してしまった。
誰もいない。それが証明されてしまって。
台所にいるのはなんだか嫌で、僕は自室に戻った。この家に、果たして安全な場所などあるのか疑問だったのだが、それでも、やはり自室が一番落ち着くような気がしたのだ。
部屋に戻り、一応、カラーボックスを扉の前に置く。気休めでしかないが、それでもないよりはマシなのだ。
「――……」
僕はベッドの上に置いてあったスマホを取る。電話をかけようとして――手が止まった。
家族の連絡先が、スマホに登録されていない。なんなら、電話アプリのリストには、一人として名前がない。
今使っているスマホは、引きこもるようになってから新しく買ったものだ。外に出るわけでもなく、ネットサーフィンをするためだけに買った安物。僕の部屋にはパソコンがないから、その代わりに。
連絡を取る必要がないから、と、登録しなかったのだ。現に、今の今まで、困らなかった。
それが、アダとなった。
本物の家族と連絡する術を、僕は持っていない。




