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一階の固定電話に誰かの携帯番号が登録されているだろうか? でも、操作の仕方が分からないしな……。
スマホ片手に調べることはできるけれど、その間に何かが寄ってきたらと思うと、できる限り、隠れられる場所がないようなところで一か所にとどまっていたくない。
かといって、いきなり警察に連絡するのも……。家に誰もいないし、キッチンが使われた形跡がないのに、手作り料理が提供される、なんて言ったところでただの妄言だと思われてしまうだろう。あるいは、別の場所で作ったんだろう、で、終わり。そもそも、僕にとっては一大事だが、犯罪なのかと言われると、なんか違う気がする。
学がなく、法律なんてちっともわからないけれど、一線は超えていないのではないだろうか。
平和な日々を過ごしていると、いざ警察を呼ぼうとしても、ためらってしまう。
「――……外、とにかく、外に出よう」
頼れる人間はいない。それでも、今、この家に留まるよりは、外に出た方が心が休まる。どこか、ちゃんとした人間のいる場所で、安心して策を練りたい。
引きこもっている間は、外の方が面倒だったのに、今はこの家が何よりも恐ろしい。
僕は机の上に置きっぱなしだった貯金箱を取る。中のお金を取り出すには壊さないといけないタイプのものだが、幸いにもプラスチック製。壊すこと自体は難しくないはずだ。
僕は貯金箱を布団にくるみ、なるべく音が出ないようにして、布団の上から目覚まし時計を持ち、強く打ち付けた。もう長年使っていない目覚まし時計だ。時計には悪いが、今は貯金箱の中のお金を取り出し、それを元に外で生活することの方が重要なのだ。
何度かぶつけていると、手ごたえがあった。僕は慌てて布団を広げ、中のお金を回収する。子供の頃からのお小遣いの余りを入れてきた貯金箱の中身は、当然というべきか、小銭ばかり。全部でいくらになるか、一瞬では判断できないが、それでも、何枚かはお札が入っていたので、そこまで低い金額でもないはずだ。今のネットカフェの相場がいくらかは知らないが、一泊くらいはできるだろう。そうであってくれ。
僕は適当にあった袋にそれらを全てまとめ、スマホを持ち、カバンに入れる。到底三十代半ばの男が持つようなカバンではなかったが、この際文句はない。
僕はしっかりとカバンの持ち手を握りしめ、部屋を出て階段を下りる。早く家を出たい、と、はやる気持ちとは裏腹に、足は、慎重に階段の踏面を踏む。
ぎし、ぎし、ときしむ音に、一度でいいから鳴らないでくれ、と思いながら、ゆっくりと階段を下りる。とにかく静かになってほしくて、昨日降りたときに気になった足の裏の不快感は、気にする余裕もなかった。
埃まみれの階段には、昨日僕が上り下りした際についたと思われる足跡だけが、妙にくっきりと残っていた。




