14
無事に一階の廊下へとたどり着く。僕は一応、辺りを見回して、誰もいないことを確認した。
――大丈夫、いける。
僕は、玄関に向かい、靴箱を開ける。一足くらい、靴が出しっぱなしになっていれば、音が出ないかと手を震えさせながら靴箱を開ける必要もなかったのだが。
靴箱の中には、随分と使われていないのであろう靴がいくつも並んでいた。父さんんのものらしき革靴なんか、合皮だからか、表面が割れ、ところどころ剥がれている。
どれもこれも、普段なら裸足で履く気にもならない汚さだったが、今はそんなことも気にならない。
僕は一番下に追いやられていた、僕が昔使っていたサンダルを取り出す。未だに捨てられていなかったことに少し驚いたが、どうせなら自分のものを履こう。
音が出ないよう気を払いながら、靴の中のごみを取り出すべく、軽く振る。そして、そのまま僕はサンダルに足を入れる。
玄関に立ち、僕は最後に一度、振り返った。廊下には、誰もいないことを確認する。
後は出ていくだけ。
見つからないで、外に行ける。
ゆっくりと、極力音がならないように鍵を開け、ドアノブに手をかけた瞬間――。
「――駿汰?」
背後から、女性の声が、した。最初こそ誰のものか分からなかったけれど、すぐに記憶がよみがえる。
母さんの声だ。
若々しい――二十年前と、何も変わらない、声。
僕は振り返ることもできず、ただ、固まってしまった。
声がしたのが気のせいかも、という現実逃避なんかではない。ただ、ただ、体が硬直し、指一本、言うことを聞かない。
このまま扉を押し開ければ、すぐにでも、この家から出られるのに。
「どこか行くの?」
声のトーンは、何一つ、僕を責め立ててなんかいない。ただ、単純に、問うているだけ。
それなのに、僕は、ひどく圧を感じた。
――この声に、答えていいのか?
今、この状態で、僕がどう行動し、応えればいいのか、正解が分からない。どうしたら、やり過ごせる。
緊張とストレスに、自分の息が上がっていくのを感じた。
「駿汰、聞いてる?」
僕が何も言わないからだろうか。母さんの声が、少し、不機嫌になったような気がした。早く答えろ、という催促なのか。
黙っていても、声の主はどこかに行ってくれるわけではないようだ。
「こ、コンビニ」
僕は、覚悟を決めて、声を絞り出す。
少しの間が開く。沈黙が流れる。
答えても、死なないことに、少しだけ安堵し、唾を飲み込んだ。
このまま、適当にごまかして、外に出たい。
「コンビニ、に、ちょっと」
呼吸一つ、瞬き一つ、間違えたら。
悪い想像ばかりしてしまい、かすれた声は、まともな音にならない。




