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「……ぎぃか様は、どうして『ぎぃか様』っていうんだ?」
僕は彼女の言葉に、肯定も否定もせず、質問を投げかけた。我ながら強引な話題転換だと思うが、彼女が、当たり前のように死体のことを話し進めるのを止めたかったのだ。
彼女にとっては、ただ、おばさんが死んだだけ。しかも見知らぬ、もっと言えば、今回の一件がなければ一生、その存在を知ることがなかったであろう人。
でも、僕にとっては、血のつながった、家族なのだ。
「ん、んー。説はいろいろあるんだけどね」
彼女は、アゴでボールペンの頭をカチカチと鳴らしながら、僕の話題転換に応じてくれた。流石に言い過ぎたと思ったのか、それとも、単純にそこまで僕の答えを求めておらず、どうでもいいと判断したのか。
無事に話題が変わったので、これ以上、掘り下げるつもりはないが。
「しんかホームの教祖様の、身御銀花、つまりは銀花様、が訛ったもの、とか、偽家族のもじりとかが有名かなあ」
「……ニュースサイトでは、信者が皆口にしてたけど、決まった語源はないのか?」
「名前の由来自体は発表されてないからね。皆、考察して遊んでたんだよ。だから、どうしてぎぃか様っていうのか、本当のところはわたしも知らない」
信者たちは、ぎぃか様の名前の意味を分かっていたのだろうか。少し聞いてみたい気もするが……直接、解決につながらないのなら知らなくてもいいだろう。
知らぬが仏、とはよく言ったものだ。こういう話は、余計なことに首を突っ込めば突っ込むほど、どうしようもなくなる印象がある。こうして家から出られない以上、既に手遅れなような気もするのだが。
「わたしは、教祖様の銀花様が訛った説を推したいかなー。だってさ、死体を動かす核に身御銀花の血が――」
彼女の話を遮るように、外から騒がしい笑い声が聞こえてくる。ここは駅から少し離れた住宅街なので、酔っ払いがはしゃいで大声を出す、ということもない。小学生の登下校時の時間帯は多少うるさくなることもあるが、今聞こえてくるのは、声音的に大人の男の声だ。
「うるさっ」
丑師が心底迷惑そうに、眉をひそめた。確かに、中々ない騒がしさだ。二人か三人で、大声を出しているような雰囲気を感じる。
「――でさぁ、ここの住所なわけ、こっこんちゃんの配信に流れてきたの!」
はっきりと聞こえたその言葉に、僕と丑師は顔を見合わせた。
「今時、住所ネットに書き込むとか、馬鹿かよって話だよなあ!」
げらげらと響いて聞こえる笑い声。「だから言ったじゃーん……」と呆れる丑師に、僕は何も言い返せなかった。




