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「お弁当はわたしのおごりね。ほら、取材のお礼、みたいな? 好きに食べて」
彼女はこちらに目をくれることもなく、漫画雑誌を読みながら言った。彼女が持っているのは、母さんの偽物が買ってきたものだ。読み切りばかりが掲載されているわけじゃないから、途中から読んでもそんなに夢中になれるとは思わないんだけど……。元からの読者だったのかな?
机の中に置かれたビニール袋の中身を見れば、ハンバーグ弁当と緑茶のペットボトルが入っていた。
「ハンバーグ……」
あまりの間の悪さに、僕は思わずつぶやいた。
「あれ、お肉嫌い? ハンバーグだったら、あんまり外さないかなって思ったんだけど」
「……いや、ありがたく食べるよ」
つい先ほど、夢に見ていた、ハンバーグ。タイミングが悪いだけで、別に嫌いではない。それに、お腹が空いている今では、母さんの偽物の料理じゃなければ、嫌いなものだって食べられる気がする。
僕は机に座って、ハンバーグ弁当を取り出す。流石に、彼女の正面に座って、こたつで食べる気にはなれなかった。
ハンバーグ弁当の包装を剥がす。僕も丑師も黙れば、部屋にカサカサという、ビニールの包みがはがされる音と、丑師の漫画のページをめくる音だけが響く。
妙な沈黙に耐えきれなくなって、無理に話題を作り出した。
「あのさ……気を悪くしたら申し訳ないんだけど、なんか、声、少し違くないか?」
配信で聞いていたのはもっと、普通の声だった。今の方が、まだ特徴があるように思える。アニメ声、と言うほどでもないけれど。
「ああ……あれ? 知らないの? ボイスチェンジャー」
「ボイチェンだよ、ボイチェン」と、なんてことないように言う彼女。ちら、と彼女の方を見ると、表情一つ変わらない。
「ボイスチェンジャーは、知ってるけど……」
ボイスチェンジャーって、もっと、普通の声を変わった声に加工するものだと思っていた。テレビの、警察ドキュメンタリーで流れる犯人の加工された声が、脳内によぎる。後は、街角のインタビューで顔を映されたくない人の声とか――母さんの偽物の声、とか。あんな感じ。
「あんまり、自分の声、好きじゃないんだ」
そういう彼女の声は、少しばかり、トゲがあった。妙に作り物っぽい声だから、からかわれてきたのだろうか。コンプレックスになるなら、あまりこれ以上は突っ込んで聞かない方がいいだろう。
「……いただきます」
僕は丑師が買ってきたハンバーグ弁当を、ありがたくもらう。ほとんど冷めて、若干の温かさがあるような、ないような、そんな感じのハンバーグは、いかにもコンビニらしい味がして。
それが逆に、安心できた。




