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着替え終え、ドライヤーで髪を乾かすかどうか、一瞬迷って、自然乾燥を僕は選んだ。ドライヤーなんか使って、うるさくしたら、母さんの足音に気が付かない。ドライヤーを止めて、後ろを振り返ったらすぐそこにいた、なんて展開だけは御免だった。
バスタオルではなく、ハンドタオルを首からかけたところで、ふと、スマホを取り出した。脱衣所に来る前、そのままズボンのポケットに入れて持ってきてしまっていたのである。
早くここから出たくて、外に出ることばかり考えていたけれど、丑師に教えてもらった霊能者へは、電話番号も教えてもらっていたのだった。
丑師本人が来ているし、どうにかなるかな、と一瞬思ったが、彼女自身が霊能者を紹介してくれたということは、本職には敵わないということだろう。
一応、電話をかけるだけかけてみたのだが――。
「……つながらないな」
番号が間違っていたのか、と確認するが、特に間違えている様子はない。
もしかして、と、カフェの情報を調べてみると、予想通り営業時間が過ぎていた。夜営業はしていないようだ。もう店に、誰もいないのだろう。
また後で、ちゃんと営業時間内にかけなおすか……。
丑師本人に、プライベートな番号を聞くのでも良かったが、彼女が役に立たないと直接言ってしまうみたいで、少しだけ、決まりが悪い。もちろん、どうしようもなくなれば、ためらいなく聞くつもりではいるのだが。
スマホを再びポケットにしまい、廊下へと出る。そこに母さんの偽物が待ち伏せている、なんてことはなく、普通に部屋へとたどり着けた。日が暮れて、薄暗い廊下。階段下をのぞいたら、きっと、もっと暗いのだろう。
僕は階段下を見る勇気がなくて、ほとんど二階の廊下の突き当り、トイレの扉の方を見ながら、「風呂、出たよ」と言った。
そのまま、すぐさま部屋へと滑り込む。そして、数秒もしないうちに、ダダダダ、と階段を駆け上がる音がした。
母さんの偽物の足音に、怖くなったのも、ほんの一瞬のこと。
「あ、おかえりー」
随分とくつろいだ様子の丑師が、漫画雑誌を読んでいたのである。呆れの感情が勝ってしまい、恐怖はどこかへと消えてしまった。
和風ロリータの女性が、炬燵に入って漫画を読んでいる、というのは、中々にシュールな光景だった。
配信のネタのためにやってきた、と言っていたけれど、見知らぬ異性の部屋にいて、そんなにも警戒心なくいられるものなのか?
勿論、僕からしたら、絶対にそんなことはしないと言える。今、最も僕が恐れているのは、彼女に、僕を置いてこの家から出ていかれることだから。多少のことは目をつむってでも、ここにいてもらいたい。
ただ、それは僕だから言えることで。
僕を異性として認識していないのはあからさまなんだけど……。よっぽど僕のことをなめていて、僕が襲ってきたとて、どうにかできると思っているのか。それとも、ただ単に、能天気で図太い性格なだけなのか。想像力に欠けていて、異性の部屋に上がることの意味を理解していない可能性もある。
正解が分からない僕は、ただ、ため息を吐くことしかできなかった。




