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もう出ていくのだとばかり思っていたから油断した。……前もこんなだったな。
とはいえ、この扉を開けるわけない、という思いも、どこかにあった。僕は裸なのである。よほどの緊急事態出ない限り、扉を開けることはないだろう。僕が母さんの本当のことを見抜いているとバレない以上は、本来の母さんと同じ行動をとるはず。そして、母さんは子供が風呂に入っているにも関わらず、扉を開けるような真似はしない。
だからか、それとも、すりガラス越しとはいえ一枚扉が挟まっているからか、玄関から出て行こうとしたときよりは、比較的すぐに落ち着きを取り戻すことができた。
それでも、一応は警戒している僕とは裏腹に、母さんの偽物の声音は至って普通。
「誰か来てるみたいだけど、お友達?」
「え、ああ……うん。だから、ちょっとシャワー浴びてて……。待たせるけど、臭い方が悪いかなって」
そういえば、丑師は母さんに扉を開けてもらって、ここまで来たんだろう。部屋も教えてもらったのかもしれない。
実際は初対面だし、配信で少しコメントを拾ってもらっただけ。知り合い以下だ。
だから、あまり深い質問をされると困るのだが……。
「ひ、昼間に、漫画買ってきてもらっただろ。それに、昔二人で好きだった漫画家の、新しい作品があったんだ。だから、懐かしくなって、連絡して、会おう、ってなって……」
何から何まで嘘。買ってきてもらった漫画は、巻頭に掲載されていた作品を最初の数ページめくっただけだし、昔好きだった漫画家の新しい作品がのっているかなんて知らない。彼女の好きな作家も分からない。連絡して会おうって話になったもの嘘。
よくもまあ、こんなでまかせが、するすると口から出るものだと、自分でも感心してしまった。
でも、母さんは疑っていないのか、「そうなのね」と言って、今度こそ脱衣所を出て行った。
母さんがいなくなってから、数分して、ようやく僕は風呂場から出る。シャワーを浴びただけなのに、すぐに体を拭かず待っていたからか、少し体が冷えてしまった。
体をふき、服を着替えながら、母さんとの会話に、少し違和感を覚えていた。
……母さん、丑師の格好に対して、何も言っていなかったな。というか、そもそも、僕の友人が女であることにも言及していなかったような。
でも、別に、母さんが、成人女性の服装について、どうあるべきだと考えているのかは、知らない。実際、どうこう言っている場面に出くわしたことがないから。
母さんの傾向から言えば、和風ロリータなんて、絶対嫌がると思うんだけど……。奈那子には、いかにも女の子らしい恰好をさせていたが、あれだって、子供だからだろう。
それとも、引きこもりの元へ、遊びに来てくれる友人がいるだけマシだと思ったのだろうか。




