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一週間も風呂に入っていなかったからか、軽く体を洗うだけで、さっぱりとした。これからはもっと頻繁に入るか、と、いつもこの瞬間だけは思うのに、気が付けば、いつもの頻度に戻っている。
でも、もう少し、人としてちゃんとした生活リズムを身に着けた方がいいよな。
勿論、今の状況を脱するのが最優先ではあるのだが。ただ、この数日で、いかに自分が、生きることに対して不誠実だったかを思い知らされた。もう少し、学んで、まともに生きるべきである。
ニートだけど。……ニートだからか?
社会に戻るとするなら、一般常識に適応するように生きねばならない。この家を脱したら、きっと、今のような生活は続かないだろうし……。
髪に滴る水を切る。長いと邪魔ではあるが、水気を切りやすくはある。……丑師がいるなら、髪は結んでおいた方がいいだろうか。雑に切って整っていない髪なので、一つに縛っておいた方が、まだ見た目がいいだろう。
そろそろ出るか、と振り返ったところで、僕は思わず、「うわっ」と声を上げてしまった。
風呂場の扉、すりガラス越しに誰かが立っている。黒いシルエットしか分からない。
丑師がいるのか、と思ったが――違った。
「駿汰? お風呂に入ってるの?」
――母さんの偽物だった。
ぎくり、と体がこわばる。つい先ほどみた夢が、フラッシュバックした。
あるべきところに人のパーツがあるものの、明らかに精細を欠いている、黒い人影。今、あの人型が、風呂場の扉一枚だけを挟んで、僕の目の前にいるのか。
すりガラスで細部が分かるわけではないからか、人影に、違和感はない。絶対にやらないが、もし今、扉を開けたら、普通に母さんが現れるような気すらする。
引きつる喉で、僕は「そうだよ」と肯定の言葉をひねり出した。
目の前の存在に、僕の不自然を気取られてはならない。とにかく、いつも通りの調子で応答する。
そうすれば、大丈夫。
分かっていても、中々そうはいかないのだけれど。
「もう、出るの? もう少しかかる?」
それでも、母さんの声は、母さんのもののままだった。僕が母さんが偽物であることに気付いたことに対して、感づき始めたときの、歪んだ声ではない。
「も、もう出るよ」
「そう。じゃあ、母さん下にいるから、終わったら声かけてね。掃除しちゃうから」
母さんの違和感に気が付く前、何度も交わした会話。いつもの調子。具体的にいつ話したのか分からないくらい、特別じゃなく、日常に溶け込んだ確認の言葉。
当たり前に交わされるその会話が、逆に気味悪い。
すりガラス越しの黒いシルエットが、ふ、と動く。脱衣所を出るか、と思ったのに、そのまま素直に出ていくことはなく、ピタリ、と止まってしまった。




