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「――ッ!」
ばちり。僕は勢いよく瞼を上げた。
……瞼を上げた?
よく見れば、僕の部屋だ。リビングじゃない。
「……ってぇ」
体を起こすと、耳に痛みを感じて、思わず小さく声をもらしてしまった。僕は慌てて耳を触る。……イヤホンが引っ掛かっている。その先、つながっているスマホは体の下にあって。スマホが動かないのに、思い切り起き上がったから、耳につけていたイヤホンが引っ張られて痛みを感じたのだろう。
混乱しながらも、僕はスマホのロック画面を開いた。もう、夕方だ。
「――……寝てたのか」
ようやく状況を飲み込めた。しんかホームの事件を調べ、情けなくべそをかきながら家族のことを思い浮かべて、そのまま寝入ったらしい。
「子供かよ……」
知識や感性が子供の頃から変わっていないのは、まあ、こんな生活を送っているからしかたないとしても、この年にもなって泣き寝入りとは、本当に情けなくなる。
僕はため息を吐きながら、耳につっこんだままだったイヤホンを外した。
一体、どこからが夢だったのか。
僕は思わず、首元に手を這わせた。……大丈夫、脈打っている。生きて、いる。
「…………」
少し迷って、僕は扉の前のカラーボックスをどかし、そっと耳を当てる。音はしないし、人の気配も感じられない。
すぐ扉をしめられるように、しっかりとドアノブを握って、そっと扉を開ける。その先には何もなかった。昼食を再び用意したわけではなさそうだ。それとも、僕が寝入っていることに気が付いて、片付けてしまったのか。
どちらにせよ、料理を食べたくなかったので、一安心である。もう少ししたら、夕食が用意されるだろうから、一時の猶予ではあるけれど。
母さんの偽物が来る前に、早く扉を閉めてカラーボックスを戻そう。
そう思って、扉を動かした瞬間――。
――ピンポーン。
来客を知らせる、チャイムの音が鳴った。
また、この間のピンポンダッシュの小学生だろうか? 小学生の下校時間にしては、少し遅くないだろうか。
僕は不思議に思いつつも、急いで扉を閉める。角度的に、階段下からは僕の部屋の扉が開いていることには気が付かないだろうが、万が一ということはある。母さんが廊下を通って、僕の部屋の扉が開いていることが分かって、様子を見に来られたら、もう終わりだ。
あんな夢を見た後で、もし、母さんの偽物を現実でも見てしまったら、まともな反応を返せる気がしない。
母さんが、僕に手を伸ばして。夢だから逃げ切れたけれど、現実だったら、死ぬまでそのまま、母さんの手を見続けてしまうことだろう。
――ピンポーン、ピンポーン。
もう二度、チャイムが鳴った。




