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母さんがいなくなって、僕はイヤホンを付けなおしてからしんかホームについて調べ始めた。早くあの偽物の情報を知りたいけれど、つい先ほど扉一枚隔てて会話した直後では、直接ぎぃか様を調べる勇気がなかった。
しんかホームで検索しても、公式ホームページなどはなく、ニュースサイトばかりがヒットする。
「――……伝説、か」
丑師がある種の伝説だと言っていたのを、そのニュースたちを見てようやく気が付いた。
今から約十年前。しんかホームの信者による殺人事件が、国内のあらゆるところで起きたらしい。テロとかではなく、信者を名乗る者が、一斉に家族を殺すという事件が、各地で発生。
未解決事件は一件もなく、それどころか、調べれば、全ての事件の裁判が終わっていた。それはそうだ、十年も前の事件である。
刑期が終わった、ということはないだろうが、いくら裁判が長引きがちとはいえ、全ての判決が出ている。
これだけの事件を、僕は知らなかった。いや、全く見覚えがない、というわけではないけれど。
身御銀花。
しんかホームの教祖である彼女の名前に、見覚えだけはあった。身御銀花が捕まった、というニュース自体は知っていたのだ。
ただ、宗教の教祖、というネットニュースのワードを見て、詐欺か何かで捕まったのか、としか思わなかった。いや、殺人事件、という単語も見た記憶があるけど、お布施のために、信者が誰かを殺したとか、そういう風に勘違いしたような気がする。
とどのつまり、ここまでの大事件だと思わなかったのだ。
ずっと陰謀論やカルト宗教の情報を、意図的に避けてきたのが、アダとなった。
「――こんなの、ばっかだな」
自分が世間に疎く、ただ無駄に時間を浪費して、一般的な社会人からは大きく外れている自覚はあった。けれど、こんなにも、自分が劣っていると思わされることになるとは。
自分の足らない部分を何度も分からされて、嫌な気持ちになりながら、僕は事件の概要を一つひとつ追っていく。
その途中で――僕は、ぴたりと、指を止めた。
具体的なやり方は――まあ、犯罪になっちゃうから濁すとして。
丑師の言葉が、頭の中でよみがえる。
犯罪になる。
「――……犯罪」
僕の目の前には、殺人事件――犯罪の情報が映る、スマホがある。
もしかして、丑師の言っていた依り代とは――死体のこと、なのか?
この事件を起こしたしんかホームの信者は、ぎぃか様を行うために、家族を、殺し――。
「――ッ、そんな……。ま、待って……待ってよ……」
本物がいなくなる。
丑師のその言葉に、僕は、無意識に、あくまで本物の母さんは、どこか別の場所にいるのだと、思い込んでいた。あの偽物がいなくなれば、帰ってくるんじゃないのか、って。
でも、依り代が死体ということは。
そして、本物がいなくなるということは。
本当の母さんは――もう、殺されて、この世にいないんじゃないのか。




