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コンビニに行くことすら止められたのだ。カフェのために外出できるとは思えない。僕が、高校中退をしてニートになったとしても、頻繁に外へ出る人間だったら、そこまで怪しく思われなかったかもしれないが……。いや、母さんのことだから、ニートは引きこもり、という枠に当てはめようとして、結局は、今と同じような状況になる気がする。
短い間に二度も外へ出ようとしたら、流石に言い逃れもできないだろうか。
自室の窓から出ていくことを視野に入れたとき――。
「――駿汰」
母さんの声がして、僕は反射的にスマホを消し、画面をベッドに押し付けた。透視能力があって、扉を開けずとも僕の行動が見えている、というわけではないだろうけど、考える前に体が動いた。
僕はゆっくり、片耳につけていたイヤホンを取る。
「どうして、ご飯食べてないの? 食べなさいって、お母さん、言ったよね?」
「それは――」
――カチャ。
僕が親子丼の味について言う前に、ドアノブが、少しだけ動いた。でも、扉の前に置いたカラーボックスが上手い具合に引っ掛かり、最後までドアノブが下に下がり切らない。半端な状態では、ドアノブでドアを開けることは不可能だ。
一拍の間。
そして、ドアノブが激しく動き始めた。
――ガチャガチャガチャッ!
――カコッカコッカコッ!
「――ッ!」
尋ねなくとも分かる、母さんの確かな怒り。ドアノブが何度も動かされるだけでなく、そのたびにカラーボックスが叩かれるのだから、音が二重になって、騒がしくなる。
「なんでご飯を食べないの。なんで扉が開かないの。なんで、なんでなんでなんで――」
「――、っ」
僕は思わず息を飲んだ。
母さんの声が――歪んでいる。
二重にも、三重にも感じられる声。母さんの声に重なって、母さんの声を加工したような声が聞こえてくる。そして、徐々に、母さんの声よりも、その、重なっている声の方が大きくなっていくような気がした。
確かに母さんの声もあるのに。
だんだんと、声が、低く、別人のようなものに、すり替わっていく。
「ま、まずかったから!」
僕は必死に叫んだ。
鼓動の音が、自分でも分かるくらいに、早鐘を打つ。
今、聞こえている母さんの声が――歪んだ声に、全てかき消されてしまったら。
僕の命はない。
直感で、そう思った。
「あ、ああ、あんな酸っぱい親子丼、なんて、食べられるわけないだろ!」
投げやりに叫ぶ。下手に出たら、余計に母さんへ不信感を募らせるだけ。
なるべく、普段言っていたような、乱暴な言葉遣いをしようと心がけて、声が情けなく震えた。
だか、ぴたり、と。
あれほどの音を立てて動いていたドアノブが、斜めなまま、止まった。




