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「――ッ、ぇほッ! げほっ! ん、んッ! げほっ!」
僕は、ほぼ反射的に、口に入れたものを吐き出した。
吐き出した、というよりは、むせた。
「すっっっ……ぱ!」
食べる前、匂いでなぜ気が付かなかったのか、というくらいに酸っぱい。しばらく食事をとっていなかったからか、そのまま、胃液が出そうなほど、胃がキュッとなる勢いでむせた。
これは捨てても許される味。
この食材を育てた人には悪いが、直感でそう思った。こんなもの、食べられるわけがない。
食べるか、食べないか。その緊張で全然気が付かなかったのだろう。酸っぱい親子丼、ということに気が付いてから匂いを嗅いでみると、凄く、酢の匂いがする。味的にも、肉が腐っているというよりは、酢の味で酸っぱさを感じる。
食べたくなかったのに、これは、食べて正解だった。本当に僕が食べているのか確認するために、母さんはこんな味付けにしたのだろう。
僕は箸を置き、勢いで吐き出して机に落ちた米粒や卵をティッシュに包んでごみ箱へと捨てる。
「食べる前に匂いを嗅いでおけばよかった……」
純粋に、後悔した。酢をそのまま飲んだんじゃないか、というくらい、喉と鼻の奥に違和感がある。
僕は親子丼をそのまま、廊下へと下げた。扉を閉め、カラーボックスを戻す。カラーボックスをいちいち動かすのは面倒だが、僕の部屋の扉には鍵がない。簡単に開けられないためにはこうするしかないのだ。
「――うわ、ッ」
カラーボックスを動かしたせいで、ざらら、と二段目にあったものが雪崩のように床へ落ちる。一段目は漫画とゲーム、三段目には何かよくわからない箱が詰め込まれているが、二段目には、何かの紙類が適当に突っ込まれていた。ちゃんと整理して入れてあったわけではないので、衝撃で紙が滑って、その勢いで中身が全部出たのだろう。むしろ、部屋の奥からここに持ってくるまでに、よく落ちなかったものだ。
広がってしまった紙をそのままにしておくこともできず、僕はそれを拾う。
小テスト、授業参観のお知らせ、部活の日程表、部活のユニフォームの購入用紙……ほとんどが高校時代のものだ。
「……あ」
その紙に紛れ、今更イヤホンが出てくる。ここにあったのか。高校時代、通学中に使っていた、安物のイヤホン。試しに使ってみれば、音質こそ最悪だが、かろうじて音は聞こえる。物持ちがいいのか、それとも、ずっと放置されていたから、壊れるまでに至らなかったのか。
僕は少し考え、イヤホンをさしたままのスマホを持ち、ベッドへと腰掛けた。




