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僕はイヤホンを探すのを諦め、スマホの音量を、少しだけ上げた。多分、もうしばらくは母さんが二階に上がってくることはないはずだから。もちろん、音が聞こえるギリギリの最小ボリュームだが。
イヤホンをひたすら探すより、さっさと話を切り上げてしまった方が早い。
『――ってなわけで、もしカフェに行ってごはん食べるなら、この辺りのメニューがおすすめだよ! ええと、連絡先、連作先……』
僕が母さんの声とやり取りしている間、本当にずっとメニューについて話していたらしい。全く聞いてなかったので、どれが彼女のおすすめなのか、見当もつかないけれど。
連絡先、というので、僕は少し考えてから、住所をコメントに打ち込んだ。
その瞬間、彼女が目を見開いて、『うわ――――ッ!?』と大声を上げた。
『ば、ば、馬鹿か? 個人情報保護はどうした、終わってんのか!? わ、わ、わ、コメント非表示ってどこだっけ!?』
慌てたように、バーチャル配信者特有の、バストアップの絵が、激しく左右を向く。
『こんなところに住所を書き込んじゃ駄目でしょうが! アーカイブ非表示……後からコメントごと編集できたっけ? わー、やったことないから分からん……ッ。あ、やば、巻き戻せる設定になってる? どっちだっけ!?』
バタバタと、彼女がせわしなく、マウスでクリックしたり、何かを打ち込んでいるようで、そんな音が丑師の言葉の隙間から聞こえてくる。
『何考えてるの! あたしが君に、霊能者の連絡先を教えるの!』
怒ったように、彼女が声を荒げる。
もしかして――住所をさらすの、結構まずかったりするのか……?
僕の記憶では、子供の頃、数少ない友人の家に置いてあった雑誌には、個人の住所が掲載されていたはずなんだけど。
銀行の口座番号と暗証番号が漏れたらまずいのは、僕でも分かるけど……と、思ったところで、僕の一般常識は、ほぼ中学、高校くらい、つまりは二十年前で止まっていることを思い出した。今は住所の取り扱いも変わっているのだろう。
謝ろうとして、コメントが書き込めない状態になっているのに気が付く。そういえば、非表示にするって言っていたっけ。
『あああ、もう、一旦配信やめるね! リスナーの皆は、絶対、ぜぇったい、悪用しないで! 信じてるよ!?』
『炎上したくねー……』という言葉が、小さく聞こえた。
相当まずいことをしてしまったのかもしれない。母さんの偽物と対峙したときとは、別の意味でドキドキしてきた。
『後であたしの宣伝用のSNSアカウントにDMしてきて! そうしたら、マスターの連絡先教えるから! おつこんこん!』
彼女がやけくそ気味に挨拶のような文言を言ったかと思うと、ぶちり、と配信は終わってしまった。
――……なんか、もう少し、僕は世間と関り、勉強をしておいた方がいいのかもしれない。




